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ラグビーW杯「史上最高」剰余金68億円の使い道は?

2020/3/17 3:00
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成功を収めた昨年のラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会が新たな「史上最高」を記録した。大会組織委員会が3月10日に発表した実質的な黒字は68億円程度と、W杯史上最高額になったとみられる。巨額の剰余金を日本のラグビー界はどんなレガシー(遺産)に使えばいいのか。

過去のW杯で開催国に入った剰余金をみると、2015年のイングランド大会で2600万ポンド(約34億円)だった。今回はその2倍に達した。プロが解禁された1995年以降で最高だった99年ウェールズ大会の3000万ポンド(約40億円)も大幅に上回る。プロ化以前のW杯はビジネス面で発展途上だったため、日本大会の剰余金は過去最高で間違いないだろう。

ミュージアムなど3つのレガシー事業展開

組織委は68億円の剰余金を日本ラグビー協会に譲渡する。日本協会の年間収入約50億円(19年度予算)を超える巨額の資金の使い道として、組織委は「3本柱」を要請した。(1)建設予定の新秩父宮ラグビー場にミュージアム(博物館)などを整備する(2)地域活性化の活動(3)W杯再招致をにらんだ日本のラグビーのさらなる飛躍・発展――の3つである。各事業を進めるため、68億円を各20億円程度の3つの基金に分けて管理することも求めた。

日本協会の岩渕健輔専務理事は「要請をすごく重いものとして受け止めた」と話し、3つの事業は協会の中長期計画にも含まれていると説明する。

「ミュージアムはいらない」――。「3本柱」の要請が発表された後、SNS(交流サイト)などで批判が出たのが1項目目だった。ハコモノより他の用途に使った方がラグビー界のためになるという意見である。

そもそもスポーツ大会の「レガシー」とは何か。国際オリンピック委員会(IOC)は「長期にわたる、特にポジティブな影響」と定義する。他のスポーツイベントを見ても、競技の普及や地域の振興など、大会の理念に沿った将来への投資が多い。

ラグビーW杯組織委員会の理事会後にレガシー事業について説明する嶋津昭事務総長

ラグビーW杯組織委員会の理事会後にレガシー事業について説明する嶋津昭事務総長

ミュージアムの設置もよくある施策の一つではある。嶋津事務総長は「W杯の関連資料や各自治体からいただいたもの、日本代表の昔のジャージーなどのものを大事にまとめて展示していければいい」と目的を説明する。15年イングランド大会や、サッカーの02年W杯日韓大会後にもミュージアムへの投資は行われている。

ただ、使われる金額はケース・バイ・ケースである。サッカーW杯日韓大会の後、日本の組織委は約120億円の剰余金のうち30億円をミュージアムの整備に活用。日本サッカー協会が別に負担した約30億円と合わせて東京都内に日本サッカーの拠点となるビルを購入し、その中にミュージアムを設置した。

このときは不動産を購入したため金額が膨らんだが、今回は別の形が想定されている。モデルとなるのはイングランドのワールド・ラグビー・ミュージアム。トゥイッケナム競技場の建物内にあるため、15年W杯の後、イングランドラグビー協会が施設を移築した際も180万ポンド(約2億4000万円)の費用で済んだ。古いルールブックやジャージーなどで競技の歴史を一望できるようになっているほか、キックなどをゲームのように楽しめるコーナーもあり、観光名所にもなっている。

今回のミュージアム構想も新秩父宮ラグビー場の建物の中に置く想定。スタジアムそのものは日本スポーツ振興センターが建てるので、実際のミュージアムの設置費は大幅に少なく済む。「イングランドと同じような額で収まるのではないか」と話す組織委関係者もいる。施設の意義や費用をもう少し明確に説明できれば、ミュージアムへの理解は今より広がるのではないか。

「どう使うか再検討が必要」

組織委が要請した3本柱の2つ目、自治体との連携は既に動き出している。試合会場やキャンプ地誘致に名乗りを挙げた自治体131団体が参加し、連携組織を創設した。今後は事務局を設け、その中で具体的な施策が検討されることになる。

子供向けのラグビー教室などの普及活動は事業の筆頭に入るだろう。各地に練習場をつくる際の助成金に充てることも候補になる。日本サッカー協会も02年W杯の後、こうした事業に剰余金を使った。イングランドラグビー協会も15年W杯の剰余金で学校のチーム創設を支援している。「現代っ子は、体が汚れるからと天然芝でのプレーを嫌がる」との理由で、人工芝のグラウンドも大量に整備している。

台風接近で中止になったW杯の3試合を再開催する際の支援も選択肢になりそうだ。嶋津事務総長は「岩手県釜石市や愛知県豊田市が中止になった試合をやりたい意向を持っている」と説明する。

3本柱の最後、W杯の再招致のための活動は目的が大きいだけに、解釈の幅が広い。岩渕専務理事は「W杯の再招致のためには強い日本代表が必要。若手世代などの代表強化は大きなレガシー事業に入る」と語る。アジア各国へのラグビーの普及活動もこの中で行われそうだ。

一方で、岩渕専務理事は「(組織委が要請した各事業20億円ずつの)金額は目安と認識している。どう使うかは再度、考える必要がある」とも話す。最終的なレガシー事業の中身や資金配分は協会が決めることになる。

日本ラグビー協会の岩渕健輔専務理事

日本ラグビー協会の岩渕健輔専務理事

「その際には使途の透明性を確保する必要がある」と組織委幹部は話す。剰余金の元手となった組織委の収入677億円のうち、198億円は開催自治体や日本スポーツ振興センターからの助成金、宝くじの収益金となっている。つまり公的なお金である。会場の整備、改修にも多額の公費が投入された。費用のほぼ全額を入場料収入で賄った15年イングランド大会との大きな違いである。今回の剰余金の使い道は一層の配慮と説明が求められる。

日本協会の財政健全化は別会計で

今季限りでスーパーラグビーから除外されるサンウルブズのために剰余金を使うべきだという声もある。サンウルブズは日本代表の強化の土台であり、大会への参戦が継続できれば大きな意義がある。ただ、スーパーラグビーの主催者は日本に毎年10億円の納付を求めている。独立したプロクラブでもあるサンウルブズに、公金が元手となったお金を毎年10億円ずつ入れるとなれば、論議を呼びそうだ。

「日本協会の赤字補填に使ったと思われるようなことはしてはいけない」。組織委の理事会では、有力幹部がこうクギを刺す場面もあった。

背景には日本協会の厳しい財政がある。W杯に向けた代表強化に注力したため、19年度の予算は約10億円の赤字となっている。新型コロナウイルスの影響などによるトップリーグの休止もあり、20年度の収支も悪影響が出かねない。68億円を協会の一般財源にすれば財政問題は一気に解決するが、それはレガシー事業のための資金とは呼びにくくなる。

同じく多額の公金が使われた02年サッカーW杯の後、日本サッカー協会は剰余金を一般会計とは別の会計にして管理した。ラグビー協会もまず同様の措置を取る必要がありそうだ。

「通常の業務でしっかりと稼ぎ、68億円はしっかりと未来につながる事業に使うべきだ」と協会関係者はいう。まずは21年にできる新リーグや日本代表戦の収益性を高め、協会の財政を健全化する。その上で68億円を草の根の支援や、W杯再招致のための事業に使うというのが本来のあり方だろう。

(谷口誠)

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