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阪神大震災の教訓、古建築守れ 兵庫発の人材育成20年

時を刻む

大正期の駅舎を改装してホテルが開業した南海電鉄高野下駅(和歌山県九度山町)

阪神大震災の教訓から兵庫県で始まった人材育成プロジェクト「ヘリテージマネージャー(HM)」が開講20年を迎えた。古い建物の歴史文化的な価値を見いだし、保存活用してまちづくりに生かす役割を担う。取り組みは全国に広がり、深化を続けている。

駅舎を改装した南海電鉄高野下駅のホテルは、窓から列車を望める

2019年秋、和歌山県九度山町にある南海電鉄高野下駅で大正期の駅舎を改修したホテル「NIPPONIA HOTEL 高野山 参詣鉄道」が開業した。設計したのは才本建築事務所(兵庫県丹波篠山市)代表の才本謙二さん。「制約が多い駅務部分との区画に苦労した。車両の扉などを転用し、駅に泊まる非日常を演出した」と語る。

才本さんは同ホテルを企画したNOTE(同)と共に、各地で歴史的建造物の保存と活用を手掛ける。地元でもNPOを組織して市民協働で古民家再生に取り組み、職人養成にも意欲を見せる。「以前は古い建物に興味はなかった」という才本さんの転機は03年。丹波篠山の伝統的建造物群の整備に関わったのが縁でHM養成講座を受け「街並みを残すのは大変で大切なことだと気付いた」と話す。

地元に根ざして

この講座は01年に兵庫県が同県建築士会と創設し、現在はHMで組織する「ひょうごヘリテージ機構H2O」と共催している。科目は法制度や調査方法、修理技術、活用策、まちづくり活動、現場実習など年間60時間。累計500人となった受講生はそれぞれ地元に根ざして自律的に活動し、才本さんのように地域活性化の最前線に立つ。

ヘリテージマネージャーは様々な建造物の国文化財への登録に関わっている。神戸市の御影公会堂=同市教育委員会提供
旧木村酒造場(兵庫県朝来市)=同市教育委員会提供

HM生みの親が京都橘大の村上裕道教授とH2O世話人の沢田伸さんだ。かつて村上教授は県教育委員会文化財課の職員を、沢田さんは県に勤めつつ建築士会の広報委員長をしていた。

阪神大震災では歴史的価値を持つ貴重な建物が多数被災した。「阪神間は洋風建築や近代建築の宝庫。文化財にはまだ指定されていないがいずれは、と思っていたら震災で一度に壊れた」と村上教授は振り返る。

旧龍野醤油同業組合事務所(たつの市)=同市教育委員会提供

未指定の建物の修理に公的な補助をするには、まず調査して歴史的価値を判断する必要がある。震災で多数が同時に破損したため人手が足らず、対応が遅れて取り壊された例もあった。

日ごろから価値のある建造物を見いだして調査し保全する、「街のホームドクター」の必要性が認識された。国も1996年に文化財登録制度を創設し、文化財の裾野を広げて活用しながら継承する道を開いた。

登録の過半担う

だが復興に追われる兵庫県では人手不足から登録数が伸びない。「地域の歴史文化遺産を自分たちで守る責任感を持ってほしい」と建築士会に訴えた村上教授と沢田さんが意気投合し、誕生したのがHM講座だ。第1期は30人の定員に108人が応募した。「見慣れた風景が震災で一変した。歴史の積み重ねの大切さを多くの人が痛感した」と沢田さんは振り返る。

それから20年。建物を文化財に指定したり登録したりする際の調査は行政や研究者らが担うのが一般的だが、兵庫県では今ではHMが主役となっている。今や県内にある登録文化財約700件の過半数を手掛け、登録数も全国の都道府県で大阪府に次いで多い。丹波篠山市のように古建築を生かしたまちづくりのモデルとなる事例も出ている。

HM養成はほぼ全ての都道府県に広がり、受講者数は約6千人に上る。兵庫県では活用を重視し、建築士に限らず誰もが受講できるよう改めた。「建築士だけでは限界がある。活用する事業者や金融機関、コーディネーターらとチームを組む必要がある」と村上教授は話す。沢田さんも「まちづくり活動と連携が肝要。住民に価値を認めてもらわないと空中戦に終わる」と強調。「若い世代は感性豊かで足元を見つめる。古いものの価値に気が付いている」と期待する。

(編集委員 竹内義治)

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