米与野党、雇用悪化に危機感 2兆ドル経済対策で合意
【ワシントン=河浪武史】トランプ米政権と与野党の議会指導部は25日、新型コロナウイルス対応で2兆ドル(約220兆円)の景気刺激策で最終合意した。11月の米大統領選への思惑から与野党がそれぞれ独自案を提出するなど一時は迷走したが、急速な雇用悪化への危機感が党派を超えて強まり、早期成立へと方向転換した。
ホワイトハウスは当初、8500億ドルの景気対策を検討したが、トランプ米大統領が1兆ドルへの積み増しを要求。議会での調整過程で医療機関への資金供給や地方財政の支援なども加わり、最終的には財政支出は過去最大規模に膨らんだ。
財政支出が想定よりも大幅に膨らむのは、外出制限や店舗閉鎖で米経済が急速に落ち込んでいるためだ。JPモルガン・チェースは12日、4~6月期の米成長率が3%のマイナスに転落するとの予測を発表したが、18日にはマイナス14%へ大幅に下方修正した。米連邦準備理事会(FRB)の次期議長候補の一人であるセントルイス連銀のブラード総裁は22日、「最悪なら失業率は30%に達する」と警告した。
にもかかわらず与野党協議は難航した。政権と共和党案は当初、5000億ドルの企業支援を盛り込んだが、民主党は「労働者を優先すべきだ」と反論。トランプ政権が自らの裁量で救済する企業を選べば大統領選や連邦議会選の集票に使われかねないとも批判し、揺さぶりをかけた。
早期の妥結を切望したのはトランプ大統領だ。24日には「経済活動を復活祭(4月12日)までに再開したい」と述べ、米国民に求める行動制限を緩める考えも示唆した。大統領選までに新型コロナと景気悪化を克服した強いリーダーであると示すためには景気刺激策の早期実行が欠かせないと判断、民主党提案の一部を受け入れた。
民間金融機関は米経済のV字回復を予測する。JPモルガン・チェースは7~9月期には成長率が8%に急回復し、10~12月期も4%成長を見込む。米経済は雇用が調整弁となるため失業者の大幅増は避けられないが、企業倒産を最小限にとどめられれば底打ちも早い。2008年9月の金融危機時も米経済は震源地でありながら、09年7月には主要国でいち早く回復軌道に戻っている。
懸念材料も残る。一つは新型コロナの感染拡大に歯止めがかからなければ、追加対策が必要になることだ。今回の対策は短期の資金供給に軸足を置き、長期の需要減には対応していない。
財政悪化も避けられない。米連邦政府の財政赤字はすでに1兆ドルに近づき、20年は2兆ドル規模に達する可能性もある。米財務省は低金利環境を生かして50年債など超長期債の発行の検討に入ったが、先行きの財政余力は一段と乏しくなる。