原油価格が急落 みんな怖がる理由とは

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小栗 太
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2020/3/24 2:00
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原油価格の目安になるWTIの原油先物価格は3月に入って急落した=ロイター

原油価格の目安になるWTIの原油先物価格は3月に入って急落した=ロイター

新型コロナウイルスの感染拡大が続き、世界の株式が大きく売られるなかで、原油価格の急落に不安を感じる人が増えています。でもちょっと待って。原油が安くなれば、ガソリンの値段や企業が製品をつくる際の燃料代などが下がり、経済、つまり私たちの暮らしにとって良いことのように思えます。ただ実際には、原油安で世界の株式はさらに大きく売り込まれました。なぜ人々は原油価格の下落を怖がるのでしょう。

■産油国間の交渉が決裂

原油価格の目安になるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の原油先物価格は年初に1バレル60ドルほどでしたが、3月に入ると急落し、一時は3分の1の20ドルを割り込みました。価格が急落したのは、3月6日に開いた産油国間の交渉が失敗したからです。2月ごろから新型コロナウイルスの影響で中国などの工場が止まり、原油を使わなくなりました。そこで産出量を減らして価格を上げる相談をしましたが、意見がまとまりませんでした。交渉の決裂を受け、有力産油国のサウジアラビアやロシアはほかの産油国を追い落とそうと増産を決めました。

原油価格の急落を受け、週明け9日の東京市場では日経平均株価が前週末比で1000円以上も急落。ニューヨーク市場でもダウ工業株30種平均が2000ドルを超える大暴落になりました。なぜ原油価格の急落が株価の下落を引き起こしたのでしょう。

理由はいくつか考えられます。最も大きいのは、原油を産出する会社の経営が行き詰まることへの不安です。新型コロナウイルスの感染拡大による悪影響は消費やレジャーを控えるといった需要の減少が中心でしたが、企業の破綻懸念が加わったことで、株式市場から資金が逃げてしまったわけです。

■「低格付け債」の1割強はエネルギー企業

とくに市場の人たちが心配しているのが、米国のシェールオイルの採掘業者です。マーケット・リスク・アドバイザリー代表の新村直弘さんは「シェール業者の採算ラインは1バレル40~50ドル。現在の値段では新規投資が止まってしまう」と話します。

シェールオイルは岩盤に含まれる原油で、2010年ごろから北米で採掘が盛んになりました。国営企業が原油を産出するサウジアラビアやロシアと違い、米国のシェール業者は民間企業です。このため社債を発行して投資家から資金を集め、掘削や製造の設備を買います。でも国家の後ろ盾がなく、原油価格に経営が左右されることから、シェール業者の社債は元本や利息の支払いが滞るリスクの高い債券である「低格付け債」に区分されることが多いようです。低格付け債の発行が盛んな米国では市場規模が1兆3000億ドルに上りますが、このうち1割強をシェール業者などのエネルギー企業が占めています。

これまで世界的な低金利で資金の運用に苦しんでいた世界の投資家は、リスクが高い代わりに利回りも高い低格付け債への投資を積極的に増やしてきました。ところが9日にかけて原油価格が急落すると、投資家がシェール業者の破綻を心配して投資資金を引き出す動きが殺到。低格付け債全体に不安が広がりました。野村アセットマネジメントのリポートによると、米国の低格付け債(ICEの社債指数)は9日に3.6%の大幅安になり、1日の下落率としてはリーマン・ショック後の08年10月10日の4.5%以来を記録しました。

米国の低格付け債の利回りが最も信用力の高い米国債の利回りよりもどれぐらい高いかを示す「クレジットスプレッド」という指標があります。みずほ総合研究所によると、3月13日時点でリーマン・ショックのときよりも高くなっている、つまり投資家に売られているのはエネルギー業種だけです。ただ、シェール業者の破綻が相次げば、ほかの業種も大きく売られる可能性があります。

社債の人気がなくなると、償還期限が来ても企業は新たな社債を発行できず、借金の借り換えに支障が出る可能性があります。ただ米格付け会社のS&Pグローバル・レーティングスによると、同社が格付けした米エネルギー企業の低格付け債のうち、20年に償還されるのは80億ドル強で、21~23年の平均250億ドルよりもかなり少ない見込みです。まだシェール業者の資金繰りが切迫しているとまでは言い切れません。

■オイルマネーの動向に懸念

原油安が株価の下落を招くもう一つの理由として、産油国が産出費用を賄うために株式を売るという見方も出ています。国際通貨基金(IMF)によると、国の財政収支が均衡する原油価格はサウジアラビアが1バレル83ドル台。ロシアが予算で設定した水準は42ドル台です。ほとんどの主要産油国が現在の原油価格では財政を支え切れません。

そこで市場の人たちに急速に広がったのが「産油国が株式市場から資金を引き揚げるのではないだろうか」という思惑です。産油国の資産運用は秘密主義で実態は不明ですが、中東の産油国が原油の販売で築いた、いわゆるオイルマネーは2兆ドル規模に達するという見方も出ています。

こんなエピソードがあります。原油価格が急落した9日の東京市場で、ソフトバンクグループの株価が急落し、下落率は一時、11%を超えました。理由として挙がったのが「サウジアラビアの政府系ファンドがソフトバンクグループの投資ファンドから資金を引き揚げる」という思惑です。真相は闇の中ですが、いかに市場の人たちがオイルマネーの動向に過敏になっているかが分かります。

■自粛ムードで恩恵少なく

冒頭にもある通り、原油価格の下落は私たちの暮らしにとって良い面もたくさんあります。原油を輸入に頼る日本や消費大国の米国では景気を押し上げることが期待できます。ただ新型コロナウイルスの感染拡大が心配な状況では、ガソリンの値段が下がってもドライブ旅行に出かけられず、製品をつくる際の燃料代が下がっても工場が止まれば恩恵を十分に受けられません。

自粛ムードが世界中に広がる状況では、やはり市場の人たちは原油安を良いことと思えず、逆に長引くほど世界の経済を悪くする材料だと考えてしまいがちです。一般に原油は世界の景気が良いときほど利用が増え、価格は上がりやすくなります。原油価格が急落した理由はともかく、原油安が続くいまの状況は経済、つまり私たちの暮らしにとって決して良い状態とはいえません。

(編集委員 小栗太)

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