49歳で「世界の山ちゃん」社長 今も必ず家族で朝食

子育て、親の介護、女性特有の病気、停滞感……。40代以降はさまざまな課題に直面し、翻弄されやすい年代。そんな事態に正面から向き合い、自分らしい働き方や生き方にシフトする人が増えています。自分の意思を持って新たな人生を選択している女性たちの声には、「人生100年時代」を前向きに過ごせるヒントが満載です。
今回は、手羽先居酒屋「世界の山ちゃん」を手掛けていた夫・山本重雄氏の急逝でまさかの社長になった山本久美さん(52歳)に話を聞きました。
夫の急逝でまさかの社長に
転機は突然訪れた。専業主婦だった山本久美さんが、手羽先居酒屋「世界の山ちゃん」を展開するエスワイフード(名古屋市)代表に就任したのは49歳のとき。夫で創業者の山本重雄会長の急逝に伴う事業承継だった。「亡くなった直後に『社長はあなたがやるしかない』と取引先の方に言われ、葬儀後も『出社せず、決算書類に判を押すだけでいい』と。M&A(合弁・買収)も頭をよぎりましたが、夫がつくった会社を一緒に育てた仲間で守りたいと思って……」。中途半端に関わるのは嫌な性分で、「経営者として全力を尽くす」と腹をくくった。
「強烈なリーダーシップを持つ夫と私は違う」。自分ができるリーダー像を模索した山本さんは、小学校教員時代、バスケットボールクラブの監督として3回全国制覇した経験から、チーム力を重視。幹部を集めた場で「年を取った新入社員だと思って一から教えてください」と協力を仰ぎ、社員が自分に話しかけやすい距離感を大切にした。

チームワークで「世界の山ちゃん」を再生
職場の掃除やあらゆる会議に参加し、仕事の流れや人間関係も観察。その上で着手したのが組織の見直しだ。
「以前は、夫の指示の下、全員で営業する体制。それではマズいと、営業、企画、管理、総務などのチームをつくって適材適所に配置し、各自が責任を持って仕事に取り組める体制に整えました」
事業面では、女性客が9割を占める飲茶店を出店する多角化で、客層を拡大中。亡き夫が掲げた「変化し続ける」という理念を守る。「会社と家庭の両立の面では、力不足を痛感。そのたびに『大丈夫、大丈夫』という夫の口癖を自分に言い聞かせ、奮闘中です」。

結婚後、専業主婦として3人の子供を育てながら夫を支えてきた。「仕事に関する内容で、夫に意見することはほとんどありませんでした」。
<49歳で夫が急逝。代表取締役に就任>
【After】社長として「世界の山ちゃん」を率いる
会社勤めは未経験で代表に。家事時間をぐっと減らし、部下や両親の協力、子供の塾の送迎サービスなどを活用しながら、仕事と家事とを両立している。

自分らしい働き方や生き方にシフトするための7つの問い
Q 今後の目標は?
A 業態の幅を広げ、社員が安心して働けるように
「『世界の山ちゃん』のブランドを守りつつ、仮に鳥インフルエンザなどの事態に陥ったときに会社が傾かないよう、他業態や海外での出店も進めています」

Q 結果が出せるチームとは?
A 部下を敬う気持ちを持つ上司がいるチーム
「教員時代、『レギュラーが活躍できるのは支える仲間がいるから』と生徒に教えました。部下を尊重しない上司は叱ります。支えられて仕事ができると知ってほしい」
Q 社長に就任して最初にやったことは?
A 掃除や会議などにできるだけ参加
掃除や会議、打ち合わせに参加し、業務進行や社員の個性などを観察。「社員の気持ちがバラバラにならないように気を付け、明るい雰囲気になるよう心がけました」。
Q 働き方&生き方をシフトできた秘訣は?
A 理念を全員で明文化。チームの結束を固めた
「夫の頭の中にあった理念を明文化し、社訓などは社員や店舗アルバイトから募集。進む方向性を全員で共有したことで一致団結でき、危機を乗り越えられました」

Q 子供との時間を取る工夫は?
A 毎朝6時半に家族で朝食を取る
「子供が帰宅する時間帯に家にいられなかったり、夜も仕事をしたりして話せない日もあるので、寝るのが遅くなっても朝食は必ず皆で取るようにしています」
Q 社長就任後の会社の売り上げは?
A 多角化経営で売り上げアップ
既存店の一部でランチ営業を始め、メニューにラーメンを加えた新型店の開設、飲茶店の新業態進出などの多角化経営で、売り上げは前年比104.7%増に。
Q 落ち込んだときは?
A 「悔しい」という気持ちをバネにした
「他業態の方から、このままでは会社は潰れると言われたときは落ち込みました。悔しい気持ちを隠さず、このチームで乗り越えたいと社員に伝えました」
仕事が好きなことに気づいて楽しい でも子供には申し訳ない気持ち……
働いてみて新しい経験がたくさんあり、自分は仕事が好きだと認識。でも、母親らしいことができず、仕事の疲れでイライラしてしまうことも……。「数字面による戦略を任せられる人が現れれば、そのときは働き方を変えて、家族にもっと力を注げる方法を考えたいです」。
(構成・文 高島三幸、写真 岩瀬有奈)
[日経ウーマン 2019年12月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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