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ももちの世界、不安な心理 音交え表現

「ハルカのすべて」

実験的な演出を使い、シンプルな舞台に映画的な想像力を展開した

作品には、作者の「恐怖」が投影されることがある。ホラー映画の監督の半生を追う形で、主人公と作者、そして私たちの潜在意識の中にある不安を突いた「ハルカのすべて」が、ももちの世界により上演された(2月8日、神戸アートビレッジセンターで所見、ピンク地底人3号作・演出)。

75歳の元・映画監督で、トランスジェンダーの遥(のたにかな子)の日常を、映画のカメラが追う。遥はアルツハイマー病だ。老人ホームの現在から、次第に過去へと遡る。

舞台の周囲に13本のマイクを設置、俳優達が擬声語や擬音語を発し、町の雑踏や海辺など、様々な場所を音で表現する。何もない舞台上を、遥が歩行する。最初は娘を探して。そして過去のロケ現場へと。長回しのロードムービーを生で見る感覚だが、マイムと音だけで風景が立ち上がる。時折、馬(竹内宏樹)が横切る。脳の海馬を暗示、次第に遥の海馬が縮小し、病が進行する様と、時間経過を表す。

20歳の時、性的違和の苦悩から自殺を考えた遥。死ぬ前に映画館に行き、少し心が救われ、さらに同級生の月子(新免わこ)と再会、遥の人生が動き出す。妊婦の月子は出産後死亡。遥は父としてその娘を育てる。

映画監督となった遥の作品の場面も再現される。執拗に描かれる虐殺や子供の死。そこに反映されるのは、本当の自分を押し殺す絶望と孤独。死を覚悟したことのある者だからこそ知る、死の恐怖。はかない幼子の命への不安。最後に現在の時間に戻り、老いた遥は娘のハルカ(吉沢紗那)を探すが、すでに娘は事故死していたことが明かされる。

遥の心象を鏡とし、観客が自己の深層を見詰める。想像力がかき立てられる意欲作。

(大阪芸大短期大学部教授 九鬼葉子)

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