危機乗り越える世界株投資 夫婦で4000万円目指す - 日本経済新聞
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危機乗り越える世界株投資 夫婦で4000万円目指す

お金を殖やすツボとドツボ(1)

ハナ(29)

 入社7年目、メーカー勤務。資産形成に興味がある。話が難しくなると、眠る癖がある。

岡根(32)

 パーソナルファイナンス(個人向けの資産形成論)を教える大学講師。ハナのサークルの先輩。

ハナ 先輩お久しぶりです。

岡根 長期の資産形成について聞きたいって? 君の年齢では珍しいね。

ハナ 昨年騒がれた金融庁の「2000万円問題」もあって、ちゃんとお金を増やすことを考えなきゃ、と思ったの。でも、やっぱりいいです。

岡根 は?

ハナ 最近、株価がものすごく下がってて、怖くなったので。

岡根 こうした大きな下落はときおり起きる。でも世界全体を対象に投資し、長期で持ち続ければ、しっかり資産を増やせるよ。

ハナ 昔からのんきな性格でしたよね。

世界全体では経済成長が続く

岡根 失敬な。まず覚えておきたいのは、世界全体では長期で経済は拡大していくということ。新興国を中心に人口は増えていくし、先進国でもより豊かな生活を目指す。グラフAで各国の国内総生産(GDP)の合計は拡大しているでしょ?

ハナ それと株価との関係は?

岡根 株価は長期的には利益(正確には1株利益)の増減を反映する。世界経済が大きくなるってことは、世界全体の企業の利益の合計も増えるってこと。だから世界全体の株価も長期的には上がる。グラフAの折れ線は世界全体の株価を表す指数の推移。今回の急落後の3月20日時点でもドルベースでは過去30年で5.7倍に。円ベースでは円高が進んだ分やや目減りするけど4.4倍になっている。

ハナ これだけ大きく下がっても、長期では利益がでてるんだ。

岡根 覚えておきたいのは会社の利益の配分が従業員から株主へシフトする傾向が世界的にも続いていること。つまり給与はそれほど増えない一方で配当は大きく増えてきた。会社の利益成長の恩恵を十分に受けるには、従業員として一生懸命働くだけじゃなく、同時に株主にもなることが大切になっているよ。

ハナ でも下がっている間はつらいですね。

岡根 お薦めの対策は積み立て投資。世界全体の株式を対象に、同じ金額ずつ時期を分散して買い続けるんだ。下がった局面でたくさん買えるから平均コストが下がり、その後株価が上向くと利益が出やすい。下がっている間中「将来に向けて安く買い続けられている」と思えると気分が楽だよ。

コロナ株安、長期ではむしろメリットに

ハナ 今回の急落でも役立つのかな。

岡根 新型コロナウイルスの感染拡大による株安を2008年のリーマン・ショックと比較する声も増えている。当時、積立投資をしていた場合を試算してみたのがグラフB。株価が危機前の水準に回復したのは13年2月だった。株価は元に戻っただけなのに、積立投資ならその時点で4割の利益が出ていた。今回のコロナ株安も、積立投資の場合は安値の局面が長引くほど、むしろ長期でみれば資産を増やす結果になると思うよ。ただ、安心して積み立てを続けるには長期で増える確率が高い資産、例えば世界全体の株価などを対象にしたほうがいい。個別株や単独の国に投資した場合、積み立てでも長期で回復しないことがあるからね。

ハナ 世界全体といわれても、私、ドメスティックな女子なので。

岡根 投資信託って知ってる? みんなが少しずつ出したお金を運用会社がまとめて分散投資してくれる仕組みなんだ。1本で世界全体の株価指数に連動する、とてもコストが低い投信が増えているから、それを毎月積み立てで買うだけでいいんだよ。

ハナ どれくらい資産が増えるの?

岡根 君は独身だけど、最近は共働きも多いし、結婚後は夫婦でできるだけ多い額を積み立てたい。グラフCでは長期のデータがとれる先進国株指数を対象に、1人2万5000円ずつ夫婦で毎月5万円を積み立てるとして試算した。ちょっとわかりにくいグラフだけどいい?

ハナ 嫌かも。

岡根 ……少しはがまんして。それぞれの線は各時点まで20年、30年、40年積み立て投資した結果。例えば、黄色い線の左端は、1970年1月から1999年12月まで30年間積み立てした場合、累計積立額1800万円に対して資産が1億円強に増えたことを示す。…ハナちゃん?

ハナ あ、ごめんなさい。数字が続くと瞬間的に眠気が…。

月5万円、30年積み立てなら平均6240万円に

岡根 逃避の一種だな。株価は変動するので結果は時期により変わる。30年積み立ての場合グラフの集計可能期間の平均では累計積立額の3.5倍の6240万円だった。積み立て利回りを計算すると平均で約7%だ。

ハナ 駄目なときは?

岡根 リーマン・ショック直後の2009年までの30年は累計積立額の7割増の約3100万円にとどまった。しかしそこでやめる必要はなくて、続けていれば再び資産は積み上がった。

ハナ 金額大きすぎ。だましてます?

岡根 実際に米国の人は確定拠出年金という仕組みで株式中心の積立投資を続け、大きく資産を増やしてきている。ただし、世界全体でも高齢化と成長鈍化が進んでいるから今後は積立利回り7%は難しく、成績はやや固めに5%程度とみていた方がいいかもしれない。それでも毎月5万円を5%で30年積立投資すれば4200万円弱になる。夫婦で4000万円を目指すことは、老後の安心材料を得るうえで大事な取り組みだと思うよ。

ハナ こんな危機時に4000万円って。空気読まないと浮きますよ。

岡根 逆に危機時こそ長期運用を始めるいい機会なんだ。

ハナ お金をすべて株式の投信に回していいの?

岡根 もちろん数年分の生活防衛資金は別途、預貯金などで確保しておく必要がある。株式だけの運用が怖いと思うなら、自分が我慢できる変動の範囲におさまるように、値動きが小さい債券などを一部組み合わせる選択もある。ただし、株式だけでも世界全体を対象に長期で持てばそれほど怖くないことは知っておくべきだよ。女性は特に長生きしやすいから、早い時期から積み立てに取り組むのが大事だね。

ハナ 長生きか。まぁ佳人薄命といわれるので私は別ですけど。

岡根 見かけと違ってタフな性格だから300年くらい生きそうな…。

ハナ 妖怪ですか。

投資初心者 ここがドツボ

「稲妻が走る瞬間」見逃さず
 株価はいつも同じ上昇率で上がるのではなく、ときたま急伸する。米著名投資コンサルタントのチャールズ・エリス氏はそれを「稲妻が走る瞬間」と呼ぶ。その瞬間に投資をやめていれば長期の成績は大きく劣化する。そして「いつ急伸するかを普通の人が事前にあてるのは困難」(エリス氏)だ。
 グラフAでは過去30年の間、月間の株価の上昇率が高かった順にわずか10個の月だけ投資をしていなかった場合の円ベースの成績も計算してみた(点線)。ずっと持ち続けた場合に比べて3分の1の上昇率にとどまっている。ドツボだ。
 上昇率が高かった10個の月のうち3つは、リーマン・ショック後の2年間、まだ株価が大底圏のときに起きていた。安値圏で怖くなって株を売り投資をやめていれば、「稲妻」を逃し負けが確定したことになる。
 もちろん、株価の山谷を当てられる自信があれば売買を繰り返す選択もある。しかしその自信がない普通の人は、長期で価値が増えていく世界株式のような投資対象を選んだうえで、市場にい続けることが大切だ。

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お金の制約なしに人生の様々な選択ができる経済的自由(Financial Freedom)。それに近づくために必要な運用や社会保障の知識を、会話形式でわかりやすく伝えるコラムです。毎週水曜日に掲載します。

田村正之(たむら・まさゆき)
編集委員。証券アナリスト(CMA)、ファイナンシャルプランナー(CFP)。著書に「人生100年時代の年金戦略」「税金ゼロの資産運用革命」など。田村優之の筆名の経済小説「青い約束」(原題「夏の光」で松本清張賞最終候補)は13万部に。

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