40代で1LDK購入 パートナーいてもひとりが心地いい

その人らしさや、生き方のスタイル。どうやらそれは、住まい方にも強くあらわれるようです。ひとり時間の過ごし方、ついの住み家考察、おひとりさま同士の助け合いなどを通じて、自立した大人の女性の人生観とすてきな住まい事情の関係を紹介します。30代から10年以上暮らし続けたシングル向けの賃貸マンションを40代で分譲物件として購入した、編集者、島田みささん邸を訪ねました。
元気の源は都心を一望できるパノラマビュー
都心が一望できる素晴らしい眺め。「窓枠を黒いフレームに見立てると、刻々と移り変わる空の色や雲の流れが、まるで一枚の絵のように見えるんです」

この家に住むのは現在、ウエディング雑誌の編集長を務める島田みささん。島田さんの仕事は人生の晴れ舞台である結婚式をいかにその人らしく演出できるかを考え抜き、幸せとサプライズにあふれた誌面をつくること。
40平方メートル強の1LDKの間取りはシングル向けの物件だ。島田さんがここに住み始めたのはビューティー&ファッションの編集者として活躍していた30代の頃。決め手は「取引先に近く、都心へのアクセスが便利」なことと魅力的な眺望。その後10年間、賃貸で住み続けた後、40代半ばで新たに分譲物件として購入を決心。どんな心境の変化があったのだろう。

外界を遮断し、リラックスできるひとりの時間はとても大事
「マンションの管理会社が変わるタイミングで、一棟全てを分譲物件にすることになり、賃貸で入居していた私はここを出るか、それとも分譲として購入するか判断を迫られました。40歳の頃です。当時は仕事がとても忙しかったうえに、他に物件を探したとしてもこれ以上の所はみつからないなと思ったんです。この部屋が本当に気に入っていて。
そこで、分譲で購入する場合の見積もりを請求したら、翌日に届きました。金額を見てビックリでしたが、シングルの女友達がいっせいに自分の住み家を買い始めた時期だったこともあって、ローンを組めるのはこれが最後のチャンスかもしれないと。頭金さえないのに買うと決めた結果、長いローンを組むことになりました。おそらくまだ玄関のドアノブくらいしか返済できていないんじゃないでしょうか(笑)」
40代突入後にシングル向けの物件を購入した島田さん。その後のライフステージの変化についてはどう考えていたのだろう。 「職業柄、私も結婚式は絶対にしたいです! でも、結婚はどうでしょう……」
島田さんには互いの家を行き来し合うパートナーがいる。つかず離れず、すでに10年以上の付き合いだが、一緒に暮らすという選択肢は今現在、まだないようだ。
「ずっと一緒にいると疲れちゃう。知らず知らずのうちに相手に期待しすぎる自分が嫌いなんです。例えば、何でお風呂掃除をしてくれないの? とか、どうでもいいことで腹を立てたりするのがイヤ(笑)」
仕事に集中したい時は遠慮なく「そろそろ帰ってね」と言えて、互いのひとり時間を尊重し合える、大人の関係が心地いいそう。 「広い家ではないので、そうせざるを得ない事情もあります。忙しい時は、気配を察して、彼はこの家に近づきさえしませんよ(笑)」
島田さんの仕事は3カ月周期で繁忙期が訪れる。その間、日々の予定はほぼ撮影や打ち合わせで埋まり、海外出張も多い。事務作業や原稿書きは家でこなすが、大人数を率いての撮影では仕上がりのイメージを共有するため、連日外出し、綿密な打ち合わせを何度も重ねる。現場では総指揮をとり、スタッフ一人ひとりへの気配り目配りも忘れない。人一倍神経を使う仕事が多いせいか、島田さんは「外界を遮断し、心身ともにリラックスできるひとりの時間」をとても大切にしている。
「窓から眺められる自然のパノラマを見ていると、嫌なことも全部忘れられます。この家は心身ともにリラックスできる場所であり、ポジティブな気持ちにもなれる元気の源」

こまめな掃除で、ホテルのような住まいをキープ
部屋全体が白を基調にしたインテリアで、ホテルのようなレイアウト。エアコンが日本では珍しいビルトインタイプということもあり、いわゆる生活感がない。それもそのはずだ。お手本にしているのは海外出張で滞在するホテルで味わう快適さだと言う。
ホテルに泊まるように暮らす。それを可能にしているのは限られた収納スペースに持ち物をコンパクトにまとめられる収納上手もさることながら、秘訣はやはり、こまめな掃除。
「散らかっていると、落ちつかないんです。これは掃除が趣味だった母の影響が大きいです。トラウマになるくらい、いつも掃除機をかけていました(笑)」
掃除機をかけた後はワックスで床を磨く。シーツはいつも洗いたて。それが島田家のモットー。子どもの頃から汚れに気づいた時に掃除するのが習慣になっているので、年末の大掃除はしたことがないそう。



子どもの頃に経験した心地よい体験が仕事に生きる
全てを遮断したひとりの時間を大事にする一方で、この家に人を招き、おいしいものを一緒に食べ、笑い合い、楽しむ時間も島田さんはとても大切にしている。
プロはだしの料理の腕前とおもてなし上手。これは仕事仲間の間ではよく知られている、島田さんの一面だ。
「大勢の友達を家に招くことが好きなのは、父譲りかも」
島田さんの父親は昭和の高度成長期に活躍した商社マン。頻繁に部下や親戚を家に招いてはバーベキューをし、みんなにふるまっていたそう。「父はもっぱら焼き担当のもてなし役でした。池波正太郎が大好きで、おいしいものにはうるさかったんです」
「お肉は炭火で焼くとおいしいとか、夜になると大人はお酒を飲んで楽しくなるようだとか、子どもの頃に胸に刻まれた心地よい体験が、いまの自分をつくっている気がします。父はすでに他界しましたが、例えるなら植木等さんみたいな人。自分でひらめいた面白いことを人に話す前に、思い出して、ひとりで先に吹きだしちゃうような人でした(笑)」
ユーモアたっぷりの、チャーミングな人柄。それは島田さんにも通じている。
「大勢の人が集う際の居心地のよさや気分のよさは、チームで仕事をするうえでもとても大事。子どもの頃に心地よいと感じた出来事や光景がいまの仕事につながっていると感じますし、それは自分にとって、とても幸せなことです」


取材・文/砂塚美穂 写真/花井智子
[日経ARIA 2019年10月23日付の掲載記事を基に再構成]
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