[社説]高額新薬の評価は効果重視で
1回の注射で2億円以上する米国の遺伝子治療薬が、近く日本で発売される。国内でも高額になるとみられ、医療保険財政の悪化につながるとの懸念が出ている。だが、価格が高いのを問題にするのではなく、効果に見合うかどうかこそ重視すべきだ。

承認予定なのは全身の筋力が低下する脊髄性筋萎縮症(SMA)という難病の薬だ。スイスのノバルティスが開発した。2歳未満の乳幼児向けで、注射1回で大きな治療効果が得られるという。米国は2019年5月に承認した。
厚生労働省の審議会が承認の方針を示したのを受け、近く中央社会保険医療協議会で公定価格(薬価)が決まり、保険が適用される。1回あたり億円単位の価格となる公算が大きい。
患者負担は原則3割だが未就学児は2割だ。自治体の補助や高額療養費制度による軽減措置もある。その分、公的負担が膨らむ。
新薬は研究開発に10~15年の歳月と3000億円近い費用がかかる。なかでも、特定の遺伝子異常が原因となるがんや難病は患者数が限られ、高額になるのはやむを得ない面もある。こうした薬は今後、増える見込みだ。
このままでは医療保険財政がもたなくなるとして、薬価の引き下げ圧力が強い。診療報酬の改定では医療費の調整弁のように使われ、引き下げられる傾向にある。
だが、薬価は本来、効果を基準に決めるべきだ。新しいSMA薬の場合、何度も注射が必要で効果の限られる従来薬と比べれば、総コストを低く抑えられるとの試算もある。
ノバルティスなどは高額薬について、費用を分割したり効果に応じて受け取ったりする試みを米欧で始めている。厚労省はこうした方式を薬価制度に取り入れられないか、検討してはどうか。
公的医療保険の対象となる薬の見直しも不可欠だ。市販薬がある湿布薬やビタミン剤などをはずし、費用対効果の高い新薬を優先するなど工夫の余地は大きい。