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大谷はイニング制限なし エンゼルスの合理的な判断
スポーツライター 丹羽政善

2020/3/30 3:00
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一昨年までエンゼルス監督を務めたマイク・ソーシア氏は、「セイゲンナシ」という日本語を好んで使った。

2018年6月、右ひじの靱帯損傷が発覚すると、大谷翔平(エンゼルス)は、保存療法で投手としての復帰を目指すことになった。7月半ばにキャッチボールを始めると、当初は、強度、距離、球数などに制限が設けられたが、リハビリの経過をソーシア監督は「あと2週間ぐらいで制限なしになる」「次のブルペンでは制限なしになる」などと折に触れて説明した。

大谷は打者として昨季は復活。今季は投手としての完全復帰を目指していた=共同

大谷は打者として昨季は復活。今季は投手としての完全復帰を目指していた=共同

そしてあるとき、「no limitations、 no restrictionsは、日本語でなんて言うんだ?」 というやり取りになり、「制限なし」という言葉を教えられると、以降、米記者がいる前でも使うようになり、いつしか彼らも言葉の意味を理解するようになった。

二刀流で開幕を迎える可能性も

今回、"制限なし"まであと一歩だった。

大谷は3月11日、雨の中でブルペンに入り、今年のキャンプでは最多の59球を投げた。雨ということもあって100パーセントの力ではなかったが、当初から、「3月半ばには強度など、すべての制限を解除できるだろう」とビリー・エプラーGM(ゼネラルマネジャー)は話しており、次のブルペンでは、"制限なし"が見込まれていた。

しかし、12日にキャンプの中断が決まって以降、平地でキャッチボールをしているだけとのこと。「ブルペンに入るのは数週間先になる」と24日に電話会見したエプラーGMは今後の見通しを口にした。大谷は5月半ばに投手として復帰するスケジュールで動いていたが、開幕は早くても6月上旬と報じられる中、ペースを落としたことになる。

キャンプ中断直前、大谷はブルペンでの制限解除間近だった=共同

キャンプ中断直前、大谷はブルペンでの制限解除間近だった=共同

もっとも開幕が遅れたことで、大谷はシーズン当初から二刀流として復活できる可能性が出てきた。通常通り3月26日に開幕していたとしても、開幕から二刀流でのプレーは可能だった。5月半ばに設定されたのは、球団の意向。投手としての起用に制限を設けるつもりでいた。

投球制限でポストシーズン投げられず

トミー・ジョン手術(側副靱帯再建手術)を受けた投手の復帰初年度には、イニング制限などが設けられることが多い。開幕から復帰した場合、その年は「180回が上限」といったような。執刀医らの助言にも基づくものの、難しさも混在する。

10年9月にトミー・ジョン手術を受けたスティーブン・ストラスバーグ(ナショナルズ)は1年後に復活したが、実質的なフルシーズンとなった12年は球団がイニング制限を設け、9月上旬に投球回数が159回1/3に達すると、選手登録から外した。問題はその後だ。チームはワシントンDC移転後、初のポストシーズン出場を果たしたが、地区シリーズで惜敗。ストラスバーグの不在が指摘され、後味の悪さが残った。

ただ、ストラスバーグはその後、ナショナルズの柱となり、昨季のワールドシリーズではMVP(最優秀選手)を獲得し、初制覇の原動力となった。

昨季ワールドシリーズMVPに輝いたストラスバーグ=USA TODAY

昨季ワールドシリーズMVPに輝いたストラスバーグ=USA TODAY

一方、13年10月にトミー・ジョン手術を行ったマット・ハービー(当時メッツ)は、15年の開幕に合わせて復帰を果たした。180、190回という上限が設けられたが、メッツもまた9年ぶりにプレーオフ出場を決めると、球団も本人も難しい判断を迫られた。

ファンやメディアの声に押されて投げたものの…

ハービーはレギュラーシーズンだけで189回1/3を投げており、チームは予定通りプレーオフでの起用を見送る方針だった。本人も同意していたが、ファンやメディアから批判されると、回数制限はレギュラーシーズンだけに適用されるもので、プレーオフは別と自ら解釈を変更し、ポストシーズンでは26回2/3を投げた。

勇気ある決断とも映ったものの、翌年以降、度重なるけがによって輝きを失った。昨年はエンゼルスで再起を期したが、シーズン途中で戦力外に。今季は、所属チームがないまま春を迎えている。

2例だけで是非を論じるのは難しいが、果たしてエンゼルスは今季、大谷にどんな制限を設けようとしていたのか。シーズンが短縮されても、それを適用するのか?

開幕が遅れ、大谷も調整のペースを落としている=共同

開幕が遅れ、大谷も調整のペースを落としている=共同

3月上旬、ミッキー・キャラウェイ投手コーチと話す機会があり、イニング制限を課すとしたら、どのくらいを想定しているのか?と聞くと、彼は「イニング制限は考えていない」と話した。

では、どんな制限を?

「1試合1試合、細かく内容を分析することになる。その日、どんな投球をしたのかを」

7回を投げても、すんなりいくこともある。一方、毎回のように走者を得点圏に背負いながら、なんとか5回を投げ切ることもある。この7回と5回は同じか。イニング数だけで見れば7回の方が多いが、肩肘にかかるストレスは同じなのか、ということである。

他にも細かく肩肘への負担をモニターしていくことになるそう。走者を得点圏に置いた場面で何球ぐらい投げたか? そのときの得点差は? 相手打者は? それぞれで強度が変わるし、同じ満塁でも、同点か10-0でリードする場面ではストレスが異なる。

制限には個人、状況の差も加味すべき

大谷は二刀流選手で他の投手とは登板間隔が違うとはいえ、その点での疲労度も考慮される見込みという。

投球回数を目安にしたほうが管理する側は楽だ。細かく負担の度合いを調べ、年間通してどのくらい投げさせるかを判断する方が、はるかにめんどうだ。しかし、前者は仕事を放棄しているのと同じ。細かく分析したところで正解はないものの、大谷本人のフィードバックも重要視するエンゼルスの考えは極めて合理的と映る。

大胆な発想で弱いチームで奮闘してきたマドン監督。エンゼルス就任1年目、大谷をどう起用していくか=USA TODAY

大胆な発想で弱いチームで奮闘してきたマドン監督。エンゼルス就任1年目、大谷をどう起用していくか=USA TODAY

ここでふと思う。日本の高校野球では、1人の投手の投球数が1週間で500球に達すると、それ以上投げることを認めないという制限を今春の選抜高校野球から導入することを決めた。その選抜大会は中止となったが、今後、運用されるこのルールは理にかなっているのか。

1年生と3年生は同じなのか? 個体差に加え、投球フォーム、過去の故障歴、疲労度といったコンディショニングを考慮しなくていいのか? 

骨折しているのに、絆創膏(ばんそうこう)を貼り付けただけの対策にしか映らない。

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