中国ドローン配送、医療物資に広がる - 日本経済新聞
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中国ドローン配送、医療物資に広がる

ドローンを活用した物流分野のスタートアップ「アントワーク(Antwork、迅蟻)」は、「農村部から都市部へ」の事業拡大を方針に定める企業だ。2015年創業の同社は、まず都市郊外での郵便業務から事業をスタートさせ、2016年には中国郵政(CHINA POST)と共同で初のドローン郵便配送ルートを開通させた後、都市郊外の民泊施設向けの物資配送を行ってきた。都市部に進出した当初はフードデリバリーと都市内配送から手掛け、2018年には中国のIT大手アリババが本社を置くことで知られる杭州市のハイテクシティ「未来科技城」でドローン発着場を5カ所設置したほか、ウィチャットにおける自社ミニプログラムアカウントを通じて1万件近いフードデリバリーを行った。

同社は2019年以降、医療物資の配送を主力事業に据えている。中国のリサーチ機関「前瞻研究院」の統計によると、2018年に中国国内の医薬品市場の規模は2兆元(約32兆円)を超え、そのうち医薬品の物流配送のコストが医薬品販売額の約10%を占めた。つまり、約2000億元(約3兆2000億円)の市場が存在するということを示している。

CEOを務める章磊氏は医療物資の配送分野に参入した理由について、同社が着目する二つのプロセスを挙げる。

まずは、医療検疫検査プロセス。医療物資の不足や配送過程の交通事情がネックとなって、医療資源が末端のコミュニティーの医療施設に効果的かつタイムリーに配送されないという問題がある。つまり医療施設が広域に散在しているということでもある。国家衛生健康委員会のデータによれば、2018年2月の時点で全国には医療衛生機関が100万カ所近く存在し、そのうち基礎医療機関だけでも93万6000カ所に上るという。

次は、救急プロセス。緊急性が極めて高いため、ドローンのほうが地上交通に比べて明らかな優位性があるうえ、小口荷物を速やかに配送することができる。一方、地上物流は経済コストや道路状況による不安定性といった制約を受けるため、日常物資の大規模配送により適している。

ドローン配送の参入障壁は、主に技術と参入要件の高さにある。ドローンによる都市部での物流配送、特に医薬品分野では、飛行の安全性と安定性に関する基準が高い。アントワークのドローンは現時点ですでに6万キロの飛行実績があり、都市市内での最長飛行距離は15キロ、また最大積載量は5キロに達した。また同社は昨年10月、中国の民間航空行政を管轄する中国民用航空局から世界初となるドローン物流配送ライセンスを取得したほか、飛行空域の許可や医療衛生部門の認可も取得した。このほか、飛行データはモニターカメラを通じて監督管理部門に送信され、飛行の合法性を保証している。

製品の導入に関し、同社は2019年初旬に病院のニーズをもとに製品の手配とテストを開始。実際の業務で使用されたのは今回の新型肺炎発生期間が初めてであり、浙江省紹興市にある新昌県人民医院の要求に応え、医療物資の中継輸送を実施した。すでに4機のドローンと4カ所の発着場を配備し、病院の軽量・少量物資の輸送ニーズを100%満たし、救急車両や人的資源の利用を効果的に抑制している。収益モデルは、病院が購入するドローンなどのハードウエア費用と飛行・サービス年会費だ。

章CEOによれば、都市物流配送システムはこれまでの2次元から3次元的な方法へと変わりつつある。今回の感染症の発生により、市場は空中物流配送システムの今後の成長性を意識し始めた。同社は今後、輸送範囲を現在の紹興市からさらに拡大するべく、杭州市の他の地域や湖北省武漢市とも交渉を行っている。

世界では数年前から医療配送分野におけるドローンの活用が始まっており、「ラストワンマイル」の問題解決に向け尽力している。代表的な企業は米スタートアップ「Zipline」だ。同社はドローンを利用したルワンダでの血液、ワクチンおよび医薬品の輸送に取り組んでおり、昨年にはシリーズCで1億9000万ドル(約210億円)を調達した。また米シリコンバレーのスタートアップ「Matternet」は、発展途上国での食品・医薬品の配送支援や国際救助に携わっており、先日1600万ドル(約17億6000万円)の資金を調達し、ドローンの研究開発を急ピッチで進めている。

「36Kr ジャパン」のサイトはこちら(https://36kr.jp/)

中国語原文はこちら(https://36kr.com/p/5292010)

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