奥深き動物言語の世界 鳥語で「蛇だ」何と言う?
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2020/3/26 2:00
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日本列島全域に生息する野鳥、シジュウカラ。スズメ程度の大きさで街中でもよく見かける。「ジャージャー」と聞こえる鳴き声、専門家によると蛇がいることを仲間に伝える言葉なのだという。

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「そんな話は到底信じられない」と思う読者もいるかもしれない。だが、動物の"言語"に関する研究は近年、世界中で本気で進められている。

北米大陸最大のアリゾナ・ソノラ砂漠に生息するげっ歯類、プレーリードッグの言語を1980年代から研究してきた、米国の北アリゾナ大学のコン・スロボチコフ名誉教授もその1人だ。

■プレーリードッグ語に「方言まである」説

同教授は、ガニソン・プレーリードッグという種類が際立って複雑な"言語体系"を持つことを発見。「コヨーテや人間など天敵の接近を音声で仲間に警告する」「その際、名前を呼び合う」「色や形を表現することもできる」といった研究成果を発表し、2000年代までにプレーリードッグの20以上の"言葉"を特定したとされる。

それにとどまらず、プレーリードッグは「形容詞を使うなど原始的な文法を持つ」とまで主張。2018年にはNHKのEテレ『ダイアモンド博士の"ヒトの秘密"』に出演し、「彼らは後天的に言葉を学んでおり、方言も存在する」との見解を示した。

現在は、Zoolinguaという会社を設立。犬の行動や発声や表情などから、プログラミングなどを使い犬が伝えたいことを英語に翻訳する研究を続ける。

このほかにも、ゴリラやカラス、イルカなどのコミュニケーションの研究は世界にいくつも存在する。研究の多くが目指す最終目標は「小型の装置をベルトに下げておけば、しゃべったことを動物に通訳してくれる」(スロボチコフ名誉教授の共同研究者、ジョン・プレイザー氏)という世界。彼らは皆、いわゆる"マッドサイエンティスト"なのだろうか。

京都大学の鈴木氏はシジュウカラの言葉の意味や語順のルールを突き止めた

京都大学の鈴木氏はシジュウカラの言葉の意味や語順のルールを突き止めた

「人間が動物の言葉を理解するのは簡単にはいかない。けれども動物たちが音声と言う手段を通じ、従来の研究者が考えてきたよりもはるかに高度な意思疎通を図っていることは間違いない」

こう話すのは、日本で動物言語の研究を続ける京都大学白眉センターの鈴木俊貴助教(動物行動学)。冒頭の"シジュウカラ語"の分析も、鈴木氏によるものだ。

もともと生物に関心があった鈴木氏。シジュウカラ語の研究の道に進んだきっかけは、2005年、大学の卒業研究のテーマを探しているときに、シジュウカラの鳴き声がほかの鳥よりも多彩なことに気が付いたことだった。

■シジュウカラ語で「蛇だ!」は「ジャージャー」

鈴木氏は「シジュウカラは200種類ほどの鳴き声を使い分けて、仲間とコミュニケーションをとっている」と話す。冒頭の「ジャージャー(蛇がいる時に出す特別な声)」も、その1つだ。

鈴木氏の研究によれば、実際に「ジャージャー」という鳴き声を録音しスピーカーから流してみると、それを聞いたシジュウカラは、地面に蛇がはっていないか探すような素振りを見せる。またそのうえで、細長い棒など蛇に似たものを示してみると、シジュウカラが確認しに近づいてくることも分かった。他の音声ではこうはならない。

鈴木氏は、蛇を伝える言葉のほかにも、数種類の鳴き声について意味の特定に至っている。

例えば、「ピーツピ」は「警戒しろ」、「ヂヂヂヂ」は「集まれ」という意味だという。さらに言えば、意味の特定だけでなく、言葉の順番にも一定のルールがあることを突き止めた。

シジュウカラは「ピーツピ」と「ヂヂヂヂ」の語順のルールを理解し、組み合わせることができる。「ピーツピ」→「ヂヂヂヂ」という順番で音声を聞くと、たいていのシジュウカラは周囲を警戒しながら音源に近づいてくる。その一方で語順を人工的にひっくり返して「ヂヂヂヂ」→「ピーツピ」という順番で聞くと、ほぼ反応を示さないという。

「おそらくシジュウカラは文法まで持ち合わせている。初めて聞いた文章(鳴き声の組み合わせ)であっても、文法的に正しいかどうかを瞬時に判断し、言葉のつながりを理解できることが分かってきた」。鈴木氏はこう話す。

鈴木氏をはじめ動物言語学者の主張が正確であるとの前提で話を進めれば、今後は、AIや音声認識技術の発達に伴い、動物とのコミュニケーション技術は一段と発達する可能性が高い。正しくヒアリングでき、また再現できる"動物語"が増えるからだ。

■動物と人類が情報をやり取りする日

もっとも、そうやって実現したコミュニケーションは、SFやおとぎ話の中で我々が見てきた「動物との会話」とは、違うものになるかもしれない。

動物が言葉を発しているにしても、それは意思や感情によるものでなく、単なる「刺激に対する反射」である可能性が十分あるからだ。ある種の植物に電極を通してのこぎりを当てると電流は異常を示し、のこぎりを離すと正常に戻るという話がある。だが、それをだけをもって植物に「恐怖の感情がある」とは言えない。

ただ少なくとも、シジュウカラは鳴き声の示す対象や文法のルールを理解したうえで、意志をもって言葉でやり取りしている可能性が高い。

広い意味での動物との意思疎通が実現すれば、それは「動物園の最適管理」や「ペットの病気の早期発見」などを超えるインパクトを人類に与えるのは間違いない。意思疎通のメリットについて京大の鈴木氏は「シジュウカラ語が分かるから、例えばフィールドワークの中でも蛇やタカがいるかがシジュウカラの声で分かる」と話す。

気象予測や災害予知、資源発掘など様々な場面で、動物から得られる情報を人間が活用する未来がやがて到来する。そう考えている研究者がいても、何らおかしな話ではない。

(日経ビジネス 定方美緒)

[日経ビジネス電子版2020年3月10日の記事を再構成]

超能力や不老不死、タイムマシンなどSFのような「突拍子もない研究」に本気で取り組む科学者は世界にたくさんいます。3月23日号の日経ビジネス特集では、「世界のヤバい研究」と題して、一見ヤバそうな研究・開発を紹介しながら、日本社会・経済に潜む問題点の存在もあぶりだしています。

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