米、巨額経済対策で短期決戦 問われる政策の優先順位

2020/3/18 17:30
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トランプ米大統領は給与税免除に意欲を示してきた(17日、米ホワイトハウス)=ロイター

トランプ米大統領は給与税免除に意欲を示してきた(17日、米ホワイトハウス)=ロイター

【ワシントン=河浪武史】トランプ米政権が総額1兆ドル(約107兆円)という過去最大の経済対策を打ち出した。景気下振れ懸念の払拭に短期決戦で臨むが、新型コロナウイルスの国内感染拡大が収束しなければ消費喚起の効果は見通しにくい。野党・民主党には休業対策など雇用安全網の充実を求める声も強く、与野党協議では政策の優先順位が問われそうだ。

「大型景気対策がなければ失業率は20%まで跳ね上がりかねない」。ムニューシン米財務長官は17日、議会の与野党指導部に早期決着を懇願した。米失業率は3.5%と50年ぶりの低水準にある。リーマン・ショック後の最悪期でも失業率は10%だったが、米政権は当時を大きく上回る危機との見方を強める。

景気刺激策が1兆ドル規模となれば、2008年の金融危機直後にブッシュ(子)政権が打ち出した緊急対策(7000億ドル)や、その後のオバマ政権による経済対策(7800億ドル)を上回って過去最大となる。歳出全体(4.5兆ドル)の2割を超え、国内総生産(GDP)比でも5%近い巨大な規模となる。

金融危機時に中国が講じた4兆元(当時のレートで約56兆円)と比べてもほぼ2倍。「動揺していた金融市場に一定の安心感をもたらす」(BNPパリバ証券の中空麻奈氏)との見方から、17日の株式市場では買い戻しの動きが優勢となった。

経済対策の柱は1人当たり1000ドルを目安とする現金給付だ。ムニューシン氏は「2週間以内に小切手を送付する」と主張し、需要の落ち込みを早期に食い止めたい考えを示した。新型コロナで打撃を受けるのは観光、飲食、小売りなどの業種で、時給労働者が少なくない。休業となれば途端に収入が断たれ、家賃や光熱費の支払いにも事欠く不安がある。

もっとも、足元ではニューヨーク市などで外出禁止令を検討しており、旅行や飲食などで多額の現金を使う機会すら失われつつある。個人消費のV字回復は簡単ではない。

トランプ米大統領は社会保障財源として労使が負担する給与税の免除を求めてきた。同税の税収は年1兆ドル強と巨大だ。オバマ政権も税率(6.2%)を2ポイント下げ、年収5万ドルの世帯に1000ドルの減税効果をもたらした。

ただ、給与税減税は収入のない失業者や休業者に効果が及ばない。民主党には「大型減税はトランプ氏の大統領選対策」との批判もあり、高所得者を対象から外す可能性がある。

米景気は雇用環境に左右されやすい。日欧に比べて一時帰休や解雇が起きやすく、失業率が急上昇すれば内需を強く冷やしかねないためだ。先行きへの不安が強まれば、現金給付や大型減税はそのまま貯蓄に回り、内需は持ち上がらない。

逆に雇用不安を食い止められれば、生活者は現金給付や減税で浮いたお金を消費や投資に回しやすくなる。野党・民主党は従業員に有給休暇を与えた企業に税控除などで優遇する制度を提唱するなど、解雇や一時帰休を防いで雇用を維持することを最優先すべきだと主張する。

米国は感染者が5000人を超えたが、最悪期はこれからとの見方が強い。トランプ氏は新型コロナの収束時期を「7月か8月くらいでは」と話したことがある。堅調だった雇用環境を維持するにも、そもそも感染拡大の阻止が急務だ。

米長期金利には上昇(債券価格は下落)圧力がかかり、17日には0.3%も上昇して再び1%台に戻った。「景気の悲観論が和らいだほか、財政出動に伴う国債増発観測も影響した」(みずほ証券の上家秀裕氏)

米連邦政府は財政赤字がすでに年1兆ドルに悪化し、利払い負担も同3700億ドルと巨額だ。短期での景気持ち直しに失敗すれば、政府債務が一段と膨らみ、長期的に米経済にとって重い足かせとなるリスクもある。

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