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伊藤沙莉は爆音で役に入り込む お供のイヤホンは…

『ひよっこ』『全裸監督』などのドラマや映画で活躍し、4月には『ステップ』『劇場』と2本の映画が公開される伊藤沙莉(さいり)さん。25歳の個性派女優が「いつもカバンに入れている」という仕事道具は、iPhoneの付属イヤホン「Ear Pods(イヤーポッズ)」だった。

仕事に欠かせない音楽とイヤホン

「この取材のお話を聞いて、『現場で常に持っているものって、何だろう?』と考えたんです。それで思い当たったのが、このイヤホンでした。

例えば舞台だと、2~3時間ぶっ通しでお客さんの前に立つじゃないですか。そういう時は、爆音でクラシックを聴きながら劇場に向かうんです。歌詞があるといろんな感情になるので、慌ただしいクラシックを聴いて、早足で歩くことが多いですね。そうやって、頭を空っぽにしたい。

例えば、ももクロ(ももいろクローバーZ)と『幕が上がる』(2015年)という舞台をやった時は、ショパンの英雄ボロネーゼ……あれ? ボロネーゼだとスパゲティになっちゃうな(笑)。『英雄ポロネーズ』をものすごい爆音でかけながら、新宿の街を早歩きで稽古場に向かってました。あれは20歳の時だから、もう5年前ですね。

「このイヤホンは、ずっとカバンに入ってますね。何度かバージョンアップしてるんですけど、これはいつから持ってるのかな。ちょっともう、わかんないです(笑)」

その後、『音楽を聴いて役に入り込んでみよう』と考えるようになって、定着したのが映画『獣道』(17年の長編初主演作)のとき。私が演じる愛衣と、須賀健太くん演じる亮太の関係性がせつなくて大好きな作品なんですけど、その時は平井堅さんの『Life is…~another story~』を聴いてました。

『獣道』では、愛衣がヤンキーになったりAV女優になったり、けっこう衝撃的な人生を送るんです。でも亮太は、どんな愛衣も100%の愛で受け止めてくれる。そんな2人と『Life is…』の歌詞が重なる気がして、愛衣と亮太の関係性のテーマソングとして聴いてましたね。聴くと、自分に『獣道』の世界がストンと落ちていく感じがしました」

イヤホンは今、ワイヤレスが人気。コード付きを愛用するのはなぜなのか。

「私も一時期、首掛けタイプのワイヤレスイヤホンを使ってたんです。でも、充電不足でいきなり『♪ティリリン』って電源をオフにされたりしてきたので、こっちの方が信用できる(笑)。それに私、耳が小さいので、ほかのイヤホンだと耳から飛び出してきちゃうんですよ。この形が一番、耳にフィットします。

フィット感は重要です。私、不審者並みに下を向いて歩くタイプでして。この仕事をしてると『バレたくないんだな』と思われるかもしれないけど、そうじゃなくて。人が視界に入ると緊張しちゃうんです。『私、今、ヘンかな?』とか、余計なことを考えちゃうので。だからなるべくシャットダウンしたい。耳が塞がってると安心するんですよ。

集中力を高めるためにも、イヤホンは大切です。もともと私は集中力が持続するタイプじゃなく、本番中に物音がしただけで我に返ることがよくある。そうならないために、音楽で感情や集中力を高めていて。音楽の力って、本当にすごいなと思います」

「小田和正さんの『たしかなこと』は、家族が亡くなった時にずっと聴いていて。お姉ちゃんとカラオケで歌って、号泣していたこともありました」

小田和正を聴いて役作りした『ステップ』

4月3日公開の出演映画は、重松清の小説を飯塚健監督(『虹色デイズ』)が映画化した『ステップ』。伊藤さんは、妻を亡くしてシングルファザーになった主人公の健一(山田孝之)が、娘を初めて預ける保育園の「ケロ先生」を演じる。

「飯塚さんの現場はもう6~7作目。『ステップ』を映画化したいという話は前から聞いていて、脚本も読ませていただいてたんです。それで『やりたい!』と思っていたのが、ケロ先生の役。言動からすごくいとおしい人だなと思いましたし、冒頭に登場して最初にこの作品のエンジンをかける役なので、『誰かに取られたらショックだな』と思っていて。『やりたい!』と無意識にアピっていたかもしれません(笑)」

カエルのようにジャンプして子どもの緊張を和らげたり、慌てて転んだりして、健一や観客の心を開くケロ先生。一方で子どもに寄り添い、見る者を感動させる場面も。

「飯塚監督には、チーフ(ディレクター)を務められていたドラマ『GTO』(14年)の時に、20歳の誕生日を祝っていただいたんです。そして今回は25歳の誕生日を『ステップ』の現場で祝っていただく形になって。感慨深かったです」

「ケロジャンプと転び方はめちゃくちゃ考えました。飯塚さんに言われたんですよ。『考えてるとは思うんだけど、ここにすべてが詰まってるから』って(笑)。それで『ヤバイヤバイ!』となって、跳ぶかと思って跳ばないバージョンを考えたりしました。ケロ先生のかわいらしさを見せられたらいいなと思いましたね。

「山田孝之さんと真っ正面からお芝居ができた気がして。一歩、前進できた気がする」という

『ステップ』の撮影時に聴いていたのは、小田和正さんの『たしかなこと』。『時を越えて~』っていう、保険会社のCMにも使われている曲です。なぜその曲だったかというと……、私は以前、家族の1人を失ったことがありまして。その人との思い出の曲なんです。『ステップ』は家族の絆の物語で、ケロ先生には子どもの気持ちをくんで話すシーンがあるので、私自身の子ども時代を思い出したら、その言葉が自然に出てくるんじゃないかと思いました。

完成した映画を見て思ったのは、山田孝之さんが『全裸監督』とは別人だということ(笑)。私は18歳の時に『悪の教典』(12年)という映画で初めてお会いして、その後、ドラマ『REPLAY & DESTROY』(15年)や『全裸監督』(19年)でご一緒させていただきました。そのたびに『私はまだ孝之さんと共演したとは言えないです。がんばります!』と話していたんですが、今回初めて、真っ正面からお芝居ができた気がして。また一歩、前進できたんじゃないかなと思っています」

「言いたいことを言えない。耳を傾けてもらえる立場じゃなかった時期も、けっこうきつかったですね。別に主役ばかりやりたいとか、そういうことはまったく望んではいないんですけど、もの作りの一員として、認められたいと思ってました」

豆をひいてコーヒーを飲む朝に憧れる!

03年、9歳の時にデビューし、05年のドラマ『女王の教室』のいじめっ子・田中桃役で注目された伊藤さん。20代に入って朝ドラ『ひよっこ』などで改めて脚光を浴び、今や映画やドラマに引っ張りだこだ。今年はハスキーボイスを生かし、テレビアニメ『映像研には手を出すな!』では主人公の声を担当した。今、女優としてどんな「ステップ」にいると考えているのだろう。

「まだまだです。むしろここからスタート、くらいに思ってますね。これまで全然、順調に階段を上がってきたわけじゃないので。特につらかったのは、オーディションに落ち続けた時期や、1つの役のイメージで見られていた頃。いじめっ子だったら、ずっといじめっ子役。ふざけてる役だったら、ずっとふざけてる役と、一辺倒なお芝居を求められた時期があったんです。そういう意味では、今は役の幅が広がって、幸せだなあと。声優のお仕事も、自分の声が武器になるなんて想像もしてなかったんですよ。声はむしろ、コンプレックスだったので」

プライベートでは最近、キッチン用品をよく買うという。

「この間、すっごく切れる包丁を買いました! お昼のテレビショッピングを見て、衝動的に電話しちゃったんです。『3本セットの包丁ください!』って。それを家族で試して、『すごくない?』って盛り上がりました。本当にもう、サラッサラ切れるので。

お料理ですか? ああ~、私は本当に気が向くときしかやらないし、あんまり包丁を使う料理、しないんで(笑)。だからその包丁も、『何か作ってよ』って親に渡しました。そういえば最近、フライパンも買いましたね。まだ使ってないですけど。

今、欲しいのは、コーヒーメーカーです。もともと飲めなかったコーヒーを、とある夏から飲めるようになりまして。私、普通の人と違って、コーヒーを飲むと眠くなっちゃうんですよ。それでも飲んじゃうくらい好きで、いつも持ってます。喫茶店も好きで、コーヒーを喫茶店で飲むと『おっとなぁ~』と思いますね(笑)。

今は、家でもおいしいコーヒーをいれられる人になりたくて。何なら、コーヒーミルも欲しいなと。それで優雅に、豆をひく朝、とかやりたいです」

伊藤沙莉
 1994年生まれ、千葉県出身。2003年、9歳でデビューし、『TRANSIT GIRLS』(15年)、『ひよっこ』(17年)、『この世界の片隅に』(18年)、『これは経費で落ちません!』(19年)、『ペンション・恋は桃色』(20年)などのドラマで幅広い役柄を演じる。主な出演映画に『獣道』(17年)、『パンとバスと2度目のハツコイ』(18年)、『榎田貿易堂』(18年)、『寝ても覚めても』(18年)など。18年にTAMA映画賞最優秀新進女優賞、ヨコハマ映画祭助演女優賞ほかを受賞。4月からのNHKドラマ『いいね!光源氏くん』に出演、4月17日には映画『劇場』が公開される。

『ステップ』

結婚3年目、30歳の若さで妻に先立たれた健一は、営業部から総務部へ異動し、2歳半の娘・美紀と保育園へ向かう。日々、仕事に家事に忙しく、毎日ヘトヘト。時に自信を失い、落ち込みながらも、周囲の人々に支えられながら前へ進む。そして40歳、美紀が小学校を卒業する頃、大きな転機が訪れる……。監督、脚本、編集・飯塚健 原作・重松清『ステップ』(中公文庫刊) 出演・山田孝之、田中里念、白鳥玉季、中野翠咲、伊藤沙莉、川栄李奈、岩松了、日高七海、角田晃広、片岡礼子、広末涼子、余貴美子、國村隼 2020年4月3日(金)全国ロードショー

(文 泊貴洋、写真 藤本和史)

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