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薬物問題でリーグ休止 連帯責任、これでいいのか

2020/3/18 3:00
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多くのスポーツと同様、ラグビーのトップリーグも現在、試合が行われていない。ただ、公式の理由は新型コロナウイルスの感染拡大ではない。リーグは「コンプライアンス教育の徹底に伴う開催休止」としている。背景には相次ぐ選手の薬物問題がある。再発を防ぐにはどうすべきか。そして、不祥事の後の連帯責任という問題についてはどう考えるべきなのだろうか。

「ラグビー選手=薬物」払拭したい

リーグ休止の理由について、トップリーグの太田治チェアマンは「『ラグビー選手イコール薬物』のようなイメージを払拭したいという強い思いでの決断。コロナの問題とは切り離して考えた」と説明した。

ただ、薬物問題がなかった場合はどうしたのかと問われると、「プロ野球とJリーグの(コロナ感染の)専門家会議の状況を見て判断しようとしていた」と答えている。この日、その専門家会議の意見を受けて2つのプロリーグは試合の延期を決定した。トップリーグもこれに追随していた可能性が高い。

薬物問題を受けてトップリーグの休止を発表する太田治チェアマン

薬物問題を受けてトップリーグの休止を発表する太田治チェアマン

どのみち試合ができないならば、休止の理由はストレートに「コロナの影響」とし、「その期間に薬物問題の教育を徹底する」と説明した方がファンやラグビー界の人にとっても分かりやすかっただろう。意図が伝わりにくい発表になったところは疑問が残る。

一方で、リーグの危機感はよく分かる。昨年のトヨタ自動車の2選手に続き、今月新たに日野の選手1人が違法薬物使用容疑で逮捕された。同じような事件が相次いだのはなぜだろう。

日野で逮捕されたのは外国人選手だ。トヨタでも最初に薬物を持ち込んだのは海外出身選手だったとされる。近年の外国人枠の拡大により、海外出身の選手が増えたことは一因かもしれない。出場機会に恵まれないなど精神的に難しい状況になったとき、海外出身選手は家族や友人といった支えてくれる存在が少ない。彼らへのチームのサポート体制もまだ十分ではない。選手が周りに気付かれることなく悩みを相談できるような仕組みがあった方がいいと思う。

薄まるチームへの帰属意識

ラグビー界の気質の変化も影響しているのではないか。今の現役選手はほぼ全員が1995年のプロ解禁後のラグビーしか知らない。また世間一般と同様、クラブハウスではスマートフォンを触る時間が増え、仲間と語り合う回数は減った。チームへの帰属意識という点では、アマチュアの気風が残る昔の方が強かったように映る。

かつては各チームに外国人選手の親分のような存在がいた。僕が所属していた東芝でいえば、現ニュージーランド代表コーチのスコット・マクラウドやデイビッド・ヒルらである。彼らが若い外国人にチームの文化や規律を教えるという伝統も最近はやや薄れてきている。

日本のラグビー界においては、今回の事件が起こるまでの10年間は薬物問題が少なかった。その前、2009年に起こったのが東芝の選手の大麻使用だった。別の選手による窃盗事件も起きた。当時、チームの主将だった僕は難しい状況下でチームをまとめるつらさに加え、ラグビー界全体を裏切ってしまったという思いにも苦しんだ。

それ以降、東芝では事件が発覚した1月4日を「感謝の日」としている。監督や選手が当時の出来事や思いを話し、再び問題を繰り返さないという決意を新たにする日だ。この10年、ラグビー界全体で薬物事件が少なかったのは、東芝で起きた問題を自分達のこととして受け止めてくれた選手、チームが多かったからではないか。

当時を知る選手も減った今、改めて薬物やインテグリティー(品位)について考え直す必要がある。リーグが行うとしているeラーニングは以前からも各チームで行われているが、手軽な分、どれだけ効果が持続するかという問題がある。協会や選手会が連携したり、複数のチームで協力したりして、もう少し選手の内面にまで踏み込んだ対策をした方がいいだろう。

罪のない他チームやファンに影響

11年前の東芝は選手の薬物使用が確定した後、日本選手権への出場を辞退した。この時とは違い、今回はリーグ全体の休止にまで踏み込んだ。

同じ年度内に複数のチームから逮捕者が出たのは事実だが、大多数のチーム、選手には何の罪もない。彼らの試合の機会が失われていいのだろうか。プロ選手として試合出場や勝利を条件に支払われる収入が受け取れなくなる問題もある。何より、ファンの試合を見る権利まで奪われてしまう。

かつて当事者になった経験からしても、自分達の不祥事で試合ができないのは仕方ないとしても、他のチームやファンにまで迷惑を掛けるのは耐えられない。11年前に日本選手権の開催までが中止になっていたら、反対の声を上げていたと思う。

海外のリーグでは、選手が犯した個人的な事件でリーグ全体を止める判断はあり得ないだろう。今回のリーグの休止期間は、薬物問題への教育だけでなくスポーツの連帯責任についても考える時間にしてほしい。

(元ラグビー日本代表主将)

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