新型コロナ受け消費減税で駆け引き、経済対策の舞台裏
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2020/4/1 2:00
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記者会見する安倍首相(28日、首相官邸)

記者会見する安倍首相(28日、首相官邸)

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2020年度予算の成立を受け、政府・与党は新型コロナウイルスの感染拡大に対応するため、過去最大規模の緊急経済対策の策定を急ぐ。中小企業などへの資金繰り支援の拡充や対象を絞った現金給付、収入が急減した企業などの税金と社会保険料の支払いを原則1年間猶予することが柱となる。与野党から消費税率引き下げなど様々な案が唱えられる中、ほぼ骨格は固まりつつある。その内容と舞台裏とは。

「リーマン・ショック時の経済対策を上回る、かつてない規模の対策を取りたい」

3月28日の記者会見でこう強調した安倍晋三首相。その後の政府対策本部で全閣僚に緊急経済対策の策定と、その裏付けとなる2020年度補正予算案の編成を指示した。

リーマン・ショック後の09年4月、当時の麻生太郎政権は事業規模56兆8000億円、財政支出15兆4000億円の経済対策を決めた。今回の対策はこれを上回る規模となる。

財源はまず20年度予算の予備費を充て、4月上旬に20年度補正予算案を編成して早期の成立を目指す。米国がGDP(国内総生産)の1割に相当する2兆ドル(約220兆円)の経済対策をまとめるなど各国が異例の経済対策を打ち出す中、日本も足並みをそろえる。

経済対策は感染防止を最優先することで窮地に陥っている企業や個人向け支援策と、事態収束後の景気浮揚策が中心となる。

当面の対応策として、中小企業や小規模事業者などを対象に、無利子の融資を民間の金融機関からも受けられるようにする。日本政策金融公庫などが実施している特別な融資制度を民間の金融機関にも広げ、国が利子分の金額を補てんし、実質的に無利子にする仕組みを検討している。殺到する中小企業などの要望に対応するため、体制の拡充を急ぐ。

中小・小規模事業者向けの新たな給付金制度も設ける。雇用を維持した企業に支給する雇用調整助成金もさらに拡充する。正規・非正規を問わず、従業員を解雇しなかった中小企業への助成率を最大9割に引き上げる方針だ。

なお、イベントが中止になって苦境に陥っている業者への支援については、安倍首相は会見で「損失を税金で補填することは難しい。そうでない方法を考えている」と語っており、検討を急ぐ。

■現金給付は所得減少世帯に

家計向け支援では所得が減少した世帯などに対象を絞り、現金を給付する。規模や対象について今後詰める。

税制面の対応も進める。収入が急減した企業などの税金と社会保険料の支払いを原則1年間猶予する特例制度を創設する方針だ。2月以降に収入が大幅に減少した企業や個人事業主などが特例を受けられるようにする。

法人税や消費税、個人事業主の所得税など税金の申告・納付が必要なものを対象とし、延滞税も取らない。企業が負担する年金や健康保険などの社会保険料も猶予の対象にする。固定資産税の減免措置なども検討し、今通常国会で関連法案の成立を目指す。

感染拡大が抑制された段階での対応を巡っては、安倍首相は会見で「旅行、運輸、外食、イベントなどに短期集中で大胆な需要喚起策を講じる」と強調した。政府・与党は使用期限付きの商品券、旅行や飲食などで使えるクーポン券発行などの案を検討している。

安倍首相の正式な指示が出て早々に、骨格がほぼ固まりつつある経済対策。実は、3月上旬には政権内で議論が内々に始まっていた。

政府は新型コロナの感染拡大を踏まえ、2月13日と3月10日にそれぞれ緊急対応策を決定。観光業などの資金繰り支援や、臨時休校に伴って休業する保護者の所得減少を補填する助成金などを打ち出し、19年度予算の予備費を財源に充てた。

だが、経済的打撃が急拡大する中、野党側から「対応が遅い」「20年度補正予算案を早く編成して大規模な対策を急ぐべきだ」といった批判が噴出していた。

政権が悩ましい状況に置かれたのは、予算案審議の重要な時期を迎えていたことだ。国会で20年度当初予算案の審議が続いている間に政府から補正予算案の編成に言及すれば、野党が当初予算案を組み替えるよう求める公算が大きい。3月中に当初予算を成立させなければ予算執行に支障が出る。まずは当初予算の成立を急ぎ、4月に早々と補正予算案の成立を目指すという異例の対応の背景にはこうした事情がある。

家計向け支援の目玉として、野党や自民党の一部が求める消費税率の引き下げは見送る方針だ。3月に入り、自民党の若手有志が消費税率を当面0%にし、30兆円規模の補正予算案も編成すべきだと政府側に提案。さらに同月16日の参院予算委員会で自民の山田太郎氏が消費税率5%への減税や30兆~40兆円規模の追加経済対策を提案すると、安倍首相は「建設的な提言をいただいた」と応じ、財務省や引き下げに慎重な与党幹部の間に警戒感が広がった。

■首相が消費減税に慎重な理由

もっとも、「当初から安倍首相は消費税率の引き下げなど考えていなかった」と側近は明かす。

教育無償化など全世代型社会保障の実現を自らのレガシー(政治的功績)と位置づける首相にしてみれば、その財源を手当てするための消費税率10%への引き上げは必須だ。支持基盤である保守系の一部や野党から批判を浴びながらも引き上げを断行したのに、すぐに方針転換すれば「判断が間違っていた」と非難されかねない。与党幹部も「現場の作業が混乱するうえ、一度下げたら再び税率を上げるのは至難の業になる」など慎重論が大半だ。

それでも安倍首相や政権内から消費減税を匂わせるような発言が相次いだのは、財務省や財政の大盤振る舞いに慎重な自民議員らをけん制し、大規模対策への環境整備を進めようという思惑からだ。財務省幹部は「消費減税が嫌ならそれに相当するようなバラマキを!といった強い圧力に直面している」と漏らす。

消費減税も駆け引き材料にすることで過去最大規模の対策を固めつつある政府・与党。一方で「バラマキ批判」を警戒し、特に現金給付策は慎重に扱うべきだとの認識が広がっている。

リーマン・ショック後の09年に麻生政権が原則として1人あたり1万2000円の定額給付金を2兆円規模で実施したものの、消費に使われずに多くが貯蓄に回った反省があるためだ。

しかも、当時は給付金を国会議員が受け取るかどうかなどを巡って世論から集中砲火を浴び、内閣支持率の急降下を招いた苦い記憶がある。安倍首相が28日の会見で一律の給付を否定し、対象を絞る意向を示したのにはこうした事情も透ける。

会見で、新型コロナの感染抑制について「長期戦を覚悟していただく必要がある」と国民への協力を改めて求めた安倍首相。治療薬やワクチンの開発加速を後押しするとともに、経済状況に応じて、さらに追加の経済対策を用意していくことも辞さない構えだ。

(日経ビジネス編集委員 安藤毅)

[日経ビジネス電子版 2020年3月30日の記事を再構成]

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