新型コロナ 最悪に向かう米中関係(The Economist)

2020/3/24 0:00
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The Economist

壊滅的な被害を及ぼすパンデミック(世界的な大流行)は、世界の2つの経済大国が立場の違いを棚上げにして協調する好機にも思える。ところが、米国と中国の関係は1989年の「天安門事件」で中国政府が軍を投入し民主化運動を弾圧した時と同様に、最悪の状態へと近づきつつある。両国は危機のさなかに激しい中傷合戦を繰り広げている。

トランプ米政権と中国の習政権は新型コロナウイルスを巡り対立を深めている=写真はいずれもロイター

トランプ米政権と中国の習政権は新型コロナウイルスを巡り対立を深めている=写真はいずれもロイター

中国政府の一部の高官は、米軍が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を中国に持ち込んだとする陰謀説を吹聴している。一方、トランプ米大統領は、新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼ぶ。トランプ氏がウイルスの発生源を強調したがるのは、中国からの入国制限が、大統領が迅速に打ち出した数少ない新型コロナ対策の一つだったからだろう。

だがもっと皮肉なことに、トランプ氏の発言は、メディアでまたしても本筋から外れた議論をかき立てている。すなわち批判派が指摘するように人種主義的な発言なのか、それとも事実を口に出すことで米国を守ろうとしているのかというものだ。トランプ氏にとっては、なぜ何週間も新型コロナを軽視していたのかを検証されるよりもはるかに好都合だ。

前政権時代の協調機運は消え去る

米中の対立は18日に激化した。中国政府は国内に駐在していた米ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の米国人記者ほぼ全員を国外退去にすると発表した。対象者は十数人で、毛沢東が1949年に中国を建国して以来、最大規模の欧米人記者の大量追放となった。

対立がエスカレートしたのは速かった。米国の疾病管理の専門家チームは1月上旬、新型コロナの初期の感染状況を評価するために武漢入りを要請したが、中国はこれを無視した。トランプ氏が1月末に、米国人以外の中国からの入国を禁止すると、中国は猛反発した。中国ではここにきて感染拡大の勢いが少なくとも一時的には弱まっているため、当局は米国の手際の悪さと対照的に自らの断固たる対応を自賛し、一党支配体制の勝利だとの考えを示している。

2つの超大国の関係は、10年足らず前のオバマ米大統領と中国の胡錦濤(フー・ジンタオ)国家主席の時代よりもはるかに悪化している。当時も相互不信は強かったが、両首脳は気候変動や世界金融危機など一部の極めて重要な問題では協調した。

だが、トランプ氏と中国の現在の指導者、習近平(シー・ジンピン)国家主席の下では、こうした緊張緩和は一切ない。トランプ氏は政権を対中強硬派で固め、オバマ氏と習氏が締結した地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から離脱を表明し、貿易戦争を仕掛け、米国にいる中国人スパイを摘発し、世界の同盟国に対して次世代通信規格「5G」網から中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)を排除するよう働きかけている。一方、習氏は外交政策では強硬姿勢を強め、国内では弾圧を強化してきた。

冷戦時代さながら記者退去で応酬

新型コロナウイルスが中国の国境を越えて拡大し始めた1月に、米中は少なくとも貿易戦争の一時休戦にこぎつけていた。だが、他の多くの分野では緊張が続いている。記者を巡る応酬はまるで冷戦時代の戦略だ。

トランプ政権は2月18日、中国の5つの報道機関を中国政府の「外国の宣伝組織」に認定した。中国は翌日、表向きには中国を「真のアジアの病人」と呼んだ記事の見出しに対する処罰だとして、WSJの記者3人の国外追放を発表した。米国は3月2日、国営の新華社、中国国営テレビ系の外国語放送CGTN、英字紙チャイナ・デーリー配信会社、ラジオ局の中国国際放送、党機関紙・人民日報の関連会社の5社の中国人記者の上限を100人に定めた。つまり、60人を事実上の国外退去処分にした。

中国の対応の方がジャーナリズムにはるかに大きな影響を及ぼすだろう。中国国内の外国メディアから最も優秀な特派員の多くが失われるからだ。この対応はさらに、中国の介入に対する反発から、ここ数カ月抗議デモが頻発している香港の多くの市民を不安にしそうだ。中国は処分の対象になった記者の香港駐在も禁止した。

これは外国人記者が中国本土から締め出されても、なお香港に駐在できるとしていた中国の統治下でのこれまでの慣習を破るものだ。中央政府は事実上、外国人記者の管理については中国のルールの方が香港のはるかに自由な制度よりも優先されることを明確にした。

中国当局はここ数年、多くの西側諸国と対立してきたが、米国に対しては慎重な姿勢を維持してきた。そうした時代は終わりを告げるのかもしれない。中国の激しい報復は、最高指導部が米国に露骨に敵意を示すリスクをいとわなくなりつつあることを示している。

ウイルス発生源で激しい中傷合戦

新型コロナウイルスの発生源を巡る中国の中傷的な情報発信は、こうした変化の証しだ。中国のネットやメディアでは数週間前から、新型コロナは米中央情報局(CIA)か米軍が開発した米国の生物兵器で、昨年10月に湖北省武漢市で世界各国の軍人のスポーツ大会「ミリタリーワールドゲームズ」が開催された際にまき散らされたとする現実離れした説が流布していた。

中国外務省の趙立堅副報道局長は12日、今や40万人以上のフォロワーがいるツイッターで「感染症を武漢市に持ち込んだのは米軍かもしれない」と主張した。「(事実を)明白にせよ! データを公表せよ! 米国は我々に説明する義務がある!」と同氏は訴えた。他の中国人外交官もうわさの拡散に加担した。他方で米政府高官の中には、新型コロナは武漢の研究所で発生したという根拠のない意見を持ち出した者もいた。

トランプ氏が新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼び続けるのは中国が陰謀説を唱えているのが一因だとして、ある記者による人種差別だとの指摘を同氏ははねつけた。だが、トランプ氏の言葉は政権スタッフの間などでの人種差別を助長する恐れがある。ある中国生まれの米国人テレビ記者は17日、ホワイトハウスの高官が自分に面と向かって、新型コロナを「カン・フル(カンフーをもじったもの)」と言い放ったことをツイッターで明かした。

今のところ、両国の非難の応酬は大人げないものに思えるかもしれない。だが新型コロナウイルスの感染がさらに拡大すれば、責任転嫁も一段と激しくなるだろう。死者の数が今よりもはるかに増えれば、中国と米国との責任の押しつけ合いは、すでに恐ろしいほど険悪な両国関係に深刻な影響を及ぼすことになる。

(c)2020 The Economist Newspaper Limited. March 21, 2020 All rights reserved.

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