コロナ・ショックでもREITに強気な理由
アイビー総研代表・関大介

オフィスビルやマンションなどの不動産物件に投資し、賃料や不動産の売却益を得て、それらの収入から分配金を投資家に還元するREIT(不動産投資信託)。分配金を定期的に受け取るインカムゲインだけでなく、REIT自体の価格が上昇すれば、売却益によるキャピタルゲインを得ることもできる投資商品だ。このREITで大きな売却益を上げるチャンスが到来している。REITの相場が急落したからだ。
相場が崩れたきっかけは、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大だ。それが招いたパニックによって、株や金など値下がりに伴って損を被るリスクを伴う多くの投資商品で、投資家が売却して資金を引き揚げる動きが広がった。REITも例外ではなく、世界的に相場が急落した。

日本のREITの総合的な値動きを示す東証REIT指数は、今年2月20日には2250.65まで上昇。2008年のリーマン・ショック以降の最高値(19年10月23日の2262.32)の更新が視野に入っていた。それが一転して急落。3月19日には1145.53まで下がり、わずか1カ月で半減した。この下げ幅は、リーマン・ショック直後に匹敵する大きさだ。
REITの売却が広がった2つの理由
コロナ・ショックで損失リスクを伴った投資商品を売却して現金化する動きが広がったことに加えて、REITに特有の2つの要因が売却を加速した。まずは、REITを大量に保有していた国内の地方銀行が投げ売りに走ったことだ。売却して損失の拡大を抑える「ロスカット(損切り)」を行う必要が生じる水準までREITの価格が下落し、売却を余儀なくされたほか、経営環境の厳しい地銀がREITを売って現金を確保しようとする動きも出た模様だ。
2つ目の要因は、世界的にREITが投資している物件の収益が悪化する懸念が生じていることだ。例えば新型コロナの影響が比較的軽微なシンガポールですら、REITの投資先の物件に対して、借り手が賃料の引き下げを要請する動きが出ているという。欧米の状況はさらに深刻だ。新型コロナの感染拡大の防止を目的とした都市封鎖で閉鎖を余儀なくされるなど、多くの商業施設が存続の危機に立たされている。
こうした状況を受けて、賃料を引き下げてテナントをつなぎとめようとする動きが広がりかねない情勢になっている。日本のREITが投資している物件の状況はまだそこまで深刻ではない。それでも、物件の収益悪化懸念を背景に世界的に広がったREIT売りの流れには抗しきれず、その大波にのみ込まれた面もあったとみられる。
米国債の利回り低下が追い風に
3月19日に安値を付けた後は、割安感に着目した投資家の買いや日銀の購入によって、3月23日以降は急伸。東証REIT指数は3月27日に1541.74まで回復した。新型コロナの感染拡大に歯止めがかかっておらず予断は許さないものの、先高観は強い。私は遅くとも今年6月以降には大幅な上昇局面が到来する可能性が高いとみている。背景にあるのは、米国の10年物国債の利回り急落だ。

19年の初めには2.7%を超えていた10年物国債の利回りはそこから下がり続け、同年9月には1.5%を割り込んだ。これを受けて、利回りのより高い投資商品を求める投資家が、分配金を価格で割って算出した分配金利回りが高くなっていたREITを購入。REITの価格は世界的に上昇し、先述のように東証REIT指数は19年10月に08年のリーマン・ショック以降の最高値を付けた。
今回も同様に利回りのより高い投資商品を求める「イールド・ハンティング(利回り狩り)」が広がり、REITが買われて価格が大きく上昇することが期待できそうだ。米10年物国債の利回りは、3月上旬に一時過去最低の0.3%台にまで低下。足元ではそこから利回りがやや上昇したが、それでも1%を大きく下回って推移している。新型コロナによる混乱が収まり、投資家がリスクを取って積極的に投資を行う状況になれば、イールド・ハンティングの動きが再燃するだろう。価格の急落に伴って分配金利回りが再び高くなっているREITが買われて、大きく値上がりする余地は大きい。
海外に比べて際立つ日本のREITの安定性
REITがオフィスや住宅などの賃料を収益源としている点も見逃せない。賃料は景気が悪化しても、すぐに大きくは変動しない。新型コロナの影響で国内の内需関連企業の業績が悪化する可能性は高い。それに伴って、物件の借り手である企業や個人の収入は大幅に減ると予想されるが、それでもREITの収益は安定して推移すると見込まれる。このため、投資家が消去法的にREITの購入に向かうことも想定される。
日本のREITには、海外のREITと比べた別の強みもある。その一つが、分配金や売却益が為替変動で目減りするリスクが少ないことだ。海外REITの場合は、為替が円高に振れると、日本円で受け取る分配金や売却益が目減りするリスクが付きまとう。そして、今後円高になる可能性は低くはない。米国の中央銀行である連邦準備理事会(FRB)が実質的なゼロ金利政策を導入し、日本と米国の金利の差が縮まっているためだ。
両国の金利差が縮小すると、円高・ドル安になりやすい傾向がある。3月下旬時点では「有事のドル買い」が起きて1ドル=110円台の円安・ドル高になっているものの、マイナス金利政策を取っている日銀には、マイナス金利をさらに深掘りして日米の金利差を広げる余地が乏しい。そのため、今後円高になるシナリオが色濃く残っている。
また、日本における新型コロナの影響は他国に比べるとまだ軽い。米国や欧州のような本格的な都市封鎖は、3月下旬時点で日本ではまだ起きていない。テナントから大幅な賃料の引き下げ要請も生じておらず、投資先の物件の業績が悪化するリスクが顕在化していない日本のREITの安定感は際立っている。
仮に金融市場の混乱が落ち着いて円高が進み、利回りの面で他の投資商品に対するREITの優位が鮮明になれば、REITの価格は大きくV字回復するだろう。東証REIT指数が2300を超え、リーマン・ショック後の最高値を更新する展開もありそうだ。
狙い目は住居と物流施設に投資しているREIT
では、国内REITでどのような銘柄を狙うべきか。景気後退懸念が強いため、景気の動向に賃料収入が比較的左右されやすいオフィスビルに投資しているタイプは、機関投資家の売りを受けやすい。消費が鈍化する中、商業施設に投資しているREITの価格も上昇は期待しにくい。訪日外国人の減少が見込まれるだけに、ホテルに投資するタイプも当面は厳しいだろう。
そうした中で注目すべきは、マンションなどの住居、もしく倉庫などの物流施設に投資しているREITだ。両方とも賃料が景気の動向を反映するまで時間がかかるタイプのREITで、投資先の物件の収益悪化に伴って分配金が減少するリスクは比較的小さい。
リーマン・ショックの後でも、超高級賃貸の物件を除けば、マンションの賃料はほとんど下がらなかった。そして、REITは賃料が下がる懸念の少ない物件を選別して取得している。物流施設に投資するREITについては、巣ごもり消費に伴うネット通販の利用拡大で、物流倉庫の需要はむしろ高まると考えられる。コロナ・ショックで十把ひとからげに売られてしまっていたREITだが、将来の本格的な回復局面に備えてじっくりと銘柄を選別していくといいだろう。

不動産証券化コンサルティング及び情報提供を行うアイビー総研代表。REIT情報に特化した「JAPAN-REIT.COM」(http://www.japan-reit.com/)を運営する。
[日経マネー2020年5月号の記事を再構成]