仕事と子育て自在 細切れリモートワークがママ救う

企業を取り巻くさまざまなリスクを回避するためのITサービスを提供するGRCS(東京・千代田)。子育て中の女性や他の企業を定年退職した年配者などを積極的に採用。コアタイムがなく、基本的にはどこでリモートワークするのも自由という「完全フルフレックス制度」を設けていたり、業務内容次第ではあるものの、地方在住者は完全在宅で仕事ができたりといった、多様な人材が無理なく働ける仕組みづくりを進めている。GRCSが取り組んでいるさまざまな人事施策について聞いた。
GRCSという社名は、「ガバナンス・リスクマネジメント・コンプライアンス・セキュリティー」という4つの言葉の頭文字をつなげたもの。その名前の通り、さまざまな企業リスクを回避するためのコンサルティングやIT製品・サービスを提供する、というのが同社のミッションだ。2005年にFrontierXFrontierという社名で創業したが、18年3月、業務内容を表す現社名に変更した。
19年12月現在の社員数は87人で、そのうち24人が子育て中のママやパパ。小さな子どもを育てている女性の採用にも積極的だ。
「代表の佐々木慈和も自身も子どもを持つ父親で、子育て中の母親たちが、家庭内でいかに山積みのタスクをスムーズに処理し、時間管理にたけているかを熟知していたことから、まだ共働きがこれほど世間で叫ばれてはいなかった8年ほど前から積極的な『ママ採用』をスタートさせました」と、広報担当の深井翠さん。今は、定年退職したシニア層の採用にも意欲的で、既に3人が在籍している。若手とシニア、子育て中の人など、さまざまな背景を持つ社員が共に働く多様性のある環境が着々と醸成されつつあるという。
子育て中の人やシニアは、能力はあっても、働く時間や働き方に制約が生じることがある。そこで同社では、当人たちが希望する働き方を、可能な範囲で受け入れてきた。

細切れにリモートワークできる点も子育て中の社員らに好評
例えば、19年1月に中途で入社した丸山香さんは、週4日、1日5時間(週20時間)勤務する正社員。週1日は家事や子どもの習い事に充てたいという丸山さんの希望に応じ、フレックスタイム制度を活用することで、週4日勤務を実現させた。
また、地方に住む人が「東京に住居を移さずに仕事をしたい」と希望した場合、業務内容によっては「完全在宅」で仕事をすることも認めている。実際、開発者の中には中国地方や関西地方在住の人もいるという。
こうした働き方や場所、時間に制約のある社員たちが枠にとらわれない働き方ができている背景には、15年に正式に制度化された、自由にリモートワークができてコアタイムもない「フルフレックス制度」や柔軟な勤怠システム、セキュリティーが担保された勤務環境があるという。
例えば、子育て中の社員の場合、子どもの発熱で保育園や小学校を休んでいる日は在宅勤務とし、子どもが眠ったタイミングなどで会社のシステムにチェックインして仕事、起きたらチェックアウトして子どものケアに切り替える、などと、オン・オフを小刻みに切り替えられるため、有休を取らなくて済む場合もあるという。同様に、小学校の学校行事なども、このシステムがあるために、仕事の休みを取らずに参加できる。「細切れにリモートワークをしても、勤務時間は分単位でしっかり記録されるので、完全に自分のペースに合わせて仕事を進めることができます。子育て中の社員たちに非常に好評です」と深井さんは説明する。

「自由だからこそ、結果にコミットすべき」がベースに
こうした自由度の高いリモートワークやフルフレックスの制度が機能しているのは、「時間は重要ではないが、自由だからこそおのおのが責任を持って結果にコミットすべきだ」というベースにある考え方が、社員間に徹底されているためだ。
部署によっては、リモートワークが完全に無制限でなく、「週1回は出社して、部の定例ミーティングに参加する」といったルールを設けているところも。ただ、地方在住の社員の場合は、厳格に「定例ミーティングへの参加」を守らせるのでなく、上司のほうから出張ついでに会いに行ったりするなどして、柔軟に対応しているという。
社外活動を推進しているのも、社員間のコミュニケーションや会社への帰属意識が希薄になることがないように、という理由によるものだ。
「社外活動とは、社員同士が集まって行う部活動のことです。1年前に部活動奨励制度ができてから、補助金も出るようになりました。今では、アウトドア部、ゲーム部、ボーリング部、英会話部などができ、社員同士のコミュニケーションの活性化にもつながっています」

お金よりキャリアを優先 まずは認可外に預けてパートで入社
ちなみに、広報担当の深井さん自身も、小学校5年生と3年生の二人の子どもを育てる母親だ。「社長と取締役の次に社歴が長い」という深井さん。入社した2012年当時は子どもたちはまだ3歳と1歳だったという。
「私はもともと航空会社の客室乗務員で、結婚を機に主婦になりました。出産後しばらくは子育てに専念していましたが、ブランクが空き過ぎると二度と社会復帰できないんじゃないかという焦りが出てきて、再び社会に出ることを考えるようになりました。
でも事務職の経歴もなく、子どももまだ小さい。夫は仕事が忙しく家事育児は自分が担わなければならない。でも働きたい。そんな葛藤の中で主婦専門の職探しのサイトで見つけたのが、弊社のバックオフィスの求人でした。『ママ大歓迎』と書いてあったので、挑戦してみることにしました」
まずはパートとして入社した深井さん。実は当初、急きょ見つけた子どもの預け先が認可外保育園で、その保育料を差し引いたら、給料はほとんど手元に残らなかったという。
「それでも、働き続けることで将来的にはプラスになると信じ、まずは目先のお金よりキャリアを積むことを優先しました」と話す深井さん。徐々に成果を認められて3年目には正社員に登用され、今に至ると言います。
深井さんが応募した主婦専門の職探しのサイトでの求人募集は、今も継続しているという。
(取材・文 磯部麻衣)
[日経DUAL 2019年12月12日付の掲載記事を基に再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。