何もかも国任せ それでいいのか?(澤上篤人)
「ゴキゲン長期投資」のススメ さわかみ投信会長

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2020/4/1 2:00
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写真はイメージ=PIXTA

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投資業界のカリスマの一人、澤上篤人氏が考える長期投資のあるべき姿を、同社最高投資責任者の草刈貴弘氏との対談形式で紹介する。

■亡国への道をひた走る日本人

澤上篤人(以下、澤上) 最近の日本では何か事があると、すぐに非難の矛先が国に向かう。年金が足りない、福祉を充実させろ、老後の暮らしは国が保障しろ……。そういった風潮が、どんどん強くなってきている。本当にそれでいいのか? 何もかも国任せにした時、我々は、どこに行き着くのか?

そもそも「国とは国民が支えるもの」ということになっているはずだ。ところが今の日本では、何もかもお国任せで頼りっ放し。そんな国民にぶら下がられた国は一体どうなってしまうのか。

草刈貴弘(以下、草刈) 国が何とかしてくれるだろうという他人任せの根性が染み付いていますよね。そして思い通りにならないと「国は何をしているんだ!」と怒りをぶちまける。気持ちは分からないでもありませんが、国が面倒を見てくれなければ自分たちで動くしかないでしょうに……。

日本社会にはどこか「官尊民卑」という雰囲気があります。民間の営利活動は規制で厳しく縛り付けるのに、官や公はその規制を守らなかったり、後から変更したりする。それが理由でビジネスの現場が混乱しても、官のしたことは誰も責任を取りません。それでもなお、国民は国が最終的に何とかしてくれると信じている。結局、この国は官も民も責任を取りたくないということなんでしょうか。

澤上篤人氏(写真:竹井俊晴)

澤上篤人氏(写真:竹井俊晴)

澤上 そんな国は国民もろとも滅んでいくしかないだろう。そう、今の日本は亡国への道をひた走っているのだ。

戦争中の困窮生活を経験し、戦後、がれきの山から立ち上がってきた世代が、今、社会の第一線からどんどん退いている。国の施しなど待っていたら餓死するほかなく、食っていくため、生きていくために何もかも自分たちで頑張るしかなかった世代だ。

草刈 私の祖父母は「あの戦争で考え方が激変した。まさにパラダイムシフトだった」と言ってました。

それまでの常識が非常識になるのだから、自前で価値観の物差しを用意するしかない。というより、まずは食べていかなくてはならないという感じだったのでしょう。

■国に回したツケは自分に返ってくる

澤上 今、社会の中心を担っているのは高度成長以降の繁栄とバブル崩壊後の長期停滞しか知らない世代だ。この世代は自分でもがき苦しんで豊かさを手にしたわけではない。生まれた時から社会は豊かだった。

そしてこの30年間、あって当たり前の豊かさを失う不安を募らせてきたのだろう。だから国に何もかも頼り、甘えることで不安感を払拭しようとしているわけだ。自分の頑張りで難局を切り抜けよう。そういった自助・自立の精神も気概も全く感じられない。

草刈 澤上会長は団塊の世代だと思います。戦後の焼け野原も高度経済成長も知っているし、ニクソン・ショックやオイルショック、そして平成のバブルと崩壊も体験している。安保闘争や学生運動では国とも対峙した。本当に激動の時代を生きてこられた。だからでしょうか、我々世代とは現状に対する認識が少し違う気がします。

激動という程ではありませんが、経済がジリジリと弱り、しまいには人口減と高齢化が一緒に来るぞと脅かされ続けてきた我々世代に、明るい未来のために自力で頑張れというのは少し酷だと思います。

ただ、最近、とあるセミナーで「大人の責任」という言葉を耳にしてドキッとさせられたんです。

自分もかつては将来を悲観する若者の一人で、未来が暗いのは親世代のせい、大人のせいだと決め付けていました。でも時がたてば自分も晴れて大人の仲間入りです。つまり、将来が暗いのは、結局、自分のせいだということになる。ここでハッと気付いたんです。自分で解決するしかないと。

澤上 何もかも国任せ、国におんぶに抱っこを続ければ国の負担は重くなっていく。そのツケは、最終的に国民に回ってくるのは、歴史の証明するところだよね。

肥大化する一途の財政赤字を野放図な国債発行や、日銀による事実上の財政ファイナンスで賄っていれば、いつか限界が来る。その間には紙幣の価値も下がり続けており、いずれとんでもないインフレに襲われるだろう。

■今大切なのは経済を回すこと

草刈 国が借金をしているのは、税収が足りないということはもちろんですが、企業も個人もお金を貯め込んで使わないからだとも言えます。皆が必要以上のお金を抱え込み、金利はマイナスまで沈んでいる。預けても増えない銀行預金の残高が増え続けているのを見ると、何ともったいないことをしているのかと思います。この資源を使い、経済を活発化させるだけでも、民間主導の景気対策と自助・自立の両方が達成できます。

澤上 そのあたりは、我々がずっと世に提唱し続けている点である。日本の個人や家計はGDP(国内総生産)の1.6倍強のお金を預貯金に眠らせている。その3%でも5%でも消費に回してくれたら、それだけでも日本経済は5~8%の成長を遂げられるのだ。

5%とか8%も経済が成長すれば、給料やボーナスはびっくりするほど増える。つまり、お金を使ったものの、逆に増えて戻ってくる。これが経済というものだよ。

消費をためらうのなら、長期投資に回してもいい。本格派の長期保有型ファンドを購入すれば、生活者に欠かせない企業を応援する方向で、お金に働いてもらえる。そう、個人の資金が経済の現場に投入されることで、経済活性化に大きく貢献するわけだ。

国なんぞに頼らなくとも、いくらだって給料を増やせるし、日本の将来を明るくできる。

草刈 関東大震災後、焼け野原になった浅草に「君よ、散財にためらうなかれ。君の十銭で浅草が建つ」と書かれた看板が立ったそうです。

散財の必要はありませんが、消費で経済が回れば復興が早まるというのは真理でしょう。生きたお金の使い方を考えさせられます。この看板、立てた人は不明ですが、負けてたまるかという気概を感じます。誰かに頼るのではなく、自分たちで立ち上がろう。一人ひとりが動けば復興できるはずだという信念です。「国が悪い、大人が悪い」と言うばかりでなく、気付いた人から動き出せば、日本の将来も必ず明るくできますよね。

草刈貴弘氏(左、写真:竹井俊晴)

草刈貴弘氏(左、写真:竹井俊晴)

澤上篤人
1973年ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。ピクテ・ジャパン代表取締役を務めた後、96年あえてサラリーマン世帯を顧客対象とする、さわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立

草刈貴弘
2008年入社。ファンドマネジャーを経て13年から最高投資責任者(CIO)

[日経マネー2020年5月号の記事を再構成]

日経マネー 2020年5月号 1万円からの勝てる株式投資入門

著者 :
出版 : 日経BP
価格 : 750円 (税込み)

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