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投手大谷の取り組み 手の位置は肘より下か上か
スポーツライター 丹羽政善

2020/3/16 3:00
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昨年12月、新しくエンゼルスの投手コーチに就任したミッキー・キャラウェイは、エンゼルスタジアムで大谷翔平が投げるのを見守っていた。

2018年10月にトミー・ジョン手術(側副靱帯再建術)を受けた大谷は昨年、シーズンを通して右肘のリハビリを行い、その完了の目安をシーズン中としていたが、9月半ばに左膝の手術に踏み切ったため、中断を余儀なくされていた。膝の回復を待って、最後のメニューが行われたわけだが、そのときキャラウェイ投手コーチは、1つ注文をつけた。

「日本へ帰ってからもキャッチボールをすると思うが、ハイコックポジションだけは意識してくれ」

「ハイコック」でないと腕にストレス

踏み出した足が地面に着地する寸前に、ボールを持った手が、投球する腕の肘の位置よりも、上にあるかどうか。それをハイコックポジションと表現したわけだが、その理由をこう説明している。

「その位置にないと、投球動作で上半身が回転を始めたとき、腕が遅れてその腕にストレスがかかる。マウンドから投げる場合は、傾斜がある分、多少(腕を上げる)時間的な余裕があるが、フラットグラウンドでは、意識をする必要がある」

もっとも、その時点ですでに大谷の手の位置は肘よりも上にあった。手術前は下だったが、昨年のリハビリを通して、フォームを変えていた。

18年5月の大谷の投球フォーム。踏み出した足が地面に着地する寸前に、ボールを持った手が肘の位置より下にある=USA TODAY

18年5月の大谷の投球フォーム。踏み出した足が地面に着地する寸前に、ボールを持った手が肘の位置より下にある=USA TODAY

20年3月2日、ブルペンで投球練習する大谷。2年前よりボールを持つ手の位置が高くなっている=共同

20年3月2日、ブルペンで投球練習する大谷。2年前よりボールを持つ手の位置が高くなっている=共同

昨年8月24日のこと。大谷は遠征地のヒューストンでブルペンに入ったが、変化は明らかだった。本人に練習後、「手の位置が上にあるほうが、肩や肘への負担が少なく、故障のリスクが低いとされているが、それを意識してのことか」と聞くと、「理論的にはそう言われていますね」と答えたが、意図的であることは否定している。

「僕は感覚に従うタイプなので、これがいいなと思ったらやってみて、ダメだったらやめていく。その繰り返し。そこに結果的にそういう理論がありました、ということはあるかもわからないですけれど」

続けて、「チームから指示があったのか?」と確認すると、「言われてないです」と首を振っている。しかしながら昨年12月の段階では明確に「意識してくれ」と告げられたのだった。

もう少しハイコックポジションの利点について触れておくと、川崎市武蔵小杉にある「ベースボール&スポーツクリニック」の馬見塚尚孝医師は、「ステップ直前で投球腕の肘より手が高くまで上がっている場合、体幹が大きく加速するときに手がすでに頭の後ろにあるため、体幹と腕を同時に加速できます」と話し、医学的見地から、「体幹の加速に対して腕の加速のタイミングの遅れがないため、肩肘の負担が小さく障害リスクが低い投げ方だといえます」と説明した。これを日本では、外旋位コックアップタイプと呼ぶ。

一方、肘が手より上にある場合、これを内旋位コックアップと呼ぶが、馬見塚先生は「体幹の加速に対して、腕が遅れて加速されることになるので、外旋位タイプと中間位タイプ(ステップ直前の肩関節が中間位付近にある)と比べても球速がさらに出やすい」としつつも、こう指摘した。

「肩や肘への負担が大きくなる投げ方です。実際に、肩痛・肘痛で受診する選手にはこの投げ方が多くいます」

失うものもあるが、柔軟性も必要

さて、大谷のケースに限らず、そうした科学、医学的な根拠もあってチームは選手にフォームの修正などを提案するわけだが、仮にその投げ方が合わなかったり、大切にしている感覚とズレがあったりする場合、選手はどう折り合いをつけるのか。

その点を大谷に聞くと、「それはバッティングにもピッチングにも、合う、合わないがある」と、変化に伴う難しさを示唆した。「例えば、腕を通す位置だったりとか、ルートだったりとか、その方がいいけれど、全然タイミングが遅れるんだったら、それは良くないルートなのかな、というか……」

それによって失うものもある、ということか。

「いいタイミングで(腕を)上げられるんだったら良いと思いますけれど、それを今やって、できるかといったら、合った人にはできると思いますし、合わなかった人だったらすぐにはできないので」

とはいえ、完全に否定するつもりもない。「(どこかで)折り合いはつけないといけないですし、言われたら、やってみるのも一つの手ではないかなと思います」

一定の柔軟性も必要ということのようだ。

キャンプ6度目のブルペンでほぼ全力に近い形で投げる大谷(11日)=共同

キャンプ6度目のブルペンでほぼ全力に近い形で投げる大谷(11日)=共同

そうした経緯を経ての現在地。大谷は11日、キャンプで6度目のブルペンに入ると、雨が降る中、ほぼ全力に近い形で投げていた。そこまで強度を上げてもハイコックポジションをもはや意識する必要はないのか。つまり、運動は自動化されているのか?

その問いに大谷は、「ブルペンのレベルでは意識してできますけれど」と話し、「もちろん、バッターに集中したときに、そういうふうなところまで落とし込める練習をする必要はある」と説明した。

そこで大切になるのは、「試合のレベルで投げるときにも、基本的に緩やかに順序よく加速させていけるかどうか」だという。それはしかし、今後、実戦を重ねながら、体に覚えさせていくしかないのかもしれない。

エンゼルスのビリー・エプラー・ゼネラルマネジャーは13日、シーズン延期を受けての電話会見で、大谷の投手としてのリハビリプログラムに変更はなく、予定通り続けていくことを明らかにした。

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