返納後に「無免許運転」 高齢者の事故や摘発相次ぐ

スコープ
2020/4/5 2:00
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運転免許証を自主返納した高齢者が車を運転して事故を起こしたり、無免許運転で摘発されたりする事例が全国で頻発している。生活の足を失った不便さに加え、認知症で免許がないことを忘れてしまうケースなどが目立つという。2019年に60万件を超えた自主返納。交通手段が乏しくなる高齢者への支援が重要になっている。

警察庁が高齢者への運転相談を呼びかけるチラシ

警察庁が高齢者への運転相談を呼びかけるチラシ

「ふらふらと蛇行している車がいます」。1月上旬の夕方、千葉県警松戸署員が受けた通報。署員は現場に急行し、県道で軽貨物自動車を停止させた。運転していた男性(86)の呼気からは基準を上回るアルコールが検出され、県警は道路交通法違反(酒気帯び運転)で現行犯逮捕した。

男性は調べに対し「自宅で焼酎を飲んで、子どもを車で迎えにいく途中だった」と供述し、19年9月に免許を自主返納していたことが判明した。男性には認知症の疑いがあるという。

19年6月には、群馬県太田市で80代男性が軽トラックを運転し、自転車の高校生に衝突して軽傷を負わせる事件が起きた。自動車運転処罰法違反(無免許運転過失致傷)の疑いで現行犯逮捕された男性は2カ月前に免許を自主返納したばかり。「普段送迎してくれる家族が不在で、つい運転してしまった」と話した。

東京・池袋で母子が死亡した事故など、高齢ドライバーによる重大事故が頻発し、免許の自主返納は増加傾向にある。

19年は前年から約18万人増え、過去最多の約60万1千件。自主返納した高齢者による事故件数の統計はないが、警察庁によると、65歳以上の無免許運転による摘発は19年に2972件あり、09年に比べ、約1割増えた。

近畿大の柳原崇男准教授(交通計画)は「地方では返納により移動手段を失った高齢者も多い。外出が減ることで認知症の症状が進み、検挙が増える背景になっているのではないか」とみる。

返納者に対し公共交通機関の割引などの特典を付与する自治体もあるが、過疎地域では車がないと生活できないという人も多い。

MS&ADインターリスク総研(東京)が19年、返納しない高齢者に行ったアンケート調査では、回答者の50%が「他の移動手段があっても不便になるため」と答えた。

「家族や周囲から『返納して』と迫られる人が多い。車がなくても暮らすことができる環境整備が必要だ」。65歳以上の高齢化率が4割を超える福岡市内の下月隈団地で自治会長を務める松下征雄さん(80)は語る。昭和40年代にニュータウンとして整備された団地は、坂道が多い。最寄りのスーパーまで歩いて行けない高齢者が増えた。

車がなくても高齢者が快適に暮らせる環境づくりが求められている(福岡市博多区の下月隈団地で開かれた移動販売会)

車がなくても高齢者が快適に暮らせる環境づくりが求められている(福岡市博多区の下月隈団地で開かれた移動販売会)

そのため、自治会は市などと連携して移動販売業者を誘致。今年2月から月2回、団地内で生鮮食品などを販売している。松下さんは「車を手放す高齢者は増えていく。行政の力も借りながら、住民の助け合いで生活の質を保ちたい」と話す。

人口減少時代に入り、地方の公共交通機関が廃止や縮小を迫られるケースが相次ぐ。近畿大の柳原准教授は「車がなくても生活できる街づくりや、住民が協力して移動手段を確保する取り組み、安全運転サポート車の普及促進などを同時並行で進める必要がある」と強調する。

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