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崩壊するサッカー・カレンダー 秩序失い大混乱も
サッカージャーナリスト 大住良之

2020/4/2 3:00
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世界中で新型コロナウイルスが猛威をふるい、現在のサッカー界の中心的な調整システムが崩壊しようとしている。「サッカー・カレンダー」である。

1863年にロンドンで誕生し、「3つ目の世紀」に入っているサッカー。しかし21世紀に入ってわずか20年間のうちに、20世紀までの競技とは本質的に違うものとなった。欧州のサッカーがテレビマネーによって「モンスター」のように大きな存在となり、世界中の第一級プレーヤーをかき集めて世界のサッカーを動かすまでになってしまったのだ。

欧州チャンピオンズリーグの試合後、サポーターへあいさつするユベントスのロナルド(左)。欧州には世界中の第一級プレーヤーが集まる=ロイター

欧州チャンピオンズリーグの試合後、サポーターへあいさつするユベントスのロナルド(左)。欧州には世界中の第一級プレーヤーが集まる=ロイター

ワールドカップ上位国のプレーヤーの大半が欧州でプレーするなか、20世紀のサッカーからみると信じ難いほどの高年俸で契約しているスター選手たちを「代表戦だから」と各国のサッカー協会が補償もなく拘束してしまうことに我慢ができなくなった欧州のクラブやリーグが国際サッカー連盟(FIFA)を相手に渡り合い、誕生したのが「FIFA国際試合カレンダー」である。その誕生は2001年。21世紀のサッカーを象徴するものといっていい。

欧州では、クラブチームがそれぞれの国内リーグのほかカップ戦(国によっては2大会)を戦い、そのほかに欧州のクラブカップ(UEFAチャンピオンズリーグ)などを消化していた。そこに欧州選手権とワールドカップの予選と本大会、さらには親善試合といった代表チームの日程を組み込む「カレンダー」が、1970年代から存在していた。

世界からスター集結の欧州に合わせ

だが他の地域では、90年代まで、代表戦はそのときどきの要請に応じててんでんばらばらに行われてきた。アジアにおけるワールドカップ最終予選を振り返ってみればわかる。

94年アメリカ大会のアジア最終予選は93年の10月にカタールに6チームが集まって1回総当たりで戦われた。98年フランス大会の最終予選は、9月から11月にかけて5チーム×2組で争われ、原則として1週1試合、ホームアンドアウェーの全10節で行われた。ともに、現在では絶対に考えられない形式だ。

しかし21世紀にさしかかるころ、欧州のクラブに世界中のスタープレーヤーが集結するようになり、欧州以外の地域でも代表チームの活動を欧州のカレンダーに合わせざるをえなくなってきた。そこで2001年、FIFAは02年から04年までの国際試合の予定を定めた。現在は24年までのものが発表されている。

FIFAは現在、24年までの国際試合カレンダーを発表している(チューリヒのFIFA本部)=ロイター

FIFAは現在、24年までの国際試合カレンダーを発表している(チューリヒのFIFA本部)=ロイター

「FIFA国際試合カレンダー」という名だが、FIFAが勝手に定めているわけではない。欧州の有力クラブの連合体である「欧州クラブ協会(ECA)」、そして公式に認められている「国際プロサッカー選手会(FIFPro)」との調整によって、世界のサッカーの全体の日程のなかで定められた代表チーム活動日という位置付けである。

すきまがないほどぎりぎりの日程に

「FIFA国際試合カレンダー」は、当初は「公式戦試合日」と「親善試合日」の2種があり、拘束できる日数が違っていたが、15年以後は「国際試合日」に一本化され、原則として3、6、9、10、11月に各2試合、それぞれ9日間、プレーヤーを招集できることになった。そしてそれぞれの地域連盟の公式選手権決勝大会に限り、他に日程を入れることができる。アジア各国の代表であれば「アジアカップ」がこれに当たり、直近のものでは19年の1月から2月はじめにかけてアラブ首長国連邦(UAE)で行われ、日本代表の森保一監督も欧州のクラブで活躍する選手をフルに呼ぶことができた。

だが、たとえば昨年6月にブラジルで行われた南米選手権への日本代表の出場や、12月に韓国で開催された東アジアE-1選手権など「カレンダー外(南米選手権はアジアのプレーヤーにはカレンダー外となる)」の大会には、クラブに選手供出を義務づけることができず、Jリーグのクラブの理解と協力を得て日本代表を編成するという形となった。

動かしがたい「カレンダー」に縛られているのは、代表チームのサッカーだけではない。クラブの国際大会と各国の国内リーグ、カップなどで、欧州だけでなく世界のあらゆる地域のクラブのサッカーも、すきまがないほどぎりぎりの日程で行われている。それをなんとか動かしているのが、国際的に合意され、すべてのプロサッカーを拘束する「サッカー・カレンダー」なのだ。

無観客のなか、欧州チャンピオンズリーグでプレーするパリ・サンジェルマンとドルトムントの選手たち(3月11日、UEFA提供)=AP

無観客のなか、欧州チャンピオンズリーグでプレーするパリ・サンジェルマンとドルトムントの選手たち(3月11日、UEFA提供)=AP

その「カレンダー帝国」に襲いかかってきたのが、今回の新型コロナウイルスである。まず発生地の中国チームが出場するアジアのクラブ大会の日程が影響を受け、感染の拡大でJリーグが2月の開幕直後に中断し、3月末の「代表日程」がつぶれてワールドカップ予選が延期になり、欧州各国のリーグ、欧州のクラブ大会も次々と無期延期状態になった。さらには、6月12日から7月12日まで予定されていた欧州選手権と南米選手権(それぞれ欧州と南米の代表チームの地域選手権)が1年延期になった。

今後の感染の広がり次第では、今年のアジア・チャンピオンズリーグやJリーグをはじめとした各国のリーグ、終盤を迎えている欧州チャンピオンズリーグや各国のリーグも、全日程を消化できるかさえ不透明な状況にある。1年後に延期された大会も、(オリンピックを含め)開催できるか疑問視する人も少なくない。

新型コロナウイルスの感染予防のため観客の多くがマスク姿で応援するなか開幕したJリーグだが、全日程を消化できるかさえ不透明な状況にある=共同

新型コロナウイルスの感染予防のため観客の多くがマスク姿で応援するなか開幕したJリーグだが、全日程を消化できるかさえ不透明な状況にある=共同

こうして、今年初めの段階では「不動のシステム」と思われていた世界サッカーのカレンダーの崩壊は時間の問題であるようにみえる。カレンダーは国際的なサッカーの力関係の上に成り立った妥協の産物、「バランス点」であり、それなりの「秩序」を形づくってきた。しかしウイルスまん延の終息のタイミング次第で、そのバランスが崩れ、大混乱に陥る危険性も十分にある。

新型コロナウイルスがもたらす危機は、クラブやリーグの財政悪化や破綻にとどまらない。世界のサッカーの秩序が崩れたら、その打撃は、数年間では収まらないものにもなりかねない。

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