長期君臨へプーチン氏強引(The Economist)

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2020/3/17 0:00
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プーチン氏は2000年にロシア大統領に就任して間もない頃、自分がいつどのように退任するのか考えていた。当時48歳。大統領専用リムジンでモスクワの夜を移動中だった同氏は、同乗していた記者にこう漏らした。「いつか普通の生活に戻り、プライベートな日々を送れることを切に願っている。国王のような人生に魅力を感じない。民主主義の方がずっと持続性がありそうだ」

プーチン氏の今回の権力維持の手法はクリミア併合や石油大手ユーコスの収用の時と同様、表向きはまっとうにみえるよう練ったものという(写真は10日、ロシアの議会で演説する同氏)=ロイター

プーチン氏の今回の権力維持の手法はクリミア併合や石油大手ユーコスの収用の時と同様、表向きはまっとうにみえるよう練ったものという(写真は10日、ロシアの議会で演説する同氏)=ロイター

以来20年、プーチン氏が大統領を辞め、平穏な引退生活を送るなど今やほど遠い。ロシア議会上下両院は11日、同氏が提出した憲法改正法案を可決し、大統領の任期制限にこれまでの任期を算入しない追加の改憲案も承認した。本来は24年に退任しなければならなかったが、今回の改正で36年までか、恐らくそれ以降の続投も可能になった(編集注、同氏は14日に同法案に署名した)。

■大統領が行政機関から司法まで掌握する改憲

プーチン氏は権力を維持する策をかなり前から考えてきた。ベラルーシ共和国をロシアと統合し、その新国家を統治する、強い権力を持つ国家評議会の議長を務める、新たな議会制度を作り自分が首相を務める、などだ。だが結局、憲法改正という最も大胆にして単純な方法で権力を維持する道を選んだ。これはソ連崩壊で独立した中央アジア諸国の独裁者らの先例に倣ったものだと、政治アナリストのキリル・ロゴフ氏はみる。

今回のプーチン氏による改憲は、議会と裁判所の権限を制限し、同氏を「国家元首のみならず行政府の長とも位置づけ、全国家機関の調整を図り、司法をも支配することを可能にした」とロゴフ氏は解説する。この権力掌握は、神や伝統、両性に基づく家族、第2次大戦での偉大な勝利(ロシアは5月9日、対独戦勝記念75周年を迎える)といった美辞麗句で覆い隠された。

■資源輸出が今もGDPの30%はプーチン氏の責任

多くの独裁者と同様、安定確保のためには権力の座に居続ける必要があると言う。プーチン氏は10日、下院での演説で原油価格の急落や、新型コロナウイルスの感染拡大、国内外に潜む敵からの脅威を引き合いに出して「彼らは我々がミスか失敗を犯すか、忍耐を失うか、さらには内部分裂で身動きが取れなくなるのを待っている。これらの事態は時に海外勢力による主導や扇動だけでなく、資金援助さえ受けていることがある」。

原油価格は9日の週、一時30%も下落したが、これもプーチン氏があおる危機感に拍車をかけた。石油・天然ガスはロシアの輸出の大半を占め、国内総生産(GDP)の3分の1を占める。ロシアが今も資源に依存している原因の多くはプーチン氏の失策だ。同氏の指導の下、ロシア経済を多様化させる試みは失敗に終わった。

プーチン氏は、世界情勢があまりに厳しく大統領から退くわけにはいかないとほのめかした。旧ソ連の国家保安委員会(KGB)出身の同氏は、自身の役割を憲法の守護者のみならず(もっとも本人はその書き換えに忙しい)、「国の安全保障、国内の安定、進化的発展を確実にする人」と定義した上で、「進化的」としたのは「ロシアに革命はもう必要ない」からだと付け加えた。

前述した致命的な危機を回避できるのは自分しかないというのは言うまでもないことだった。それでも、これをソ連時代の有名な宇宙飛行士で、今は83歳の下院議員テレシコワ氏に言わせたのだった。彼女に大統領の任期をリセットする改憲案提出の役割が与えられ、同法案は即、上下両院と大統領の支持を得た。

■レームダックになるのを恐れたプーチン氏

このすべてはプーチン氏が1月15日、年次教書演説で最初に改憲の意向を示した時に始まった特殊作戦の一部だった。憲法改正のプロセスは透明性を欠き、唐突だった。元KGBらしいやり方だ。同氏は権力トップに駆け上がるため、クレムリン(ロシア大統領府)の片隅で特殊な作戦を練って実権を握った男だ。首相に任命されたばかりの1999年12月にKGBの流れをくむ治安機関のロシア連邦保安局(FSB)に向けての演説で、「ロシア連邦政府内での秘密工作に従事していたFSB工作員グループが任務をうまく完遂した」と冗談を飛ばした。その翌年、同氏は大統領に就任した。

以来、2014年のクリミア併合とウクライナ侵攻や、04~06年の石油大手ユーコスの収用など様々な特殊作戦を実行してきた。クリミアの住民投票やユーコスの見せしめ裁判も含め、どれも合法的手続きかのように粉飾された。今回の憲法改正も同じだ。

プーチン氏は、改憲は(自身が支配する)憲法裁判所の合憲判断と国民の支持がなければ発効しないとしている。改憲の是非は4月22日の全国投票で問う。ソ連を樹立したレーニンの生誕記念日だ。全国投票は国民投票でも選挙でもなく、クリミアでやらせた住民投票と同様、法的に疑わしい手続きだ。

プーチン氏がかねて権力の維持を狙っていたのは明らかだが、改憲を進めたタイミングとその速さは驚くべきものだった。政治学者のエカテリーナ・シュルマン氏は、ロシアのエリート層が自分たちの将来に不安を感じていたのも一因だと指摘する。プーチン氏の取り巻きの地位は同氏にかかっている。今後についてプーチン氏の考えが不確実だと自分たちの資産や地位、果ては自由まで奪われるリスクがあるというわけだ。

プーチン氏が改憲に早く動いたのは、エリート層が同氏の後継者を誰にするかで合意するリスクを排除したかったからだとシュルマン氏はみる。そんな事態になれば自分はレームダックになる。モスクワのソビャーニン市長は自分個人のサイト上で「次期大統領に立候補できない大統領は必然的に力を発揮できない。現職の再選を禁じることは内政、外交の両面で不安定要素になる」と指摘した。

■国民を統制する手段はもはや抑圧しかない

しかし、この数カ月のプーチン氏の言動は一貫性と説得力を欠いており、国民の支持率を失うことになりかねない。同氏が自分の計画を国民に押しつけようとしても、成功するとは限らない。ロシアほど想定外の事態をもたらす国はほぼない。今回の権力掌握は、経済が低迷し腐敗がはびこる中で進められた。

プーチン氏の支持率は、18年3月に再選を果たして以降、この2年で60%から35%に落ちた。外交面で大胆な手を打ってももはや国民の支持を取り付けるのは難しい。同氏の重要な支持基盤だった反米路線に多くは冷めている。それだけに4月22日の全国投票は政府による不正が横行する可能性が高い。改憲反対の運動も、新型コロナウイルスの感染拡大防止を大義名分に集会の開催は禁じられそうだ。

ロシアの社会学者エラ・パネヤク氏は、ロシア大統領府にはもはや一般市民の気持ちがわからなくなっていると指摘する。政府からの情報伝達は最近はプロパガンダ(政治宣伝)放送しかなく、今やその影響力は低い。税金をつかった国民への賄賂も機能しなくなっているようだ。

従って、国民をコントロールする残された手段は今や抑圧しかなく、ロシア政府は既に必要ならそうする方針を示している。パネヤク氏は「政府には抑圧する手段が多くあるので、何度も何度も使うだろう。だがどこかで力では問題解決には至らないことに気づく」と指摘する。

プーチン氏の強引な改憲と、国民にすり寄ったりプロパガンダを使ったりするのではなく抑圧で権力を維持する方針は、同氏に異を唱えることが一層難しくなるということだ。秩序ある権力移行の可能性はさらに薄れ、暴力が発生する危険は高まる。だが、これらすべては「安定の維持」の名の下になされているのだ。

(c)2020 The Economist Newspaper Limited. March 14, 2020 All rights reserved.

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