[FT]新型コロナ向けワクチン開発最前線
ウイルス特定から42日でワクチン試験にこぎつけた米ベンチャー
ユアン・アンドレス氏は大事なワクチンが入った小瓶を配送トラックに積み込んだ夜、3度目を覚ました。米東部ボストンの郊外に拠点を置くバイオベンチャーのモダーナは2月下旬、ウイルスの特定(この場合は新型コロナウイルス=COVID-19)から過去最短となるわずか42日で、人間に打って試すことができるワクチンの準備を整えた。
モダーナの研究所では、開発チームが喜びに沸いていた。だが、ワクチン製造を担当したこの道30年のベテランのアンドレス氏は深夜、ワクチン候補を秘密の場所に運んでいるそのトラックを追跡するため、落ち着かない様子でスマホをチェックしていた。その場所とは米国立衛生研究所(NIH)で、NIHはワクチンに効果があるかどうか検査することになっているからだ。
アンドレス氏は「この開発レースに参加できて誇りに思う。可能な限り早く開発するのは一種の義務だ」と話す。開発チームは、ワクチンが無事、NIHに到着したことを確認するとアイスクリームで祝った。この開発プロジェクトには少なくとも100人のスタッフが参加していたが、全員、その家族でさえもこのプロジェクトに関わることができて喜ばしく思っているとアンドレス氏は言う。「15歳の子どもが私の仕事をかっこいいと思ってくれたのはいつ以来のことだろうか」と彼は笑った。
スペイン風邪以来の100年ぶりの危機
モダーナは新型コロナのワクチン開発を急ぐ世界各国の20以上の企業・公的機関の1つだ。新型コロナは、中国の武漢市でほんの数人が呼吸器疾患にかかってからわずか2カ月余りで、世界の9万5000人が感染し、3300人が死亡したパンデミック(世界的な流行)同然の事態に進展した。
ワクチンを開発するための国際的な官民の研究開発支援組織「感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)」は3年前、世界の健康を脅かす新たな疾病と闘うために設立された。既にモダーナなど新型コロナのワクチン開発プロジェクト4件に資金を出している。CEPIのリチャード・ハチェット最高経営責任者(CEO)は、さらに...
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