株価に効くESG 投資を通じて社会を変える
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2020/3/25 2:00
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財務情報だけでなく環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)を重視するESG投資。世界で急速に広がり、投資家も企業も普遍的に意識すべき重要なテーマとなったが、実際の株価形成にはどのような影響を与えているのだろうか。

■材料視されはじめた「E」と「S」

日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)が国内に拠点を置く運用会社などを対象に調査したところ、2019年3月時点での国内のESG投資額は約336兆円と1年前から45%伸びた。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が主導する形で多くの運用会社がESG投資を拡大していることが背景にある。

投資マネーの流入で、ESG面での市場評価が個別企業の株価にも影響し始めている。日本ではアベノミクス下での企業統治改革を追い風に自己資本利益率(ROE)の向上や株主還元の充実など、「G」が先行してきた。だが、気候変動リスクや人権問題への関心が世界で高まるなか、「E」や「S」の面の評価が株価上昇につながる例が出ている。具体的に見ていこう。

過去5年で株価が10倍以上になったのが、障がい者雇用支援を独特のビジネスモデルで展開するエスプール(2471)だ。同社が障がい者に農園で作業するノウハウを教育する。顧客企業には農園を貸し出すとともに障がい者を紹介。その障がい者が農園で働くことで企業から農園の管理料や紹介料を受け取る仕組みだ。現在、こうした農園を全国18カ所で展開。顧客企業は大手企業を中心に200社を超えるまで増え、1500人近い障がい者が働いている。

従業員に対して企業が雇わなければならない障がい者の比率(法定雇用率)は民間企業で2.2%。だが、厚生労働省によると、法定雇用率を達成している企業は48%にとどまる。21年3月末までに法定雇用率は2.3%に引き上げられるため、足元では大企業を中心に引き合いが強まっている。

20年には従来の屋外型農園に加え屋内型農園も手掛ける方針で、20年11月期の連結純利益は前期比19%増の12億円と5期連続で過去最高を見込む。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の松本寿アナリストは「(屋内型農園は)障がい者数が多く実雇用率の低い東京都や大阪府などで普及する」として1月23日に目標株価を従来の900円から1100円に引き上げた。

エスプール同様、障がい者の雇用増を追い風にしているのがLITALICO(6187)だ。株価は2018年末から6%高の水準にある。主力事業の「リタリコ・ワークス」では、就職を目指す障がい者向けに採用面接での対応やビジネスマナーを指導する。発達障害児向けの学習教室も運営している。「障害のない社会をつくることを目標としている」(同社広報担当者)といい、ESG投資家から評価を得やすい。

中堅製薬のJCRファーマ(4552)は患者数の少ない希少疾患をターゲットにしたバイオ医薬品に強みを持つ。細胞を患者に投与する細胞医薬を国内で先駆けて実用化。「大手製薬会社が手掛けていない疾患の解決に取り組んでおり、社会貢献の側面からも評価している」(ニッセイアセットマネジメントの横田茂之チーフポートフォリオマネジャー)。

医薬品の有効成分を脳内に直接届ける独自技術「J―ブレイン・カーゴ」にも注目が集まる。脳の血管にはウイルスといった異物を取り込まないための障壁があり、薬剤の成分もほぼ通さない。同技術では有効成分を載せて関門を通過できる。現在は、酵素の働き低下で細胞内に分解すべきものがたまり様々な症状を引き起こす難病群「ライソゾーム病」の治療薬としての臨床試験(治験)を進めている。脳に薬剤を届ける技術は将来はアルツハイマー病などほかの中枢神経疾患の治療薬にも応用できる可能性がある。

■気象変動対策にマネーが向かう

豪雨、干ばつ、猛暑など世界的な議論となっている気候変動問題は投資の世界でもホットイシューだ。温暖化ガスの削減など気候変動リスクの低減につながる事業を手掛ける企業にはマネーが向かいやすくなっている。

代表例がアズビル(6845)。ビルの空調の管理システム、プラントや工場を制御する計測機器を手掛ける。オフィスや工場などの室内空調環境を計測、分析。温湿度や風量などをきめ細かく調整し、省エネにつなげる。首都圏の都市再開発による新築ビルなどの需要を取り込み、20年3月期の連結営業利益は前期比1%増の270億円と過去最高を更新する見通しだ。朝日ライフアセットマネジメントの速見禎チーフファンドマネジャーは「事業内容そのものが気候変動リスクへの対応だ。ビル空調の保守メンテナンスを通じた安定した事業モデルも評価できる」という。株価は18年末比で25%上昇した。

アズビル自体も理念として地球環境への貢献を掲げる。「3年ほど前から環境に特化したファンドなどによる面談が増えている」(同社広報)といい、非財務情報の開示にも力を入れる。19年3月期には自社製品を通じて取引先の現場における二酸化炭素(CO2)を298万トン削減したと公表。50年には事業活動におけるCO2の実質的な排出ゼロを目指す。

気象情報会社ウェザーニューズ(4825)も環境面から注目される。人工衛星の観測データをもとに船舶に最適な航路を案内するサービスを提供している。燃費が最も良くなる航行速度を提案するといった施策で年間276万トンのCO2削減に寄与しているという。欧州を中心に環境規制が厳しくなっており、外航船舶での需要が拡大。世界シェアが50%に達する。

株価上昇率は18年末比で19%。大規模災害の発生を受け、個人向けの気象情報サービスへの引き合いも強い。20年5月期の連結純利益は前期比9%増の15億円を見込む。昨年末にブロックチェーンを活用してCO2排出量を記録する共同実験を始めたことも買い材料視されたもようだ。22年5月期までの中期経営計画ではESGの強化を目標として初めて掲げた。海外年金など「株主側のニーズも今後高まっていくとみている」(同社)という。

(松本裕子、増田咲紀、寺沢維洋、宮住達朗、綱嶋亨、井川遼)

 新連載「みんなのESG」は日経ヴェリタスとの連動企画。世界的に関心が高まるESGについて、知っておきたい最新トレンド、投資マネーの動き、先進企業など様々な観点から取り上げます。

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