埼玉県の片倉シルク記念館、製糸業の歴史伝える
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ショッピングモール「イオン熊谷店」の隣に2つの古い倉庫がひっそりとたたずむ。近代産業として日本を支えた製糸業の歴史を伝える「片倉シルク記念館」(埼玉県熊谷市)だ。新型コロナウイルスの感染拡大で現時点で3月末まで臨時閉館が決まっているが、製糸機械を間近で見学できるほか、生糸の生産過程や当時の暮らしぶりも学べる。
明治32年(1899年)に建てられた繭を貯蔵する木造倉庫を改修し、2000年に片倉工業が開館した。世界遺産となった富岡製糸場が閉鎖した後も、片倉工業の製糸工場として最後まで生糸を作り続けた熊谷工場の跡地に建つ。
明治から昭和にかけて栄えた製糸業の歴史を、ミニシアターなどの映像を交えて伝えている。大正時代には「生糸の約8割が米国に輸出されていたこともある」(鈴木功館長)という。製糸業は戦後の日本経済を担ってきた産業だが、化学繊維の普及や着物の需要減によって生糸産業は衰退し、熊谷工場は1994年に操業を終えた。
館内では、当時の暮らしぶりが写真で紹介されている。昭和中期には従業員が800人にのぼったといい、その多くが女性の工員だった。工場内には学校や寮が整備され、勉学に励みながら和裁や料理などの作法も学べた。近くの夜間高校や大学に通う従業員もいたという。寮には当時では珍しかったプールも設けられ、写真からは楽しそうに生活する様子が伝わってくる。

隣接するもう一つの倉庫は「蜂の巣倉庫」と呼ばれている。天井を見上げると、蜂の巣状に正方形に近い穴が105個あいている。1つの穴はタテヨコ約1.7メートル、深さ約6メートルで、1.2トンもの繭を保管できた。倉庫の屋根裏部分から繭を入れ、穴の下部にあたる天井部分から古い繭を取り出せる仕組みだ。
衰退してしまった製糸業だが、かつては日本のものづくりを支えた産業だ。新型コロナウイルスによる臨時閉館終了後に訪れれば、生糸の歴史を後生に語り継ぐ展示を楽しめる。
(伴和砂)
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