いきなり!ステーキ 苦境招いた「思い込み」経営
グロービス経営大学院教授が「確証バイアス」で解説

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2020/3/13 2:02
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順調に成長を続けてきた「いきなり!ステーキ」が最近急減速し、ペッパーフードサービスが2年連続の赤字に陥ってしまいました。その理由はどこにあるのでしょうか。グロービス経営大学院の嶋田毅教授が「確証バイアス」と「マーケティング論」の観点から解説します。

【解説ポイント】
・体系だった人材育成の仕組み必須
・勘ではなくマーケティングに基づく戦略

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■見るべきことを見えなくしてしまう

企業の業績が悪化する理由の一つに、本来検討すべきことを検討しないままに「何とかなるだろう」と突っ走ってしまうことがあります。いわゆる確証バイアスです。視野狭窄といってもいいでしょう。例えば飲食店ビジネスで「成長ありき」の結論を持っている人は、「まだ出店していないエリアがある」「常連客からはしっかり評価されている」「1.5倍の成長ができたなら、2倍も何とかなるのでは」といった自分に都合のいい要素ばかりが目に入ってしまいやすいのです。

このバイアスは、都合の悪い情報を過小評価してしまうという形でも表れます。たとえばオーソドックスな3C(Customer、Competitor、Company)分析をするだけでも、懸念点をあぶり出すことができます。

「いきなり!ステーキ」の場合、これらをしっかり調べたうえで、どれも「問題なし」であれば大量出店も可といえるでしょう。本来であれば昨年も赤字ですから、何かしらの反省があってもよかったと思います。

一般的に、飲食店が急速出店する場合、社内に、それを支える仕組みが必要です。仕組みとは、具体的にいえば業務プロセスの標準化やマニュアルの整備、標準化された人材育成の仕組み、経営者の理念の浸透などです。

たとえば高品質なサービスで有名なリッツ・カールトンでは、従業員全員が「ゴールドスタンダード」の冊子を携帯しています。これは「クレド」(使命)を軸に、「モットー」「サービスの3ステップ」「サービスバリューズ」「第6のダイヤモンド」「従業員との約束」からなり、従業員は常にそれらを意識しています。これらをベースとした教育もしっかりなされているからこそ、ルールに明記されていないことでも、従業員は同社共有の価値観に従い、自らの判断で行動することができるのです。

「いきなり!ステーキ」の場合、急激に店舗数を増やしたここ2年、サービスレベルや従業員の規律を維持できていたのでしょうか。昔から飲食業では100店の壁や300店の壁ということがいわれてきました。それを超えるためには、業務プロセスを標準化することに加え、属人的な教育や指導ではなく、やはり体系だった人材育成の仕組みが必要なのです。

■顧客ニーズの変化を見ていたか

市場・顧客の面でも、顧客ニーズの変化を捉えていくことが重要です。顧客ニーズは、簡便的に示した3つの次元に展開できます。ニーズの深さは、それを満たすことによる高価格や顧客ロイヤルティーに結び付きます。広さは対象顧客の広がり、長さは持続期間を示します。ただこれは、最初に満たせばそのまま決まり、持続するという類のものではありません。変化する顧客ニーズに常に応え続けるからこそ、「深さ×広さ×長さ」を最大化できるのです。

それを近年実現したのが日本マクドナルドやケンタッキーフライドチキンです。老舗の彼らも、不祥事やマンネリから来る顧客離れに苦しんでいました。しかしマクドナルドは高価格帯の製品開発で成功し、ケンタッキーは500円セットなどを開発することで顧客を取り戻しました。

ここでのカギは、単に勘に頼るのではなく、マーケッターが顧客アンケートなども含めマーケット情報に基づいてしっかりマーケティング施策を考え抜く体制ができているということです。

「いきなり!ステーキ」の場合、例えば若干シャビー(粗末)な空間やサービスを考えてみましょう。ファーストフード店(牛丼なども含む)であればともかく、若干高級な食材を提供する店としては、個人的にはやはりアンバランスさを感じてしまいます。接客もそうです。「だからこそ低価格を実現できる」というロジックはわかるものの、それはひょっとしたらニーズの幅、すなわち対象顧客層を狭めるとともに、ニーズの深さを浅くしている可能性もあるのです。

また、もともと「いきなり!ステーキ」は立ち食いで回転率を上げるというコンセプトの店でしたが、最近は座席も普通にあるケースが多くなっています。座席があれば、回転率は下がってしまいます。価格帯も、提供価値に見合うものかといえば、個人的にはやや疑問に感じます。「ステーキ」という、やや高級かつ「ハレ」の商材に見合ったやり方は別にあるのではないでしょうか。

■経営悪化は必然だった?

こう考えてみると、ただでさえ顧客の幅が狭いところに、近辺に同じ業態で出店をしたら、「共食い」になるのも当然です。顧客の入りの悪さは、「美味しくないのでは」というイメージをさらに振りまくという悪循環を生み出します。この部分についてまず止血したのは、やや遅かったとはいえ当然といえます。しかし、新たな資金調達を開始しても、19年12月末の自己資本比率はわずか2%にすぎません。復活に向けて残された時間はごくわずかといえるでしょう。

もはや「思い込み」の経営は許されません。3Cにバランスよく目を配った細心の経営が求められます。はたして「いきなり!ステーキ」が独自路線で復活できるのか、それとも事業売却などの憂き目にあうのか、正念場といえそうです。

しまだ・つよし
グロービス電子出版発行人兼編集長、出版局編集長、グロービス経営大学院教授。88年東大理学部卒業、90年同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経て95年グロービスに入社。累計160万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」のプロデューサーも務める。動画サービス「グロービス学び放題」を監修

確証バイアス」についてもっと知りたい方はこちら

https://hodai.globis.co.jp/courses/695fd50e(「グロービス学び放題」のサイトに飛びます)

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