FRB、企業への緊急資金支援 MMFに供給

【ワシントン=河浪武史】米連邦準備理事会(FRB)は18日深夜という異例の時間に、MMF(マネー・マーケット・ファンド)への緊急資金供給を決めた。MMFはコマーシャルペーパー(CP)の主要な買い手で企業の資金繰りを大きく左右する。CP市場は金利が高止まりしており、追加策を迫られた。社債の買い入れに踏み込んで企業の資金繰りを支援すべきだとの意見もある。
「家計と企業への資金の流れを支えるため、MMF向けの新たな施策を決めた」。FRBが淡々とした声明文を公表したのは、米東部時間18日午後11時30分。多くの市場参加者が眠りにつこうとしていた時間だ。FRBは日曜日の15日夕に緊急利下げを決めるなど、異例の時間帯での政策決定が相次ぐ。それだけ市場が緊迫している証左だ。
FRBが危機感を持つのは、新型コロナウイルスによる景気不安でCP市場の資金が逼迫しているためだ。CPは企業が短期資金を調達する市場で、米国では1兆ドル強の残高がある。17日にはCPを直接買い入れる緊急措置を発動したばかりだが、同市場では金利がむしろ上昇するなど投資家の不安は拭えていない。
企業の資金ニーズも高まるばかりだ。航空機大手のボーイングやホテルチェーンのヒルトン・ワールドワイドなどは、銀行と事前に取り決めた融資枠から資金の引き出しを進めている。米議会は中小企業などにも3000億ドルの公的融資枠を設ける方向で協議を急ぐが、飲食・小売りチェーンは売り上げが激減して手元資金を欠く状態だ。
MMFは流動性の高い米国債やCPで運用し、米国では生活者が銀行預金に近い感覚で使う。リスク性のある投資信託などからマネーはむしろMMFに流入しており、本来であれば資金は潤沢なはずだ。
ただ、08年の金融危機時には、ごく一部のファンドが元本割れを起こし、生活者が不安を高めて資金の引き出しに動いたことがある。今回は危機の芽を完全に潰すため、米財務省も水面下でMMFの元本保証などの支援策の検討に入った。
FRBは15日、民間銀行に貸し出す際の公定歩合を1.5%も引き下げ、証券会社向けの資金供給策も17日に決めた。資金の目詰まりを防ぐため「あらゆる政策ツールを使う」(パウエル議長)が、徐々に打つ手は狭まる。残るのは資産担保証券(ABS)など長期証券を担保に資金を供給する施策程度だ。
そのため、歴代のFRB議長であるバーナンキ、イエレン両氏は18日、英紙フィナンシャル・タイムズへの寄稿で、FRBに社債の買い入れを提言した。「FRBは限定的な量の投資適格社債を買い入れる権限を議会に求めることができる」と指摘した。欧州中央銀行(ECB)などが既にこの権限を持っているとし「FRBの介入は、重圧下にある社債市場の再起動に役立つ」と強調した。
現行法は社債や株式の購入を禁じており、議会による法改正が必要になる。新型コロナによって、企業の生産や販売は急激に落ち込んでおり、企業に直接資金を供給するルートを増やす必要があるためだ。
FRBが「最後の貸し手」として潤沢な資金をアピールするのは、米経済には企業の過大債務という急所があるためだ。低金利政策が長く続いたため、企業の借り入れは過去最大の16兆ドルまで膨らんだ。企業金融がひとたび目詰まりを起こせば「信用不安」の芽が浮かびかねない。