「懐石喜劇」心の霧晴らす(演劇評) 
プロジェクトKUTO-10「なにわひさ石本店」

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関西
大阪
2020/3/27 2:00
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味のあるキャラクターたちを工藤俊作(中)らが好演した=山田 徳春撮影

味のあるキャラクターたちを工藤俊作(中)らが好演した=山田 徳春撮影

文化が遮断されている。新型コロナウイルスの影響による、相次ぐ公演中止。厳重な危機管理の下、規模を縮小してでも、人々の心に届けることはできないものか。得体(えたい)の知れない不安の底から、文化が救い出してくれることもある。

プロジェクトKUTO-10が「なにわひさ石本店」を上演(3月7日、大阪市のウイングフィールドで所見、村角太洋作・演出)。消毒、空気清浄、場内の窓を開放、換気。座席数を減らし限定、間隔をあけた。

大阪の料亭の調理場が舞台。板前や仲居の慌ただしい開店準備から始まる、ある1日の話。見習いの神崎川(長橋遼也)は板前を支え、今や店の戦力。見守る先輩達。だが実は、店を辞めようとしていた。一方、仲居の豊田(松浦絵里)は、大阪弁がうまく話せないことに気づき、無口になる。女将(久野麻子)は神崎川に恋をしたせいと誤解する。

勘違いがさらなる誤解に発展する喜劇。個性的なキャラクター造形が絶妙。板前役の工藤俊作・久保田浩・保が、笑いのツボを押さえた台詞(せりふ)回しと間合いで、味わい深い演技。「懐石喜劇」と銘打ち、向付から水物(デザート)までの料理の構成のごとく、物語の起承転結がリズム感に満ち、痛快。すべての勘違いが解け、神崎川も店で修業を続ける決意をするまでが描かれた。

温かい職場の関係の描写。ほのぼのとした笑い。未曽有の災害により緊張した心身がほぐれる。軽妙な大阪弁がいとおしい。地元の生活言語が与える安心感。観客も節度がある。スタッフがマスクを配布しようとしても、誰も手を上げない。持参している、それ以上は求めない。客席の共感。久しぶりに演劇に触れ、心の霧が晴れた。――希望を。

(大阪芸大短期大学部教授 九鬼 葉子)

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