練馬大根、今や幻に 隆盛は遠い昔

ひと・まち探訪
コラム(社会・くらし)
2020/3/21 10:00
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購入を希望する人が行列した練馬大根の漬物(東京都練馬区)

購入を希望する人が行列した練馬大根の漬物(東京都練馬区)

2月上旬、年1度の「ねりま漬物物産展」が東京都練馬区の区民・産業プラザで開かれた。列をつくる人の先には、幾本もの練馬大根のたくあん漬け。姉夫婦の分も含めて4本購入した同区の派遣社員、佐藤弘子さん(61)は「歯応えがあってご飯のお供にピッタリ。この時期を楽しみにしている」と声を弾ませた。

「大根の練馬か、練馬の大根か」。こういわれるほど全国的な知名度を誇った練馬大根だが、今や市場に出回ることはほぼない。区の育成事業で昨年11~12月に収穫されたのは約1万4000本。生大根、干してぬか漬けされたたくあん共に、ほぼ全てがJAなど地元での販売や小中学校給食への提供で無くなる。"幻"と呼ばれるゆえんだ。

練馬大根は70~100センチと、一般的な大根の倍以上に育つ。繊維質が多く漬物に向き、シャキシャキとした食感と辛みが特徴だ。

江戸時代以降、練馬一帯で盛んに栽培された。人口が膨らむ江戸まで日帰りで出荷でき、腐葉土が積もる土壌も適していた。たくあんの一大産地ともなり、明治の資料には東京府(当時)のたくあん生産額の8割を占めたとの記録も残る。日清、日露戦争を経て軍需も拡大した。

しかし昭和に入ると干ばつや病害に襲われ、戦後は軍需も失った。キャベツへの作付け転換、宅地化……。1960年代には練馬大根の畑はほぼ姿を消した。

復活を期し、区がJAと連携して育成事業を始めたのは89年度のこと。当初7人だった協力農家は今年度には21人となり、生産本数も増えつつある。たくあん作りは練馬漬物事業組合が担う。「伝統を継承して発信し、漬物離れを食い止めたい」(小沢優貴組合長)

ただ身近な野菜になるまでの道のりは遠い。中ほどが膨らみ引き抜きにくく、収穫の労は大きい。区には高齢農家から「続けるのは難しい」との声も届く。

東京23区の農地面積の4割を占める練馬。区の毛塚久都市農業課長は「何とか若い世代に引き継いでもらい、生活と農業が近接した練馬の魅力を知ってもらうきっかけであり続けてほしい」と願う。

(板垣孝幸)

引っこ抜き大会
練馬大根引っこ抜き競技大会(2019年11月30日、東京都練馬区)

練馬大根引っこ抜き競技大会(2019年11月30日、東京都練馬区)

 長く中太の練馬大根は通常の大根に比べ、引き抜くのに3~5倍の力が必要とされる。それを逆手にとったのが収穫期に開く「練馬大根引っこ抜き競技大会」。区とJA東京あおばとの共催で、2007年から続く。
 昨年は11月30日に開催された。参加した438人の中には、静岡県や茨城県から足を運んだ人も。90秒間で本数を競う男女の選手権では、板橋区の40代男性が11本で、埼玉県春日部市の30代女性が9本で優勝した。収穫されたのは約5000本。区立小中学校の給食に使われ、食育に一役買う。

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