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悪気ない「就活セクハラ」 踏み外さないための3条件

写真はイメージ=PIXTA

就職活動している学生への「就活セクハラ」はなくせるのか。OB訪問した女子学生への乱暴事件など悪質な犯罪だけでなく、明白な悪意なく就活生を不快にするケースも少なくない。新型コロナウイルスの感染拡大による企業活動の停滞で売り手市場が崩れ、学生側の立場がより弱まる懸念も出始めている。学生、会社の双方にマイナスとなる言動を未然に防ぐための条件を考える。

面接で「彼氏いるの?」

50歳くらいの男性面接官2人が交互に質問してきたという。「親と一緒に住んでいるの? 彼氏はおうちに連れてこられないね」「へぇ、じゃあ彼氏はいるんだ」。千葉県にある女子大の4年生、Aさんは「あ、そうですね」と答えるしかなかったという。「場をなごませるつもりかもしれないけれど、気持ちが悪い。かといって内定はほしかったので、イヤな顔もできなかった」

2019年11月にIT系企業に就職を決めたAさんは、面接を受けた20~30社のうちほぼ半数で恋人の有無を聞かれたという。ベンチャー企業の面接に訪れた際には、男性トップと女性社員、別の女性就活生の計4人で居酒屋に行き、たまたまトップと2人になったすきに「彼氏は?」と尋ねられたこともあった。

同じ学校には、面接後に採用担当ではない複数の社員に声をかけられ、酒席でボディータッチを繰り返されたり、会社説明会の後に若手社員にプライベートで連絡先を聞かれた友人もいる。仲間内ではこうした就活セクハラの「あるある」がよく話題になった。Aさんは「(学校名などで)軽くみられているのかもしれない」と語り、後輩には「就活で夜まで引っ張る会社は気をつけないといけない」と助言する。

都内の有名私大4年の女性Bさんは19年に15社程度の面接を経験したが「セクハラだと断言できるような対応は受けなかった」と話す。それでも中小企業の男性面接官から「お酒は飲めるの? 一緒に飲むのが楽しみだね」などと声をかけられたときは、内心ぞっとした。「小さな会社でアットホームな雰囲気を出そうとしたのかもしれないけれど、やはり面接の場では気持ち悪かった」

就活セクハラを防ぐ取り組みがなされていないわけではない。ある大手金融機関では、民間のマッチングサービスを含めてOB・OG訪問を受ける社員を限定し、事前の研修などで注意事項を伝達している。スーパーなどを展開する大手流通企業も、ペーパーにまとめた質問項目以外は面接官に質問させない措置をとっている。ある航空会社では、OB・OG訪問を受ける社員に自己申告させ、昼食代程度は会社が負担。面接官についても「普段の言動をみてふさわしくない社員は絶対に選ばない」(人事担当)という。

厚生労働省も20年6月に施行する指針で、職場でのパワハラ・セクハラ防止対策の強化を企業に義務づけ、学生インターンや就活生にも社員と同じ方針を示すことが望ましいことを明示した。OB・OG訪問で問題が起きないよう社員研修の徹底なども求めている。

リラックスさせるための発言に注意

企業側が対策を講じ、面接官が頭で理解していても、セクハラと受け取られかねない言動は起こりうる。就活情報のディスコ(東京・文京)の武井房子キャリタスリサーチ上席研究員は「面接前後の待合室を含め、ほとんど無意識に運ぶ視線や、就活生をリラックスさせるためのくだけた発言が危ない」と指摘する。

面接時のあいさつで、容姿を上から下まで見るような視線は禁物だ。特定の就活生だけに笑顔や丁寧な言葉遣いで接したり、「ちゃん」づけで呼びかけたりするのは、本人だけでなく、周囲の反感も招きかねない。

性的な質問や体への接触だけでなく、そうした悪意が乏しいセクハラも防ぐために、会社側はどこに気をつけたらいいのか。就活生や専門家の意見をまとめると、次の条件がそろった言動が大切になる。(1)社員としての能力・人柄を判断するのに必要(2)相手が男女どちらであっても同じ対応ができる(3)就活生個人への敬意を忘れていない――の3つだ。

就活生からは「たとえ内定をもらえなくても、人として対等に遇してくれた会社や面接官には好印象が残る」(都内の有名私大4年の男性)との声があがる。ディスコの武井さんも「就活生はセクハラ対策が進んでいる企業も回っている。各社は『見られている』『比べられている』ことを忘れずに対応することが大事だ」と語る。

新型コロナウイルスの影響はどうか。就職説明会や面接などのオンライン化が進めば、体に触れるなど従来型のセクハラは起きにくくなる。それでも、企業業績の悪化で採用人数が抑えられる事態になれば、学生の立場が弱まり、力関係の変化が会社側の気の緩みを生む可能性はある。

労務や就職問題に詳しい今津幸子弁護士は「就活生を下に見る勘違いが会社側の言葉に出る懸念はある。失言があればSNS(交流サイト)ですぐに拡散される時代になっており、それは企業の評価を下げるリスクになる」と警鐘を鳴らしている。

採用活動は会社のコントロール下で

労働法制に詳しい今津幸子弁護士

企業にとっての就活セクハラのリスクなどを今津弁護士に聞いた。

――会社側が採用面接の質問で気をつけるべきことは何でしょうか。

「『それを聞いてどうするの』という質問はしないことだ。会社にとってはリスクしかない。聞くべきなのは、その人材が入社後にどう役立ってくれるのか、会社に対してどれだけ熱意をもってくれているのかであって、個人的な興味ではない。そこに男女の差なんてないはずで、例えば女性にする質問を、同じように男性にするかどうかを考えればわかる。面接官が会社の看板を背負っていることをきちんと自覚していれば、できる質問、できない質問、おのずと線引きできるはずだ」

「場をなごませたいのなら、恋愛のことではなくて、面接官が海外旅行など自分の趣味を話せばいい。握手などのボディータッチがいけないのは、職場も同じだ」

――OB・OG訪問での注意点は。ネットを通じたマッチングサービスの普及で社員と就活生が非公式に接触しやすい環境になっています。

「会社のコントロールが効かない採用活動はすべきではないと思っている。悪意をもった社員個人の動きが就活の一環だとみなされたら、使用者責任は会社が負うことになる。就活生の訪問を受けられる社員を選別してもいいと思う」

「内定者との懇談会などを含め、お酒が入るときはより気をつけないといけない。会社によっては『飲食なし』にしているくらいだ。打ち解けるからこそ、話せることもあるのはわかるが、さじ加減がきちんとできないといけない」

――会社としてセクハラを未然に防ぐために必要なことは。

「遠回りであっても研修・教育がすべてだろう。10年前までは加害者を『仕事はできる人材だから』と擁護する風潮が多分にあった。今はセクハラする側が100%悪いというのが常識になってきた」

「セクハラ対策はトップダウンで進めるべきだ。トップが『昔はおおらかだったのに』と言っている会社ではセクハラは絶対なくならない。今ならセクハラと言われかねないことを、トップ自身がかつてしたことがあったとしても『心を入れ替えて、少なくとも今はセクハラはいけないと思っている。だからこそ本当に気をつける』と言えば、社員も理解してくれるのではないか」

――企業が就活セクハラを起こした場合の最も大きなリスクは。

「『見えないレピュテーション(評判・評価)』ではないか。学生の立場からすると、セクハラ被害を堂々と訴えるのは相当に勇気がいる。ほとんどが泣き寝入りだと思う。それでも受けた側にとっては忘れられない出来事。何かのきっかけで、突然に報道などで顕在化すれば、スキャンダラスに扱われる面もあって、企業のダメージは非常に大きい」

(天野豊文)

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