「和製バフェット」からの伝言 債務バブルに警鐘
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コラム
2020/3/31 2:00
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お金の取り扱い説明書、トリセツの最重要ルールは「学び」。そこで今回は先人の声に耳を傾けてみたい。成功につけ失敗につけ、先人の声は学びに満ちる。

「投資の神様」ウォーレン・バフェット氏=ロイター

「投資の神様」ウォーレン・バフェット氏=ロイター

「投資の神様」といえば米国の投資家ウォーレン・バフェット氏。相場の暴落時に冷静にマーケットに向き合い将来にわたって成長する株を割安価格で仕入れたら、あとは長期保有のバイ・アンド・ホールドの投資スタイルで有名だ。

日本にも「和製バフェット」と呼ばれた個人投資家がいた。竹田和平さん。タマゴボーロで知られる菓子メーカーを経営しつつ、ピーク時には150社近くの日本企業の大株主に名を連ね、資産総額は数百億円とも言われた。

バフェット氏より2歳半年下の和平さん。リーマン・ショックや東日本大震災……株式市場が動揺する度、話を聞いた。おしゃれな作務衣(さむえ)姿にえびす様のような温顔。「株価の水準予想」や「この局面で買える株」といった記者的には重要な質問を、まるっとスルー。「そういうのは投資の"劣情"だがね」。代わりに「配当金は配徳金」「資本主義ならぬ徳本主義の社会に」といった独特の名古屋弁による「和平語」で投資の神髄を語った。今思えば、資本主義には節度が必要という訴えだった。

「日本一の個人投資家」として知られた竹田和平氏

「日本一の個人投資家」として知られた竹田和平氏

2016年に83歳で亡くなったが、実は生前、長期投資家ならではの独自の歴史観に基づいて警鐘を鳴らしていた。予見していたのは、いま金融市場でみられる「キャッシュ・イズ・キング(現金が王様)」の先をいく「フード・イズ・キング(食べ物が王様)」の事態だ。

「いざというときに家族や従業員を養う食糧を倉の中に運び込むことを考えている。食えんかったらアウトだからね」

新型コロナウイルス拡散防止のために世界中で外出禁止令が出され、備蓄用の日用品に人が群がる様子を見たら「ほら、言ったがね」と膝を打ったに違いない。

リーマン後の2009年のことだが、株価下落におびえての発言ではない。むしろ逆。「株は死なない」とバフェット氏同様、割安になった株の仕込みに余念がなかった。警戒していたのは株式ではなく債券市場を舞台に起きる債務バブルの崩壊である。

「現金や国債は国家が刷る『紙』で、それ自体に何の価値もない。インフレになったらひとたまりもにゃあで。でも株は価値を生み出す。株や不動産は"死んだふり"をすることはあっても、全体として完全に死ぬことはない。時間はかかっても戦災をくぐり抜け生き延びる」

「コロナ前」の19年末でさえ世界が抱える債務残高は過去最大の約250兆ドル(2京7500兆円)。そこにさらにコロナ対策として20カ国・地域(G20)で5兆ドル(550兆円)の資金拠出が上積みされる。中でも債務残高の国内総生産(GDP)比が約240%と主要先進国中、最悪の日本の財政へのダメージは大きい。目の前の経済底割れを防ぐための財政出動がいずれ崩壊を招くという「予言」が思い起こされる。

洞察の土台になっていたのが、時代が80年ごとに一巡りするという独自の「80年周期説」だ。和平カレンダーによると今は冬の時代のど真ん中。

竹田和平氏は債務バブルの崩壊を警戒していた

竹田和平氏は債務バブルの崩壊を警戒していた

「これから(注:2009年)、経済は春夏秋冬で言えば冬の時代を迎える。20年ずつ80年周期で一巡り。80年前の1929年の世界恐慌から1周して冬が始まる。何が起きるか? 財政バブルが破裂するがや。バブったものは必ずパニくる。前回の恐慌の後は、戦争に突入した」

終戦とともに前回の冬の時代が壊滅的な終わりを迎えたのが1945年。そこから80年後の2025年にかけ戦争に匹敵する大きな試練を迎えるとみていた。それでも和平さんは倉でモノやカネを抱えて縮こまれ、とは決して言っていなかった。「投資は善なり」――それが人生を貫いた揺るぎない信念だった。

「『資』を『投げる』のが投資。株式市場に投げたお金は会社を通してグルグル世の中を回る。会社経営はそもそもが社会貢献。モノやサービスを売って喜んでもらって、利益を生んで、それをまた投資に回す」

投げた後のお金は気にしない。さながら農業と同じ。目的が毎年実を付ける収穫なら「畑の価格の上下なんて気にせんだろう」と笑った。畑の価格が株価、毎年の収穫が配当金という位置づけだ。何より「結果という花を咲かせられるのは種をまいた人だけ」。投資をしなければ損もないが、得るものもない。現在進行中のコロナ・ショック、さらにその先、万一の債務バブル崩壊に備えながらも、私たちは種まきを怠ってはならない――それが日本一の個人投資家からの伝言だ。

山本由里(やまもと・ゆり)
1993年日本経済新聞社入社。証券部、テレビ東京、日経ヴェリタスなど「お金周り」の担当が長い。2020年1月からマネー編集センターのマネー・エディター。「1円単位の節約から1兆円単位のマーケットまで」をキャッチフレーズに幅広くカバーする。

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