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デスクワークでたまる「腰痛借金」 3秒体操で解消

腰痛・肩こり対策(上)

腰痛や肩こりの予防・解消に役立つ、短時間でできる体操とは?(イラスト 平井さくら)
日経Gooday(グッデイ)

腰痛、肩こりは日本人の国民病ともいえる身近な症状だ。身近すぎて「あって当たり前」になっていないだろうか。新型コロナウイルスの影響でテレワーク、という人も多い。「いつもと違う労働環境のせいか腰や肩がつらい……」と感じている人もいるかもしれない。近年、腰痛解消のための「これだけ体操」が話題の東京大学医学部附属病院特任教授・松平浩さんに腰痛、肩こりの解消法、予防法について聞いた。

腰痛は腰に「借金」がたまった状態

長時間パソコンに向かったり、頻繁にスマートフォンをチェックしたり……。現代人の生活は猫背や前かがみの姿勢になりがちだ。この姿勢が腰痛の原因ということはご存じの方も多いだろう。

「腰で最も負荷がかかっているのはベルトの位置。腰椎の4番目(L4)と5番目(L5)の間にある椎間板(L4/5椎間板)には、無防備に前にかがむだけで200kgのものがのっているくらいの負荷(専門的には200kg重という単位)がかかります。お相撲さん1人が椎間板にのっかっているイメージです。腰痛の多くは、こういった負荷による椎間板や腰の関節のちょっとしたずれや傷、それに伴う炎症や背筋の血流不足が原因と考えられています[注1]」(松平さん)

[注1]腫瘍(がん)、骨折、坐骨神経痛を伴う椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症などが原因で腰痛が起こることもある

背骨を構成している椎骨と椎骨の間にはクッションの役割をする椎間板がある。椎間板は中央の髄核とそれを取り囲む線維輪という組織で構成されている。「髄核はちょっとした姿勢の変化で移動すると考えられています。猫背や前かがみの姿勢を続けていると、本来、椎間板の中央にある髄核が後ろに移動してしまう可能性が高まります」(松平さん)

「無防備に前かがみになるだけでL4/5椎間板には200kgがのっかるくらいの負荷(200kg重)がかかり、例えば、床にいる20kgのお子さんを悪い姿勢のまま抱き上げようとすると400kg重以上の負荷がかかります。お相撲さん2人分です。アメリカの国立労働安全衛生研究所によれば、340kg重の負荷がかかると、腰の組織にダメージを与えるリスクが高まるといわれています」(松平さん)

無防備に物を持ち上げたり、くしゃみで瞬間的に前かがみになったりすると、腰への負荷が強まる。その時、髄核が大きくずれて線維輪を傷つけてしまうことがある。それが、典型的な「ぎっくり腰」だ。そして、髄核がさらにずれて線維輪よりも外側に飛び出し、神経を刺激してしまった状態が「椎間板ヘルニア」だ。

「私は、猫背や前かがみ姿勢に伴う、主にL4/5椎間板にかかる負担を『腰痛借金』と呼んでいます。借金がたまった結果の『二大事故』がぎっくり腰と椎間板ヘルニアです。事故を未然に防ぐためには、まずは、姿勢を良くして借金をためないことが大切です」(松平さん)

腰痛借金を返済する「これだけ体操」

「姿勢を良くしなければ…」と分かっていても、仕事に集中すると忘れてしまったり、デスクや椅子の高さが自分に合わなくて良い姿勢をキープするのが難しい、ということもある。

「日常生活の中で、どうしても借金はたまってしまうものなので、ため過ぎないことが大切ですが、コツコツ返済するのが現実的。借金返済におすすめなのが『これだけ体操』です」(松平さん)

「これだけ体操」

(1)足を肩幅よりやや広めで平行に開き、リラックスして立つ

(2)お尻より少し上に両手を当て、息を吐きながら骨盤を押し込み胸を開く

(3)骨盤をしっかり押し込んだまま3秒キープしてゆっくり元に戻す

(4)予防の場合1日に1~2回、治療の場合10回を目安に始めてみる

【注意点】
●反らした時に腰に痛みや違和感があっても、元に戻して10秒以内に痛みが引けば心配ない。この時の軽い痛みや違和感は「借金がたまっている証拠」。
●元に戻して10秒たっても痛みが残る場合はいきなり押し過ぎなので、一度強度を弱めてみる。
●「これだけ体操」をやっている最中に、痛みやしびれが太ももやふくらはぎに放散する場合は、体操を中止して整形外科に相談する。
●立ち仕事の人、ハイヒールを履く女性、妊娠中の女性などでは、猫背とは逆に腰が反り過ぎている「逆腰痛借金」の人もいる。こういった人は、椅子に座って、腰をかがめる体操が効果的な場合もある。

まさに「たったこれだけ?」という体操だが、「毎日行うと『腰痛借金』をためずに済みます。また、筋肉内の血流が改善し、発痛物質の分泌が減るので、ぎっくり腰の予防や慢性腰痛の改善に役立ちます」(松平さん)

今現在、それほど腰痛に困っていないという人は、猫背、前かがみ姿勢が続いた後に、1日1回やるだけでもいいそうだ。「その際、腰に違和感を覚えるまで、骨盤をしっかり押し込んでください。朝、腰がこわばっている時がおすすめ。起床後や歯磨きの後、あるいは仕事前から始めてみましょう」(松平さん)

腰痛は動かして治す

腰痛がある場合、「腰を動かすと痛い。痛いから動かすのが怖い」という人もいるだろう。特に、ぎっくり腰の経験があると、痛みへの恐怖から腰をかばってしまいがちだ。しかし、「ほとんどの腰痛にとって、安静は百害あって一利なし」と松平さんは言う。

「腰痛に対する恐怖や不安が強いと、痛みを抑制する脳の機能が低下してしまいます。その結果、腰の組織の炎症は治まっているのにもかかわらず、痛みが続く、ということが起こります。そういった方は、楽観的に痛みと向き合い、積極的に体を動かすことが大切です」(松平さん)

「これだけ体操」は、腰痛に対する痛みや不安を解消し、脳の機能を回復させるきっかけとなる場合があるという。腰痛に悩む人が多い介護職の人などが「これだけ体操」を取り入れ、大きな効果を上げている事例もあるという。慢性腰痛に悩んでいる方はもちろん、腰痛を予防したい方も、試してみてはいかがだろうか。

「肩こり借金」も体操でコツコツ返済しよう

肩こりについては、長時間のデスクワークやいわゆる「スマホ姿勢」が首や肩の筋肉に負担をかけ、その原因にもなる。また、ストレスも肩こりの原因だという。「ストレスでイライラすると、交感神経が強く働き、筋肉の緊張が高まり、肩こりを引き起こします。深い呼吸で肩甲骨を動かす体操がおすすめです」(松平さん)

「ひじ肩ぐるぐる」

(1)背筋を伸ばして椅子に座り、足を肩幅程度に開く

(背もたれにもたれかからない、肩の力を抜く、水平にあごを引く、軽く胸を張り、肩が前に入らないようにする、体幹の軸はまっすぐに保つ、丹田(おへそから5cmほど下)を意識する、骨盤は自然に立てる)

(2)肩の骨に指先を軽く添える(腕の力は抜く)

(3)ひじを後ろ回りにゆっくり回す(徐々に大きく回す、目線は下げない、呼吸は止めずに深く、丹田〔おへその5cmt程度下〕を意識)。5~10回行う

【注意点】
●きつい場合は、添える指先の位置を下げ、片方ずつからできる範囲で行う。左右差がある場合は、やりにくい方を多めに行う。

借金を増やさない日常生活のコツ

腰痛、肩こりの借金を増やさないためには、日常生活でやってしまいがちな悪い姿勢を改めることも大切だ。デスクワークで長時間椅子に座る時や、スマートフォンを見る時に、ちょっと工夫をしてみては。

【椅子に座る時】

「背骨が緩やかなS字カーブを描き、骨盤がやや前傾しているのが適切な姿勢です。猫背癖の強い人は、クッションやタオルなどで、適切な姿勢が取りやすくなるようサポートするといいでしょう」(松平さん)

●腰の後ろにクッションを当てる(ランバーサポート)

●薄い座布団や折ったスポーツタオルなどをお尻の下に入れる(仙骨サポート)

【スマートフォンを見る時】

「正しい姿勢で、脚を組まないのが理想ですが、そうしようと頑張るとストレスを感じることも。スマートフォンを見る時は、普段と逆に脚を組み、膝にカバンをのせて体が前傾しないように工夫して」(松平さん)

●いつもと逆に脚を組む

●カバンの上にひじを置く

(文 村山真由美、イラスト 平井さくら)

松平浩さん
東京大学医学部附属病院22世紀医療センター特任教授。1992年順天堂大学医学部卒業、1998年東京大学医学部附属病院整形外科。同大学にて博士号取得。英国サウサンプトン大学疫学リサーチセンター、関東労災病院勤労者筋・骨格系疾患研究センター長等を経て2016年より現職。2019年Bipoji Lab開設。2015年NHKスペシャル「腰痛・治療革命」出演、監修。『3秒から始める 腰痛体操 & 肩こり体操』(NHK出版)など著書多数。現在、体操動画をTwitter.YouTubeで連日配信中。

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