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「良くない状況はチャンス」 イチローの言葉から学ぶ
スポーツライター 丹羽政善

2020/3/24 3:00
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「しょうがない。そういう時代だよね。病気ができたら、それを治す薬がその後しか出てこない。そういう時期なんだね」

「自分ができないと思ってしまったら、それは絶対にできない」というイチロー=共同

「自分ができないと思ってしまったら、それは絶対にできない」というイチロー=共同

2017年7月25日のこと。テキサスへ遠征中だったイチローに、スイングスピードが前年に比べて速くなっていることについて聞いていると、やり取りの途中、昨年3月21日の引退会見でも口にした"頭を使わない野球"の話になった。

データに一定の理解を示しつつも、利用しているつもりが支配され、結果として野球の本質、面白さを見失っているのでは……。イチローは少し寂しげだった。「数字だけでは判断できないものがある」。筆者がそう漏らした一言に対する返しが冒頭の言葉だったが、まさに言い得て妙だった。

我々は図らずも今、例えではなく、そうした現実に直面している。

24日、本連載をベースとした「イチロー・フィールド」を上梓した。

イチローの言葉は普遍的な力がある

昨夏から取り掛かり、プロットを作るために資料を整理し始めると、予想以上の難作業。上級者向けのジグソーパズルのようなもので、当初、時系列でまとめようと試みたが、あまりにも多くの事象があり、一向に進まない。絞り込もうにも手を焼いたが、時系列を捨て、冒頭のような言葉をたどっていくと道筋が見え、そこを掘り下げていくと、当時のメジャーの状況までもが、よみがえった。

「50歳まで現役」と言い続けてなかったら、「ここまでできなかったかも」とイチロー。昨年引退したものの、今もマリナーズの会長付特別補佐兼インストラクターとしてキャンプに参加する=共同

「50歳まで現役」と言い続けてなかったら、「ここまでできなかったかも」とイチロー。昨年引退したものの、今もマリナーズの会長付特別補佐兼インストラクターとしてキャンプに参加する=共同

同時に、言葉を読み返して気づいたのは、そこに込められたメッセージの数々。イチローが話しているのは野球のことなのだが、世の中の真理だったり、行動指針だったり、あるいは、日々、一般の人が抱えている悩みに対する答えにつながるものだったりと多岐にわたり、世代を問わない。

あのときもそうだった。

2018年12月、イチローが生まれ育った愛知県豊山町で、イチロー杯の表彰式が行われた。そこでイチローは、子どもたちにこう語りかけていた。

「自分ができると思ったことは、必ずできるとは限らない。だけど、自分ができないと思ってしまったら、それは絶対にできない、ということを覚えておいてほしい」

「人に笑われてきた歴史がある」

それは、その年の5月に選手登録を外れ、2019年の復帰を目指していた自身の状況を暗にほのめかしていた。「周りができないということはたくさんあるんだけれども、それでも自分が頑張っていたら、最後はできることがたくさんあります。できないことももちろんあると思うけれど、自分の中で自分の可能性を決めないでほしい。自分ができないと思うまで、頑張ってほしい」

そのとき聞き入っていたのは、子どもたちよりむしろ会場にいた父兄ら。それまで、イチローの登場そのものにざわつき、写真を撮ったりする人もいたが、一切の私語が消え、耳を澄ます。多くが自分のことに置き換え、自らに問いかけているかのようだった。

イチローには「人に笑われたことを常に達成してきた」自負がある=共同

イチローには「人に笑われたことを常に達成してきた」自負がある=共同

引退会見時の言葉もそうだった。子どもたちといったような対象を絞ったものではなかったが、「50歳まで現役と言っていたが?」という問いに、「確かに、最低50までって本当に思ってたし。それはかなわず、有言不実行の男になってしまったわけですけど」と言ってから続けた言葉に、多くの世代が胸を打たれた。

「でも、その表現をしてこなかったら、ここまでできなかったかも、という思いもあります。だから、言葉にすること、難しいかもしれないけど、言葉にして表現することっていうのは、目標に近づく一つの方法ではないかなと思っています」

それを恥ずかしいと思う人もいるかもしれない。イチローもかつて、メジャー挑戦を決めたときに、メジャーでも首位打者をとってみたいと口にすると、「笑われた」という。ただ、それもまた、原動力となる。「子供の頃から、人に笑われてきた悔しい歴史が僕の中にある。でも、人に笑われてきたことを常に達成してきた自負はある」

コロナ禍の今こそ、やれることもある

さて、米大リーグ機構(MLB)は12日に、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、オープン戦の即時中止、シーズンの延期を決断した。現時点で開幕が見えない。早くても5月半ば以降。7月までずれ込むのでは、との見方もある。

そんな状況に選手、いや、関係するすべての人が戸惑い、指示待ちのような状況だ。だが、だからこそ、普段できないようなことをやってみたりと、状況を逆手に取れないか。

「良くないと思われる状況は、チャンスだと捉えることが多い」

これもイチローの言葉。この時間をどう過ごすか。問われているのは選手だけではない。すでに触れたイチロー杯の表彰式では、こんな話もしていた。

「その人がどんな人間かっていうのは、人が見ているところで見える姿ではなくて、人の見えないところでどんな自分であるか。自分一人で頑張らなきゃいけないときに頑張るというのは力がいるし、難しいことなんですね。だから、常に自分に自分はどうなんだということを問うというか、そんな人間、大人になってほしい。そうやって自分なりに頑張ったら、なにか光が見えてくるということを知っておいてほしいと思う」

ブルペンでマリナーズ・菊池の投球練習を見つめるイチロー=共同

ブルペンでマリナーズ・菊池の投球練習を見つめるイチロー=共同

時間の使い方は、その人次第で有効にも無駄にもなる。なにも特別なことをしよう、ということではない。「小さなことを多く積み重ねることが、とんでもないところへいくただ一つの道」

これも常々、イチローが口にしてきたことだが、スポーツ界全体が息を潜める今、発想を転換してみたい。

イチローフィールド 野球を超えた人生哲学

出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,650円 (税込み)

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