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新型コロナで揺れる五輪 新しい価値、発信の好機に

新型コロナウイルスがスポーツ界を揺るがしている。東京五輪・パラリンピックはどうなるのか。いずれもスポーツ界の人材育成を手がける一般社団法人「スポーツビジネスアカデミー」の理事であり、国内外のスポーツに対して深い知見を持つ荒木重雄、鈴木友也、杉原海太、山崎卓也の4氏がウェブ上で座談会を開いた。

東京五輪は予定通りに開催されるのか? 行方が心配されている

――五輪の行方が心配されています。

鈴木「私が住むニューヨークでは(米同時多発テロが起きた)9.11のような戦時の状態になっており、五輪のことを話す状況ではない。ただ、国際オリンピック委員会(IOC)は中止にはしたくない。招致に手を挙げる都市が減る中、投資が無に帰すリスクが出ると招致する都市がほぼ皆無になるからだ。一部の競技を行わない部分開催も含め、どこで損切りをするかが焦点。外堀が完全に埋まる前に、日本はベターな方策に持っていく話し合いをしなければいけない」

鈴木友也氏

山崎「私のいるロンドンでも五輪どころではない状況。IOCや日本は国際世論を形成する努力が重要になるだろう。『今は健康が最優先だが、万が一、五輪が開催できなかったときも、オリンピックムーブメントとしてできることはたくさんある。危機的な状況だからこそ五輪がみんなを勇気づけてコロナという見えない敵にともに戦おう』などのメッセージが考えられる」

「医療現場に従事している人を支援したり、予選に出場できなかったアスリートを国をまたいで支援したりするようなことができれば、五輪のブランドも高まる。コロナを生かして最大のファンエンゲージメント(関与)をやっていくと発信できたら、国際世論を変えられるきっかけとなる」

――米国は五輪に強い影響力を持っています。

鈴木「米国のオリンピック委員会や(放映権を持つテレビ局)NBCは、IOCにとって大きなステークホルダー。NBCは中止に伴うコストを保険でカバーできるため、開催を強行する立場ではない」

「米国では議会が大きな力を持つ。上院の小委員会がIOCに対し、危機管理計画など7項目の質問を書簡で送った。そのうち2つくらいは日本の大会組織委員会じゃないと答えられない項目。IOCや組織委は先手を打ち、これがセカンドベスト(次善の策)だと説得できるように動かないといけない。書簡の回答期限の4月10日までが一つの山場とみている」

杉原「五輪は延期の可能性もあると個人的には感じている。1984年のロサンゼルス五輪で本格的に始まったスポーツの商業化が今は究極まで進んだ観があり、ビッグイベントの増加でスポーツ界の日程はタイトになっている。それらの日程調整の難易度が高くなっていることがコロナの問題で周知された気もする。ある意味、スポーツの在り方を再考するいいタイミングではないか」

荒木重雄氏

荒木「五輪の歴史を振り返ると36年ごとに大きく変わってきた。ロス五輪の36年前は第2次世界大戦(で2大会が中止となった)後、初開催となるロンドン五輪だった。東京五輪はロスから36年目。再び五輪が変わるきっかけとしてうまく使えればいい」

「現在の五輪はアテンション(注目を集めること)型のスポーツ大会の象徴だが、本来は(IOCの理念である)オリンピックムーブメントやオリンピズムを広げるためのツールだった。オリンピズムとは国籍、言語、宗教、文化が違う人々が理解し合って平和な世界を築こうというもの。21世紀に感染症という世界共通の敵ができたから、今こそ世界が一つになって見えない敵に戦って勝利して平和な世界にするという新しい姿をみせられれば、21世紀型の五輪の価値を発信する大きなチャンスにもなる」

――五輪以外でもスポーツ界は新型コロナで大きな影響を受けています。

鈴木「コロナをピンチとするか、チャンスとするか。日本のスポーツ界はまだ、スポーツの試合をすることだけが仕事だと思っているところがある。米国がそうでないと気付いたのが2005年、ハリケーン・カトリーナで大きな被害が出た後だった。NBA(米プロバスケットボール協会)は『スポーツは、スポーツ以外のことで貢献することができる』として、社会貢献のためのプラットフォーム(基盤)をつくった。社会貢献がスポーツの仕事であり、そこでお金を稼ごうという考えである。コロナも日本のスポーツ界が試合以外の価値をPRする絶好の機会になる」

「アテンションから始まったプロスポーツが、(ファンとの関わりを重視する)エンゲージメントを目指すようになり、世界では(人や地域のつながり、結びつきである)ソーシャルキャピタル(社会関係資本)まで来ている。日本はまだエンゲージメントに向かう段階だが、昨年のラグビー・ワールドカップ(W杯)で、日本人はノーサイドの精神などの目に見えない価値になじみがあるということが分かったので、可能性は大きい」

山崎「コロナの問題はスポーツ界が一度、立ち止まって考えるいい機会にもなる。この状況でどうやって試合を開いてお金を失わずに済むかだけでなく、どうすれば自分達のブランドを輝かせられるかを考えた方がいい。サッカー界が、このような状況でも家でできるトレーニングのやり方を映像で流すなどしているように、今だから可能なエンゲージメントはある。初の中止となった選抜高校野球でも、他の学年の球児ができない体験を提供するなどアイデアはいろいろ浮かぶと思う」

杉原海太氏

杉原「企業にとっても良いオポチュニティー(機会)になり得る。コロナの影響で、働き方などの日本のライフスタイルが変わるという仮説を持っている。人々が毎朝、都心部に行かず、自宅やコワーキング(共用オフィス)で仕事をするスタイルが定着すれば、その生活にあった『するスポーツ』のニーズは高まる。昭和の時代から日本のライフスタイルをつくってきた電鉄会社やデベロッパーなどにとっても、新たな形で街づくりをする大きなチャンスであるかもしれない」

(聞き手は谷口誠)

4氏の略歴
▼荒木重雄(スポーツマーケティングラボラトリー代表)▼鈴木友也(ニューヨークが拠点のスポーツマーケティング会社トランスインサイト代表)▼杉原海太(元国際サッカー連盟コンサルタント)▼山崎卓也(Field-R法律事務所 弁護士、国際プロサッカー選手会アジア支部代表)

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