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無観客競馬、馬券売り上げ健闘 業界全体には悪影響

2020/3/21 3:00
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新型コロナウイルスの感染拡大を受け、中央競馬は2月29日から無観客での開催が続く。場外発売所や非開催の競馬場での馬券発売も取りやめ、ファンが馬券を購入できるのは電話・インターネット投票だけとなったが、売り上げは前年同期比で8割強を維持。通常開催時の馬券売り上げ全体に占める電話・ネット投票の割合を大きく上回り、当初の見込みよりも健闘している。

ただ、競馬場内の飲食店・売店や競馬専門紙の売り上げ減少など、無観客競馬が馬券以外に及ぼす影響は大きい。無観客が長期化すると、馬券売り上げが2割減となったダメージもじわじわと蓄積し、競馬業界全体に大きな悪影響を与える。

無観客で実施されたJRAのレース(2月29日、阪神競馬場)=共同

無観客で実施されたJRAのレース(2月29日、阪神競馬場)=共同

いつもは歓声が上がるゴール前でも場内は静か。騎手がムチを打つ音が通常時よりもよく聞こえる。スタンドの電気は一部以外は消え、暗くひっそりとしている。無観客の初日、阪神第1レースを勝った騎手の岩田康誠は「レース中は気にならなかったが、終わると寂しい。引き上げてくるときにぱっと(スタンドを)見ると『おらんなあ』と。ファンのありがたみがわかる」。

ただ、馬券を購入し、テレビやインターネットを通じて観戦したり、ラジオを聞いたりしているファンは、当初考えられていたよりも多いようだ。2019年の電話・ネット投票の割合は70%ほど。日本中央競馬会(JRA)は「競馬場やウインズ(場外発売所)で発売しないことの売り上げへの影響を心配していた」が、1週目の2月29日と3月1日は中山、阪神、中京の3競馬場で合計440億6917万円と前年比82.8%を記録した。

2週目の3月7、8日は457億9417万円(同83.9%)、3週目の14、15日も451億9566万円(同81.5%)と通常時のネット投票よりも1割強多い額を売り上げた。「多くのファンにネット投票を通じて参加してもらえ、大変ありがたい」とJRAの関係者も胸をなで下ろす。

現金購入だったファンがネット投票へ

普段は競馬場や場外発売所で現金購入していたファンが電話・ネット投票会員となって馬券を買ったのが健闘の大きな理由だろう。無観客での競馬開催が発表された2月27日以降、3月8日までに約4万3000人が会員に登録。無観客初日には前年比で約5倍となる1万5000人弱が加入した。

ネット経由の馬券購入では1人当たりの購入額が大きくなる傾向もある。JRAによると8日現在で電話・ネット投票会員は444万9241人。同日はそのうちの32.3%が1度以上馬券を買ったという。売り上げから計算すると、1人当たりの購入額は1万8000円弱。年間売り上げを総参加人員(競馬場、場外発売所の入場者数と電話・ネット投票を合わせた競馬への参加者数)で割った、19年の1人当たり購入額(1万6000円弱)と比べて2000円ほど多い。無観客でも馬券の売り上げが健闘している背景にはこうした要因もありそうだ。

無観客で営業できない競馬場内の飲食店への影響も大きい(1日、阪神競馬場内のフードコート)

無観客で営業できない競馬場内の飲食店への影響も大きい(1日、阪神競馬場内のフードコート)

馬券売り上げだけなら悪影響は小さいようにみえる。しかし、それ以外にも視野を広げると打撃は大きい。例えば、営業中止となった競馬場内の飲食店や売店。場内店舗は競馬のある週2日しか営業できないうえ、ネット投票の拡大などで来場者が減少傾向にあるため、経営環境はもともと厳しかった。実際、5年前と比べて売店の数は阪神で52店から46店に減少。中山でも5店減って59店となった。無観客競馬が厳しさに追い打ちをかける。

悩ましいのは無観客を終わらせる時期の判断が難しい点。3月29日の高松宮記念を皮切りに春のG1シーズンが本格化する。中央競馬にとって頭の痛い問題だ。

注目の重賞やメインレースで落ち込み

無観客競馬のここまでの売り上げ傾向から、G1シーズンにまで無観客が長引いた場合に心配される点がある。一般戦より、注目の集まる重賞やその日のメインレースで落ち込みが目立つのだ。

最も顕著だったのが3月1日。中山と阪神で特別戦が始まる前の第8レースまで、3競馬場合計の売り上げは前年比85.2%だった。ところが、中山のメインレース、中山記念(G2)は63.3%に落ち込み、その日の売り上げ全体を押し下げる結果となった。

2月29日以降の日ごとの売り上げをみると、3競馬場で重賞ゼロ(障害を除く)だった29日が87.4%と落ち込みが最も小さく、重賞が1つだった3月8日が84.9%と続いた。一方、重賞が2つの日は、3月1日が79.9%、7日が82.7%で、15日は77.0%にとどまった。14日は88.2%だったが、日程変更で比較対象となる19年3月9日より重賞が1つ増えたためで、参考外といえる。

特に注目馬が集まるレースほど売り上げが落ちており、大幅減の中山記念はG1馬5頭と好メンバーの一戦だった。15日の中京の金鯱賞(G2)もG1で2勝を挙げ、19年末の有馬記念2着以来の実戦となった強豪、サートゥルナーリアが出走していたものの、売り上げは前年比66.7%とかなり少なくなった。

無観客の中でも出走馬は下見所(パドック)に姿を現す(1日、阪神競馬場)

無観客の中でも出走馬は下見所(パドック)に姿を現す(1日、阪神競馬場)

通常開催時からネット投票をしていたファンは購入頻度の高い「常連層」で、無観客になっても午前中の一般レースから馬券を買う行動に変わりはない。一方、注目のレースは、試しに競馬場に足を運び現金で買うというライトファンが多く、無観客になってこうした層が馬券を購入する手段がなくなった――。

こんな仮説も成り立つが、これが現実の理由だとすれば、無観客でのG1開催となった場合、売り上げが大きく減る可能性がある。足元では馬券売り上げが堅調といえども、全く楽観できる状況にはない。

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で、海外遠征を取りやめるなど、売り上げ以外の影響も出始めた。株価の下落が進めば、これまで堅調だった競走馬市場の取引にも悪影響が出る。英国やフランスなど競馬の開催そのものを中止する国も出てきた。「無観客でも開催できるだけマシ」と考えることもできるが、日本の競馬業界もここ数年にないピンチを迎えているのは確かだ。

(関根慶太郎)

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