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危機感をモチベーションに 鉄腕・黒田博樹の流儀

大リーグで生きる・番外編(2)

 カープファンが誇る日本球界屈指の豪腕、黒田博樹さん(45)は2008年、海を渡った。当時32歳。初めての環境での体づくりは怖さしかなかったという。日本ではキャンプ中に投げ込み、オープン戦で調整し、一度疲れをとって開幕戦を100%で迎える。中6日登板なので先発翌日は積極的に疲れをとり、徐々に調子をあげればいい。中4日の大リーグは勝手が全く違った。

ブルペンの球数は背番号×2

「中4日では登板翌日から疲れをとりつつも、次の登板に向けて調子を上げないといけない。(次の登板に向けての投球練習は36球と決めていたのは)背番号18だから36にしただけ。自分の中で数字を決めておかないと投げすぎてしまうので。30球も投げられないときもあったし、(37歳で)ヤンキースに行ってからは10~15球で終わるときも、投げずに次の先発を迎えることもあった」

 大リーグは同リーグだけでプロ野球の倍以上の15チームあり、他リーグとの交流戦もある。トレード、マイナーとの入れ替えも頻繁で、4月に対戦したチームが7月になると、全く違うチームになっていることもよくある。登板のたび、対戦した全打者の記録をノートに書き残した。大リーグで1年終えて、自分の目指すスタイルが見えてきた。

100%の力を出しながら、余力を残す

「ケガをせず、コンスタントに試合を作るタイプかなって。力でねじ伏せるタイプでもなかったし」

「生き残るために自分を客観的に見るようになり、自分の直球(4シーム)でどれだけ空振りがとれるか?と考えたら……、30過ぎてそれを求めて100%全身全霊で投げてしまうと体が疲弊する。バットに当てて打ち取る意識は年々強くなっていった。体は余力を残さないとシーズン後半バテる。頭の中で(メンタルは)100%出しながら、(体は)100%はやりすぎない。矛盾してるけれどそんな感じだった」

大リーグを通じて先発以外で登板したのは212試合投げて1度だけ
 大リーグでも一度もローテーションの一角の座は譲らず、肘の腱(けん)を再建するトミー・ジョン手術などによる長期離脱もしなかった。

「日本人は弱い」と思われたくない

「結果が出なかったら、中継ぎの覚悟はしていたけれど、極力ね、今のポジションを放棄したくなかった。そして、日本人として『弱い』と思われたくなかった。人によって重症化することもあるから(体調の見極めは)難しいけれど、少々のことではマウンドに上がって、結果を残していくことで日本人の評価は変わっていくと思った」

「『ちょっときついな』と、登板を飛ばしてしまうと、気持ちのラインが下がって、次ちょっと気になった時に投げられなくなる。足の指のマメがまくれたら、先発を飛ばす投手もいる。次またまくれたら投げられないですよ。米国は(体のどこかが)『おかしい』とこぼしたら、絶対に登板させない。年齢とともに、無理して投げて(ケガが)長引くこともあるので見極めは難しいけれど、我慢して投げ、ある程度の結果を出せたら、どんどんポジティブになり、ゲームに入るメンタルも強くなる」

「自分でもぞっとするような投球回数を投げた」と振り返る黒田氏
 大リーグ通算成績は7年で79勝79敗。防御率3.45、1319イニングも投げた。

自分がゾッとするほど投げた

「今から考えると、ぞっとするような数字を投げたと思う。パワーピッチャーで勝負したら、あれだけの回は投げられてない。年齢とともに考える能力、気づく力がついていって、ボールを動かし、体の状態を1年キープすることを考えながらやっていた」

「言い方は悪いですけど、使われやすい選手、この選手が1年間いてくれて助かったなという存在でありたかった」

 田中将大、ダルビッシュ有……、黒田さんと外野で話し込む日本選手は多かった。親しまれる存在だった。ただ、20代の彼らと違い、複数年が普通の世界にあって1年契約にこだわった。

1年契約は僕もチームもWIN-WIN

「もっているものも、野球に対する考え、(大リーグに行った)年齢も違うから、ひとくくりにするのは難しい。彼らは肝が据わっていますね。あれだけの大型契約をして結果を残しているんだから」

「契約社会の米国は年齢を重視する。力があれば別ですけど、『この年齢だったらこのくらいしか見込めない』という部分がある。1年契約だと常に危機感が持て、それがモチベーションになった」

「1年でダメだったらクビ切られるし、オファーがなかったら辞めればいい。僕にとってもチームにとってもいい。性格上、『大型契約して結果を出さないんだ』って思われながら、毎日グラウンドに行くのはしんどい。1年契約ならチームも多少のリスクをとりますよね」

大リーグには挑戦しやすくなった。「あとはどのくらいの気持ちがあるか」と黒田氏は言う
 広島に戻り、伝えたいことはあったが、自分が思った以上に体が疲弊していた。日本の野球も変わり、投手の分業は思った以上に進んでいた。

どれくらいの気持ちで大リーグに行くか

「(先発は)100球をめどに(交代)というのは(日本では)違うと思いますね。日本は中6日、毎週月曜日は試合がない。数字だけで判断するのは違うと思う。米国でも次の登板が中5日だったら110球くらい投げたし、早い回で降板したら翌日、『投げるかもしれないから』と言われました」

「(大リーグに)挑戦しやすくなっていると思いますけどね。どれくらいの気持ちがあるか。行くからには結果を残すという強い気持ちで行くと思うけれど、後先考えずに行く人もいれば、いろんな人がいる。日本ではエースとして扱ってくれても、向こうではそうではない。その覚悟は持っていないといけない。でも、はい上がっていけばいい。僕は(広島に)入った時たいしたことなく結果も出なくて、自分の力を確立する大変さを味わったのは生きたと思います」

(聞き手は篠山正幸、原真子)

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大リーグで生きる

新型コロナウイルスの感染拡大で開幕が遅れていた大リーグが、7月23日、いよいよ開幕する。レギュラーシーズン60試合は1870年代以来の短いシーズンとなる一方、7月まで4カ月弱開幕がずれ込んだおかげで、大谷翔平が2年ぶりに開幕から二刀流に復帰する。今季大リーグでプレーする日本選手は9人、いよいよ熱い夏が始まる。(この連載は本編5回、ビジュアルデータ1回、番外編3回で構成します)

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