「就活は運だ」と語った人事部長 採用裏話の真意は?

東京・大手町の日本経済新聞社内のスタジオでひっそりと開かれた「就活あなぐらトーク」。会社説明会では明かされない採用の裏話を、U22がつっこんで聞き出しました。お呼びしたのは、誰もが知る大企業の人事部長と第二新卒向け就職エージェント。完全匿名を条件に人形劇形式で語ってもらったところ、「エントリーシート(ES)は30秒しか見ない」「結局、就活は運」など、驚きの発言が飛び出しました。刺激的な言葉の背景には、形ばかりにとらわれず積極的な行動を就活生に促したいという真意がありました。
ひつじ……誰もが知る、小売り大企業の人事部長
オオカミ……第二新卒向け就職サービス企業の専務
うさぎ(司会)……U22の編集担当S
「パンが好き」だけで押し通した学生に内定を出してしまった
うさぎ 今日は就活について、ここだけのぶっちゃけトークをしてもらおうということで、大手町の某新聞社のあなぐらにきてもらいました。早速ですけど、ひつじさんの会社の選考はもう始まってるんですか。
ひつじ 一年中やってますよ。
うさぎ でも、政府とか経団連とかが示しているルールみたいなのがあるじゃないですか。
ひつじ 逆になんで守らないといけないんだろうと思っていました。ちょっとうちもたたかれたこともありましたが、ようやく世の中が追いついてきたなと。
うさぎ ひつじさん、おとなしそうな外見で中身は結構パンクですね(笑)。オオカミさんがひつじさんを連れてきてくれたんですよね。どうしてまた。

オオカミ 多くの学生さんが、受験のように点を取れば新卒で採用されると思い込んでいるんですよ。テストじゃあるまいし。僕は第二新卒の就職支援の会社をやっていて人事の方と話すので、そこらへんの実態がよくわかります。採用ってそんなにかっちりしていなくて感覚で決まる部分が多いという実態を、大企業の部長さんが話してくれたら、学生の方にとって発見になるかなと思って。
うさぎ なるほど。ひつじさんの会社はどのぐらいエントリーがあるんですか。
ひつじ 2万人ぐらいですね。そのうち500人採用します。
うさぎ すごい人数。いろんな学生がいますよね。「やばい人」っていました?
ひつじ 一生忘れないだろうなっていう学生さんはいました。パンが好きで、エントリーシート(ES)にパンのことしか書いていない。当社は食品は扱っていないんですけどね……。
うさぎ 面接に呼びました?
ひつじ 呼びましたし、内定も出しました。
うさぎ えっ、パンと御社は関係ないのに?
ひつじ パンに対する愛が普遍的だなと思ったんです。純粋なパンへの思いがもし当社の製品に向かったら、大化けするんじゃないかと思ったので、途中で切るのはもったいないなと思って面接に進んでもらったら最後まで通りました。残念ながら内定辞退されましたが。
うさぎ そもそもどんな基準で採用しているんですか。
ひつじ 面白いかどうかは大事な基準です。大企業って仕組みに順応できる人が求められているというイメージがあると思うんですけど、実はそんなことはないです。
うさぎ でも面白さって、普通の学生に求めるのは厳しくないですか?
ひつじ 面白いと言うとハードルが上がってしまうかもしれないですけど、他の人と違う何かを持っているかというところは見ています。人と違う持論がある人には興味を持ちますね。
説明会で「不機嫌な人」に声をかける理由
うさぎ 選考が始まるとまず説明会があるじゃないですか。そこでも集まった学生をチェックしているという噂もありますけど。
ひつじ よく見ています。
うさぎ うわ、やりづら(笑)。見ているというのは、どんな人を?
オオカミ 例えば前列で熱心にメモとっている人とかいますけど、そういう人ですか。
ひつじ いえいえ、どちらかと言うと、不機嫌そうな人とか、ちょっと首をひねって聞いている人がいたら、面白そうだなと思ってチェックしますね。

うさぎ これはすごい情報。しかし、説明会に来て不機嫌っておかしくないですか?
ひつじ 普通に考えればおかしいんですけど、実は自分なりの意見を持っていたり、こちらの話す内容が本当なのかを吟味しながら聞いていたりしている人も結構いて。チェックしておいて、声をかけることもあります。
うさぎ どうやって声をかけるんですか。
ひつじ 休憩中に、さっきの話どうだった? って聞くと、実はここがよくわからなかったとか、実際のところはどうなんですかとか、質問で返してくれて話が盛り上がることもあります。
うさぎ なるほど。それは結構、いいですね。ほかに何か見るポイントってありますか?
ひつじ 選考プロセス以外のところで何かアクションをとってくる人は気になりますね。例えば選考の後半で、面接以外で社員と話してみたいので紹介してほしいと言ってくる学生には、個別で面談を設定したりします。
うさぎ へえ。行動したほうがいいんですね。しかし、多くの人はルールを破るとまずいんじゃないかと思っちゃいそう。
ひつじ だってそもそも禁止していないので、やればいいじゃんって思いますね。
うさぎ 印象勝負なんですかね。ESは2万件もあったらどうやって見ているんですか。
ひつじ たいして見ていないですね。1件で30秒ぐらいでしょうか。

うさぎ おいっ。全然見ていない(笑)。
ひつじ 基本的にESは話のきっかけぐらいにしか考えていなくて、うちの場合は内容によって優劣はつけていないです。さすがに1行とかだと厳しいですが。ふるいをかけるという意味だと、グループディスカッションですね。
うさぎ どういうふるいのかけ方をしているんですか。
ひつじ そこは難しいところなんですよね。グループディスカッションで優劣がわかるんですかと問われると、実はそんなにわからない。ですが、その中で少し自分の意見があるなとか、何か少し考えてきたなというのが見えるかどうか、というぐらいのものです。
オオカミ ひつじさんの会社は珍しい方だと思います。これだけ巨大企業なのに結構ちゃんと見ている。ほかの企業だと初期段階で、そもそも学歴が低いからだめとか、写真の見栄えでNGとか、字が汚いとか、そんな理由で落としますから。
学歴? 当然見ますよ
うさぎ それが現実……。しかし、ひつじさんのところ、意外に先進的な会社なんですね。もう少しぶっちゃけて聞いていいですか。例えば面接でAさんとBさんの評価は同じぐらいでどっちを通そうか迷うとき、どういうところを見ますか。
ひつじ 同じぐらいの評価で、高学歴な人とそうでない人がいたときには、高学歴な人を採ることが多いですね。
うさぎ 高学歴というとどのぐらい?
ひつじ 旧帝大や、早慶などの難関私大ぐらいのイメージですね。
うさぎ なぜですか。
ひつじ それだけやはり努力してきたことの結果だと思うので、本当に迷ったときの最後の決め手にはなるかなと。
うさぎ オオカミさん、ほかの会社もそうですか?
オオカミ 会社によりますが、中には「顔は美人系よりかわいい系がいい」とかビジュアルで決めるところもあるぐらい、面接ってなんとなくで○か×かが決まっちゃうものです。面接が3~4回あるような大手だと、もはや内定は偶然の産物なんじゃないですかね。落ち込んで就職留年する人もわりといますけど、次行けって思いますね。
うさぎ それって転職マーケットに誘導してません?(笑)
オオカミ それもありますが、1~2年就活に使って消耗するぐらいなら、さっさと1~2年働いて職歴つけてからまた勝負したらいいじゃないかという気がします。

幹部候補にはこっそりと最初から差をつける
うさぎ 今まで選考について聞いてきましたが、採用後のことについても聞いていきましょう。幹部候補を決めるなど内定者の中で差を付けることってやっていますか。
ひつじ やっています。
うさぎ 言い切ったよ(笑)。幹部候補の割合は、新入社員のどのぐらい?
ひつじ 5%くらいですね。
オオカミ 少ないですね。
ひつじ 年収が200万円ぐらい違いますから。
うさぎ それは同期とかにもわかっちゃうものですか。
ひつじ いいえ、本人にだけ伝えます。
うさぎ 飲みながら、自分は給料高いって言っちゃいそうじゃないですか。
ひつじ 言うなよって言っていますが、ばれるでしょうね。でも仕方ないかなと。多少のリスクはあっても、優秀な人にはそれなりの対応をしないと辞めちゃったりしますから。
うさぎ 最近は大企業にせっかく入社できてもすぐに辞めちゃうという話をよく聞きますが。
ひつじ そうですね、最初の1年で10%ほどが離職しますね。その内容が問題で、5年以上前だと、社内でうまくいっていない人が辞めるケースが多かった。でも最近はそうでもない。むしろ社内で今後活躍できるのが約束されているような優秀な人が辞めてしまう。これは悩みどころです。
うさぎ 転職マーケットで待ち構えているオオカミさん的にはおいしいのでは?
オオカミ おいしいというか、面白いなと思って。実は「最近若手がすぐ辞める」って言われてますけど、入社後1年で10%、3年で30%という数字はずっと変わらないんですよ。でもその中身が変わって、優秀な人から辞めていくというようなことが起こっているんだと思います。
うさぎ となると、今までの採用方式でいいんですか?
ひつじ 採用方式を変えても将来どうなるかは分からないので。優秀な人に入ってもらって、そういう人たちが働き続けたいと思えるキャリアをいかに提示できるかが、人事のチャレンジですね。
うさぎ 人事ってつらそうな仕事ですね……。
ひつじ 人事ってそういう仕事ですから。
うさぎ なるほど。深みを感じます。今回の就活あなぐらトーク、良い意味で就活の幻想を打ち砕いてきた時間だったかなと思いますが、最後にそれぞれ学生へメッセージをお願いします。
ひつじ 「就活は運である」ということですかね。
うさぎ えっ? ガチャのようなもの?

ひつじ まあ、そうですね。先ほど面接以外でもアクションを起こしてくれるような学生さんには、きちんと時間を作ってお話しますとと言いましたが、何かしら行動すれば、もちろんハズレもあるとは思いますけど、良い結果になることの確率が上がると思います。
オオカミ 今の話にも近いですが、うまくいかなくても絶望する必要はないのかなと。会社の形も働き方も変わってきているのに、就活のマインドって20~30年前とあまり変わっていない気がします。就活がうまくいかず引きこもりになるようなケースも見てきましたが、あまり一発勝負だと考えすぎない方がいいということを是非、伝えたいですね。
うさぎ お二人とも腹黒いと思ったら、結構いい人だったんですね(笑)。また大手町の洞窟に遊びにきてくださいね。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。