揺れない、にじまない 使って驚くボールペン
納富廉邦のステーショナリー進化形

新年度が始まった4月。この機会に、いつもとは違うボールペンを使ってみてはどうだろう。文具を長年見続けてきた納富廉邦氏が、その使いやすさに驚いたという最新のボールペンを紹介する。
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文房具や筆記具というのは電化製品やデジタル機器、ガジェットなどとは違い、そうそう毎年毎年新製品が出てくる業界ではない。それこそ大ヒットしたパイロットの「フリクションボール」は開発に10年かかっているし、三菱鉛筆の「ジェットストリーム」だって長い時間がかかっている。
なので、文具の新製品というと通常、ペン軸に新色が出るとか、インクの新色が出るといった形が一般的。前に紹介した三菱鉛筆の「ジェットストリームエッジ」(記事「超極細と自己修復 新世代ジェットストリーム開発秘話」参照)や、ゼブラの「クリッカート」(記事「メーンの筆記具にしたい快適さ 個性派サインペン続々」参照)などが立て続けに登場すること事態が異常なのだ。
しかし、本当に優秀な日本の文具メーカーは、どこかが毎年画期的な新製品を出してくるのも事実。ならば紹介したくなるのも仕方ないところだろう。ここでは春の最新筆記具3つを紹介する。
「ブレン3C」/ペン先揺れず、ストレスない書き心地

ゼブラの「ブレン」は、筆圧をかけるとノック式ボールペンのペン先が微妙に揺れるという点に着目し、その揺れを制御することで書きやすさを追求した製品。ペン先がブレないことで、思った通りのところに線が書けるし、ペン先が軸の先の穴に当たってカチャカチャ言うこともないため、書くことで感じるストレスが少ない画期的な油性ボールペンだ。その洗練されたデザインと機能に加え、150円という見た目や性能からは安過ぎるとも思える価格もあって2018年12月に発売され、大ヒットした。
今回紹介するのは、その3色ボールペン版「ブレン3C」だ。
筆者は大ざっぱな性格なのか、最初に「ブレン」を使ったとき、確かにカッチリとした書き心地でブレないとは思ったものの、それが他のノック式ボールペンに比べて、大きく違うとは思えなかった。良くできた筆記具だとは思ったけれど、これでなければというほどではなかったのだ(ただ、持ちやすく書きやすいので愛用してはいるのだが)。
ところが、この「ブレン3C」は書いた瞬間に驚いた。自分が多色ボールペンのペン先の揺れにストレスを感じていたということが、書いた瞬間に理解できてしまったのだ。
実際、単色のボールペンに比べて、多色のボールペンの方がペン先のブレは大きい。ただ、それはそういうものだと割り切って使っていて、特に書きにくいと思うこともなかった。しかし、気づかないうちに身体は書きにくさを感じていたのだろう。それがいきなり分かってしまった。

他にもスリムなデザインや、よく使う黒の芯はボディー裏に配置された大きなボタンで出すことができるようになっているなど、使い勝手も考えられている。価格も400円と安いから、とにかく、一度試してもらいたい。書いて驚きがあるペンというのも、そうそう出るものではないのだ。

「ユニボール ワン」/にじまず、すぐ乾くゲルインク

三菱鉛筆の「ユニボール ワン」は、新しく開発されたゲルインク「ユニボールワンインク」を搭載した、ゲルインクボールペン。三菱鉛筆はこれまでも、エッジレスチップで細字ながらカリカリした書き味になりにくい「ユニボールシグノRT1」や、世界で初めてセルロースナノファイバーを実用化して滑らかさを向上させた「ユニボールシグノ307」など、新しいゲルインクボールペンの開発に力を入れていた。その最新の成果が「ユニボール ワン」だ。
このボールペン、シンプルな白軸のスマートなデザインも良いが、やはり特長は、そのインクにある。顔料インクを使っても、ゲルインクはもともと水性であり、紙への浸透が油性インクに比べて多かった。そのため、どうしても多少のにじみが起こり、薄い紙では裏写りしたり、インク本来の発色にならなかったりした。
そこで、三菱鉛筆は顔料を粒子の中に閉じこめて、顔料の粒自体を大きくすることで、紙への浸透を押さえることに成功。発色も濃く、裏写りしにくくクッキリした文字が書けるようになった。
にじまず速乾性も高いので、紙やTPOを選ばずに書けるペンに仕上がった。実際、濃い色の紙に書くと、その文字のクッキリさがよく分かる。インクが浸透せず紙の上で定着している様子も見て取れるだろう。黒い紙に黒いインクで書いても、光の当て方次第でしっかり読めるほどなのだ。
色数も多く、線幅も0.38ミリと0.5ミリの2種類が用意されているから、メモには0.5ミリ、手帳には0.38ミリと使い分けもできる。0.38ミリは20色、0.5ミリは10色とインク色も豊富で、しかも大人が使える渋い色がいくつもある。クッキリ書けると、書くときも読むときも見やすく、ストレスにならない。日常使いの筆記具として、早くも手放せないペンになっている。

「PENCO バレットボールペン」/小型でデザイン性も高い

最後に取り上げるのは、上記二つとは趣を変えて、ギフトにも使えるコンパクトな油性ボールペンだ。
PENCOは、「マイアミのショッピングモールにある文具店のワゴンセールで見つけた掘り出し物」的なデザインをコンセプトにハイタイドが立ち上げた架空のブランド。ちょっとしゃれた、でもそれだけではない使いやすさもあり、しかも、パッケージが古き良きアメリカの量産品の面白さを感じさせる絶妙なデザインでファンも多い。今回紹介する「PENCO バレットボールペン」も、まず、そのパッケージがカッコいいのだ。こういうワクワクするデザインをさせると、PENCOは本当にうまい。

そのパッケージの中には、小さなペンが入っている。弾丸を意味するバレットが製品名になっているように、流線型の小さなペンだが、キャップを外して尻軸にさせば、書くのにちょうどいい長さのボールペンになるのだ。
ポケットに入れても邪魔にならず、キャップ式だから服が汚れる心配もない。真ちゅう削り出しのボディーはもちろん、各パーツも国内生産で精度も高い。
ギフトにも自分用にも使えて、価格もリーズナブル。リフィルは4Cが使えるので、それこそジェットストリームの替え芯だって入れられる。デザインも機能も、筆記具としてハイクラスの、それでいて雑貨テイストもあふれるボールペンなのだ。
佐賀県出身、フリーライター。IT、伝統芸能、文房具、筆記具、革小物などの装身具、かばんや家電、飲食など、娯楽とモノを中心に執筆。「大人のカバンの中身講座」「やかんの本」など著書多数。
(写真 渡辺慎一郎=スタジオキャスパー)
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