マヨネーズ・納豆・アイス… 消費1位の意外な町は?

出会いの季節、出身地の食文化が話題に上ることも多いはず。
1世帯当たりの消費額では、意外な地域が意外な食べ物でトップに立つ。
クイズで1000人に聞き、間違った人の多い順にランキングした。
1位 白菜
(1)川崎市 (2)長野市 (3)堺市 (4)前橋市
値ごろな食材、鍋文化と好相性

白菜の支出金額トップ3は堺市、大阪市、京都市が競り合ってきた。4位以下も奈良市、大津市など関西勢が上位に並ぶ。背景としては、関西の人々が鍋料理をよく食べることが考えられる。
大阪のてっちり、ハリハリから、京都の鴨、兵庫のぼたん、和歌山のクエまで、関西には多様な鍋文化が根付く。それらのもととなったのが、江戸から明治にかけて、北前船で北海道から運ばれてきた良質な昆布。「ダシがうまいから鍋がうまい」(公益財団法人の関西・大阪21世紀協会)
そんな関西で、鍋物の具材として白菜を大量に使うのは自然な流れといえる。ほかの野菜に比べて値ごろであることも「金銭勘定に厳しい関西の気質に合っている」(大阪の食文化に詳しいNPO法人「浪速魚菜の会」)。関東ではほとんど見られないが、すき焼きにも白菜を入れる家庭も多いという。
トップ3のなかで最近は堺市がわずかにリードしている。3年ごとの平均でみると、2014~16年、17~19年と連続して1位だった。「ベッドタウン化にともない子育て世代が増えており、調理の手間のかからない鍋物が好まれている可能性がある」(市内の青果物卸「大阪南部合同青果」)。
<正解は(3)>
2位 かつお節
(1)さいたま市 (2)高知市 (3)鹿児島市 (4)那覇市
優しい味付け、だしやおかずに

トップの那覇市は17~19年平均で2588円と、2位の鹿児島市の2倍近くにのぼる。理由として考えられるのは料理のだし。昆布でも煮干しでもなく、圧倒的にかつお節だ。
「かつおだしの優しい味付けの料理はごはんと一緒に食べるおかずとして、昔から家庭で親しまれてきた」(料理研究家の多和田真弓さん)。かちゅー湯は、おわんに入れたかつお節にネギや味噌を添え、上からお湯を注いで作る=写真。
琉球王朝時代からかつおだしの文化はあったが、庶民の間に広まったのは戦後とみられる。「太平洋戦争中に国策の一環で、かつお節の工場が沖縄に数多く作られた」(かつお節製造のにんべん)のがきっかけという。
<正解は(4)>
3位 喫茶店
(1)東京都区部 (2)名古屋市 (3)岐阜市 (4)京都市
繊維産業栄えた時代の名残

名古屋市の喫茶店は、コーヒーにトースト、卵料理、サラダなどがつく豪華モーニングで知られる。そのイメージからか名古屋市という回答が約7割を占めたが、トップは隣県の岐阜市だ。人口1000人当たりの喫茶店数でみても、岐阜市は高知市に次ぐ2位で、名古屋市の4位を上回る。
岐阜市の喫茶店文化は、周辺で栄えた繊維産業に起源がある。「問屋の人が喫茶店に場所を移して商談した」(岐阜県珈琲文化研究会)。同会によれば、出稼ぎの工員に栄養価の高い食事を出そうとモーニングが広がったという説もある。
もっとも現代は、家族連れや若者客が中心。市内の井ノ口珈琲=写真=では「週末にゆったりした時間を楽しむ人が多い」という。
<正解は(3)>
4位 やきとり
(1)青森市 (2)さいたま市 (3)堺市 (4)宮崎市
外食店少なく、家に持ち寄る
やきとりの町をうたう地域は全国に数多いが、今回の設問のポイントは外食ではなく持ち帰りであること。14年から6年連続でトップを維持しているのが青森市だ。
やきとり文化に詳しい全国やきとり連絡協議会は「自宅近くに外食店が少なく、友人や親戚の家にやきとりを持ち寄って宴会をしている」と推測する。市内の老舗精肉店「肉のあきもと」によれば、家族などで集まるため100本以上をまとめ買いする客もいる。
実際、青森市の外食の消費額は全国で最下位だ。巣ごもり傾向はほかの食べ物でも顕著で、カップ麺の消費額は全国トップ。雪深い冬に備えて買いだめする人が多いという。
<正解は(1)>
5位 マヨネーズ
(1)津市 (2)さいたま市 (3)大阪市 (4)鳥取市
卵好き、ラッキョウ混ぜて
たこ焼きやお好み焼きにかけるイメージからか大阪市という答えが半数以上を占めたが、マヨネーズそのものの消費額は32位にとどまる。
トップは鳥取市だ。まず、そもそも卵好きという背景がある。卵の消費額は高知市に次ぐ全国2位。「マヨネーズは卵でできているので、マヨネーズ好きと関連があるかもしれない」(鳥取県・食のみやこ推進課)
マヨネーズは鳥取砂丘特産のラッキョウとも相性がいい。「タルタルソースにラッキョウを刻んで入れることが多い」(同)。地場スーパーのエスマートでは、大山町特産の大山ブロッコリーがよく売れていて「マヨネーズをつけて食べる人が多いのでは」と推測する。
<正解は(4)>
6位 納豆
(1)仙台市 (2)福島市 (3)水戸市 (4)千葉市
日常食、カレーやオムレツにも
8割以上の人が「水戸納豆」で知られる水戸市をあげたが、水戸市がトップをとったのは2016年が最後。直近の3年では、17年が福島市、18年が盛岡市、19年が福島市で、平均では福島市が三つどもえを制した。
納豆の起源には諸説あるが、平安時代に東国で源氏の勢力を固めた源義家が、遠征の折に広めたともいわれる。「東北は冬になると雪で物流が遮断されるため、家庭で手軽に作れる保存食として納豆が親しまれてきた」(全国納豆協同組合連合会)
東北のなかでも福島市の消費額が高いのは「日常的に食べる習慣が根付いている」(同市・広聴広報課)ため。小中学校の給食メニューに納豆がよく登場するほか、家庭でもカレーやオムレツなどの具材として納豆を使うことが多いという。
<正解は(2)>
7位 ようかん
(1)金沢市 (2)京都市 (3)松江市 (4)佐賀市
出島輸入の砂糖、入手しやすく

和菓子といえば金沢、京都、松江が有名だが、ようかんでは佐賀が断トツだ。同市の17~19年の消費額は平均1344円で全国の約2倍。小城羊羹(ようかん)=写真=で知られる小城市を中心に、周辺にはようかんを作る店が多い。
起源は江戸時代にさかのぼる。長崎の出島で輸入された砂糖を大阪、江戸まで運ぶ「シュガーロード」が通り、砂糖が手に入りやすかった。原料の小豆が周辺でさかんに栽培されていたほか、鍋島藩のもとで茶道の文化が発達。贈答用だけでなく普段の菓子としても定着した。
小城羊羹は、外側に砂糖のシャリシャリ感があり内側はしっとりしているのが特徴。伝統製法を守っている店が多いという。
<正解は(4)>
8位 ハンバーグ
(1)東京都区部 (2)横浜市 (3)鹿児島市 (4)那覇市
歴史的に魚よりも肉好み
クイズの対象は調理済みの持ち帰りハンバーグや焼くだけで食べられるタネ。17~19年の消費額トップは那覇市で、2位の甲府市を2割以上上回った。
理由の一つとして、魚より肉を好む傾向がある。伝統的に豚を多く食べてきたほか、米軍基地を通じて米国の食文化が流入した影響で、市内にはステーキ店が目立つ。一方、生鮮魚介の消費額は全国で最下位だ。ハンバーグを好む子供が多いことも考えられる。沖縄県の18年の合計特殊出生率は1.89で、34年連続の全国1位だ。
地場スーパーのサンエーではここ数年、冷蔵のオリジナルハンバーグの売り上げが伸びている。「手軽に調理できる点が、子育て世帯から受けているようだ」。同社は県内のスーパーで3割近いシェアがあり、消費額を押し上げている可能性もある。
<正解は(4)>
9位 アイス
(1)さいたま市 (2)岐阜市 (3)金沢市 (4)鹿児島市
茶の湯の文化? 和菓子風目立つ

暑い地域ほどアイスクリームをよく食べるとは限らない。消費額の1位は金沢市。それ以降も3位が福島市、4位が盛岡市、5位が山形市、6位が富山市というように、上位には寒冷地が並ぶ。
金沢が特異なのは、加賀藩が栄えた江戸時代に茶の湯文化が浸透したことだ。「甘いものが好まれるようになり、おいしいものにお金をかける傾向も強い」(金沢市観光協会)。市内の店舗では、和菓子を思わせる意匠を凝らしたアイスが目立つ(写真は「箔一」の金箔ソフトクリーム)。
<正解は(3)>
10位 コロッケ
(1)福井市 (2)奈良市 (3)高松市 (4)北九州市
全国最高の有職率、手軽さ人気

福井市はコロッケのほか、カツレツや天ぷら・フライの消費額も1位だ。背景として、男女とも働いている人が多いことが考えられる。福井県の15~64歳の有職率は全国最高の80%超。料理の時間がとりにくく出来合いの揚げ物に手が伸びる構図が浮かぶ。県ブランド課は「仕事帰りに子供の喜ぶ揚げ物を買うのでは」と推測する。
浄土真宗の信仰から、精進料理の文化が根付く。代表例が野菜の煮物で、各家庭で作り置きしておくことが多い。「揚げ物で栄養バランスをとっていると考えられる」(県ブランド課)
<正解は(1)>
食文化、地域おこしの切り札に

食にまつわる話題は、地域おこしを進める自治体からも注目を集める。「××で全国トップ」として認知されれば、観光客を呼び込んだり、地場産品を売り込んだりできるためだ。
「納豆のまち」を標榜する水戸市では、1世帯当たりの消費額でトップを奪還しようと、無料配布のイベントを市内で毎年4~5回開いている。納豆をかたどったゆるキャラ「ねば~る君」も街頭に立つ。
茨城県内の納豆メーカーでつくる茨城県納豆商工業協同組合(水戸市)の高野正巳理事長は「地元の人に愛されてこそ、『水戸は納豆のまちだ』と自信を持って言える」と話す。
今でこそ「ギョーザのまち」として有名になった宇都宮市だが、1990年にある市職員が家計調査でトップであることに着目し、観光資源としてアピールし始めたのがきっかけだ。浜松市とのつばぜり合いは、毎年の恒例行事にもなっている。
ひとたび話題になれば、経済効果は大きい。2011年に「うどん県」を宣言した香川県。その年の県外からの観光客数は870万人だったが、13年以降は900万人を超えており「PRが奏功した可能性がある」(県観光協会)。昨年は山梨県が「ワイン県」を宣言。「ワイン以外の食材も知ってもらいたい」と意気込む。
各自治体の思惑や意地が絡み、食のトップ争いは今後も続く。そこから新たな観光地や名物料理が生まれるかもしれない。
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[NIKKEIプラス1 2020年3月21日付]
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