競馬実況アナ日記

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仕事は普通通りだが…無観客競馬、募る味気なさ

2020/3/28 3:00
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2月29日から中央競馬で無観客競馬が始まった。雪の心配をしなくてもよい季節に入る頃、降って湧いた災難である。競馬が中止になれば、7時間15分にわたる中継番組を別の競馬の話題などで埋めることになるから、むしろ準備が大変だ。したがって、競馬中継スタッフは冬場の天気には特に気をもんでいる。

だが、今年は暖冬になり、降雪が開催に影響した日はなかった。これで何とか今シーズンの雪害は切り抜けられそうだ、と一息つきかけていたとき、事態が急変した。新型コロナウイルスが中国以外でも猛威を振るい始め、日本も例外ではなくなった。

Jリーグの開幕延期、プロ野球オープン戦の無観客での実施、東京マラソンの一般参加中止と、スポーツ界でも早々に対応がとられた。競馬も中止か無観客開催のどちらかになることは容易に想像できた。結果的には無観客となったわけだが、開催自体は続いており、個人的には胸をなで下ろしている。

一方で、ファンの立場になれば、競馬を生で見られないのは残念だろうと思う。スマートフォンやパソコンがあれば簡単に馬券が買える時代とはいえ、筆者自身、生で競馬を観戦するのが好きだったからである。そこで今回は、無観客で行われている競馬場の様子を少しでも伝えられればと思い、仕事環境において普段と何が違ったかを中心に記したい。

人けのない阪神競馬場のパドック

人けのない阪神競馬場のパドック

平素との違いは筆者が競馬場に向かう「通勤電車」からあった。開催当日の電車内では、競馬ファンがスポーツ紙や専門紙を広げてあれやこれやと談笑しているものだが、当然ながらそれがない。しかも外出自粛ムードの中で、行楽に出かける人も少ないようにみえる。

いるのは通勤客だけ……と思わせる雰囲気。つまり、平日の早朝のように厳粛な空気が漂っている。通勤する身である筆者からすれば、すいていて静かなのはありがたいが、競馬の会話が聞こえてこないのは寂しいものがある。まさかここで無観客競馬を実感することになろうとは、と思った。

仕事の必需品、用意されて感謝

仕事の必需品も変更を余儀なくされた。競馬場で手にするレーシングプログラムである。レース名から出走馬に関する情報まで公式のデータが掲載されているので、放送でも重宝する。本来はファン向けに配布されるものなので当然、無観客開催では必要がない。無観客期間中は配られないのかと思ったが、ありがたいことに、報道関係者用に配布されていた。

しかし、いつもと違い、A3判の紙が6ページ、ホチキスで留められただけ。普段のレーシングプログラムを2ページに広げた大きさである。内容は全レースの出走表と前週のレース結果が主で、トピックスなどの読み物は掲載されていない。必要最小限の情報だけだ。それでも今となっては、あるだけでもありがたいと安心した。

実際に使ってみると、使いやすいとは言い難い。競馬場の放送席のテーブルはあまり広くない。資料を色々と置くとなると、重ねなくてはいけないので、レーシングプログラムのページをめくるときに苦労した。結局、評判が良くなかったのか、翌週からは従来のような冊子状で配られ(出走表とレース結果のみ)、使いづらさは解消された。

がらんとした中山競馬場の指定席エリア

がらんとした中山競馬場の指定席エリア

無観客競馬の雰囲気はどうだったか。筆者は基本的に、全ての開催日に競馬場にいる。土曜日の午前中や悪天候の日など、観客の姿があまり見られない日もあるので、「そのイメージで進めればいいかな」と漠然と思っていた。実際にファンファーレが鳴ってレースがスタートしても違和感がなかった。しかし、やはりゴール前になっても歓声が上がらないのは不思議な感じがした。味気なかったと言った方がよいだろうか。

歓声なし、実況の自分だけ叫び続け

無観客競馬の初日、筆者は後半の第7レースからの実況だったのだが、特に1レース目の直線からゴール前はやりづらいものがあった。歓声がない中、自分一人が叫び続けている状況に違和感を覚えてしまった。普通、ゴール前は声のボリュームを一段、二段上げていくのだが、ギアが上がり切らないという感じだった。

もっと実況に専念しろと言われればそれまでだが、いかに歓声の後押しで実況していたかを再認識した瞬間だった。アナウンサーによっては、実況していて全く違和感がなかったという人もいるが、自分の場合、後半戦から少しずつ歓声が大きくなるだろうという、いつものイメージとのずれがあったのかもしれない。

余談だが、食料の確保の仕方もいつもと違っている。昼食(人によっては朝食)は競馬場内の食堂で注文することがほとんどだが、無観客なので食堂も閉まっている。だから、最寄り駅のコンビニで調達することになった。なるべく軽い荷物で通勤したい身としては少し面倒な話なのだ。

そうした中でも、普段から配膳したり、お茶を運んだりしてくださるサービスステーションの女性の方々が、いつも通りお世話してくれるのはとてもありがたい。ちなみに、中山競馬場の店は開いていないが、阪神競馬場の場合はジョッキールームの脇の中華食堂が営業している。競馬場によって微妙に対応が違っているのだ。

中央同様、地方競馬も2月27日から無観客で施行されている。3月は川崎と船橋へ取材に行ったが、交流重賞はともにルメール騎手が制した。表彰式や優勝騎手インタビューはいつも通りに行われ、無観客の場内でルメール騎手の声が響き渡っていた。「お客さんなしでちょっと寂しいです」

船橋の無観客ナイター。静けさの中、イルミネーションだけが目立つ

船橋の無観客ナイター。静けさの中、イルミネーションだけが目立つ

船橋は3月から無観客ナイター開催だが、内馬場のイルミネーションは煌々(こうこう)と輝き、静寂以外はまるで普段と変わらない様子にみえた。イルミネーションを目にすると、どうしても観客でにぎわう様子を自然と連想してしまう。本稿が掲載される週も無観客開催が決まり、1カ月続くことになった。この環境に慣れつつある自分が怖い。場内に歓声が上がることに違和感を覚える前に、事態がいち早く収束して、普段の日常が戻ってくるのを願っている。

(ラジオNIKKEIアナウンサー 米田元気)

 各アナウンサーが出演、ラジオNIKKEIの競馬番組はこちらでチェック! http://www.radionikkei.jp/keibaradio2/

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