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老後資金にリバースモーゲージ 自宅を担保に借り入れ

写真はイメージ=PIXTA

平日の夜。恵が仕事から帰宅すると、ダイニングテーブルで良男が幸子へ熱心に相談しています。耳を傾けると、「リバースモーゲージ」という、恵には聞き慣れない言葉が飛び交っています。どうやら、老後資金とも関係があるようです。

筧(かけい)家の家族構成筧幸子(48)良男の妻。ファイナンシャルプランナーの資格を持つ。筧良男(52)機械メーカー勤務。家計や資産運用は基本的に妻任せ。筧恵(25)娘。旅行会社に勤める社会人3年目。筧満(15)息子。投資を勉強しながらジュニアNISAで運用中。

 パパ、ずいぶん熱心ね。

良男 実は同僚から質問されてさ。その同僚の両親が「リバースモーゲージ」に関心があるらしいんだけど、どんなものなのか、教えてほしいって。

幸子 簡単に言えば、自分の家を担保に金融機関からお金を借りる金融商品のことよ。

良男 それだけ聞くと、住宅ローンと似ているな。

幸子 ただ、返済の仕組みが大きく違うわ。普通のローンは元本と利息を毎月返すけど、リバースモーゲージは利息のみを返済するの。元本は契約者が亡くなった後、家を売るなどして一括で返すのよ。

 パパの同僚の両親はなぜ関心を持ったのかしら?

幸子 リバースモーゲージは昔からある仕組みだけど、最近になって注目度が上がったの。長寿化で公的年金だけではお金が足りなくなるかもしれないとされた「老後2000万円問題」などが一つのきっかけね。

良男 老後資金の問題とリバースモーゲージがどうして関係あるんだい?

幸子 日本は欧米に比べて個人の家計資産に占める株式などの割合は低い一方、不動産が高いの。2018年のデータでは、家計資産に占める土地や住宅は約36%よ。予想外に長生きして貯蓄が足りなくなることに備え、家計の資産で比率が高い「我が家」を活用したいと考える人も増えたようね。

 単に家を売るのではダメなの?

幸子 それも選択肢の一つだけど、住み慣れた我が家から退去しないといけなくなるわ。リバースモーゲージは利息払いなどの条件を満たしていれば、契約者が亡くなるまでその家に住み続けられるの。老後資金など手元資金を確保する以外に、最近では定年後も住宅ローンが残ってその返済負担が重い人が、リバースモーゲージを使って借り換えるケースも増えたわ。

良男 借り換える?

幸子 リバースモーゲージで借りたお金で、住宅ローンを完済するの。毎月の元利返済が必要な住宅ローンに対し、リバースモーゲージは利息だけだから、目先の返済負担は大きく減るわ。もともとの住宅ローンの金利などにもよるけど、「借り換えで毎月の返済額が10分の1になった」という契約者の話を聞いたこともあるわよ。

 でも、その代わりに亡くなった後には自宅は必ず手放すのよね?

幸子 そうとは限らないわ。通常は契約者が亡くなった後、相続人が手元資金で元本を一括返済できるなら自宅は残せるし、契約者が生きている間に繰り上げ返済することも可能よ。退職金や遺産の相続などで近い将来、収入は見込めるけど、手元のお金が足りないときに「つなぎ資金」としてリバースモーゲージを使う人もいるの。

良男 なかなか便利だね。利用する人も増えているの?

幸子 リバースモーゲージ最大手の東京スター銀行の融資残高はここ数年で急増していて、19年9月末に約1229億円と10年前の約205億円から6倍に増えたわ。これとは別に、住宅金融支援機構の保険をつける「リ・バース60」というリバースモーゲージもあるけど、こちらも急拡大中で19年に残高が100億円を超えたの。

 すごい伸びね。

幸子 少し前までは金融機関の多くは積極的にリバースモーゲージを勧めなかったようね。利用できる地域や住宅の条件が厳しく、希望を出しても断られる人が多かったわ。融資した後、担保である家の価値が大きく下がって損するのを嫌がる金融機関が多かったのよ。

良男 今は違うのかい?

幸子 東京スター銀行は独自に担保の評価方法を工夫したり、外部の不動産会社系の保証をつけたりして担保割れなどのリスクを減らしているようね。住宅金融支援機構がリ・バース60でつける保険も、担保価値の下落に備えたものよ。保険料を払う代わりに損失を避けられるので、リバースモーゲージに以前より積極的になる金融機関も増えているみたいなの。

 利用者は今後、もっと増えそうね。

幸子 ただ、今も利用に制約は残るの。通常は50歳代後半や60歳代に届かない若い人は使えないわ。それに、毎月の利息を払うために一定の収入がないと金融機関の審査に通らないの。担保価値を認めてもらえる家の条件も広がってはいるけれど、郊外などでは受け付けが難しい例もまだあると思うわ。担保価値が低く見積もられると、希望する融資額に届かないこともあるのよ。

良男 同僚には注意点を伝えておくよ。

幸子 利用する本人と配偶者だけではなく将来、相続人となる子供らの理解も大切よ。最近は、担保になった家を売ってもなお債務が残るときでも、相続人には債務の返済が請求されないタイプの商品が増えたけど、それでも元本を手元資金で返すのか、家を手放すのかの最終判断は相続人に委ねられるわ。子供らの意向もよく聞いておかないと、後でトラブルになりかねないから注意が必要ね。

金利、住宅ローンより高く


ニッセイ基礎研究所主任研究員 高岡和佳子さん
 家計資産のなかで不動産の比率が高い日本では、リバースモーゲージは確かに老後資金を確保する方法の一つです。ただ、優先して使う手段ではありません。通常の住宅ローンより金利が高く、年2%程度が多いからです。しかも通常は変動型で、金利上昇リスクもあります。毎月の返済が利息だけなので負担は軽く見えますが、返済期間が長くなると支払う総利息は決して少なくはありません。
 老後資金の計画はまず支出を減らす余地がないか点検し、手持ちの金融資産でのやりくりを考えるのが基本です。リバースモーゲージは、その取り組みをしてもなお想定以上に長生きして資金不足になったときの「最後の手段」といえます。また、家の担保価値の評価次第では利用できない可能性があることも念頭に置きましょう。
(聞き手は堀大介)

[日本経済新聞夕刊2020年3月18日付]

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