筋肉体操の谷本先生 「ツラくない」導く言葉
匠と巧

2020/3/9 2:01
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「キツくてもツラくない」――。NHKの人気番組で筋トレを指導する近畿大学生物理工学部准教授の谷本道哉さん(47)の有名な掛け声だ。なぜかやる気になるこのセリフ。行動経済学で「ナッジ」という。谷本さんは2019年12月には環境省から初めてナッジアンバサダーに任命されたほどの達人。「やりなさいではなく、やりましょう」の姿勢から出る言葉が多くの人をひき付ける。

ナッジは「そっと後押しする」を意味する英語で、人々が自発的に望ましい行動を選ぶように促す手法を示す。例えば男性用小便器に描いた的。多くの人は的に向かって用を足し、便器周りが汚れにくくなる。

谷本さんが有名になったのが人気番組「みんなで筋肉体操」。指導者として出演し「あと5秒しかできません」など独自の声かけが話題を呼んだ。筋トレでは自らを追い込む必要がある。限界の局面での「キツくても楽しい」といった言葉が聞く人にもうひと踏ん張りする力を与える。

番組内での運動中のセリフは谷本さんが考えたものだ。自分が思わないセリフに説得力はないと「筋トレ時に自分が鼓舞するために思っていたことを言葉にしてみた」。

自分向けだった谷本さんの言葉が多くの人に響くのはなぜか。答えは「やりなさいでなく、やりましょう」との姿勢にありそうだ。一緒に取り組むか、やる側の気持ちになることが重要だという。「『You、やっちゃいなよ』もいいが、『We、やっちゃおうぜ』でいきたい」と強調する。

谷本さんは小学生の頃に鉄アレイをクリスマスプレゼントに頼むなど、幼少時から筋肉に関心があった。大阪大学工学部を卒業後、大手建設コンサルタントに入社。その後にボディービル元日本王者で東大大学院の石井直方教授のもとで学ぶため退社し同大学院に進んだ。大学での実験で「声の出し方でその人の動きを誘導できると意識した」。

筋肉体操の声かけは仕事や学業などにも応用できる。「自発的に選んだことは大変でも楽しみながら取り組める」。全く興味のない職業や学部を選ぶ人は少なく、楽しめる要素がどこかあるはず。終業1時間前に「あと1時間しかできない」と考えれば、仕事への意欲は高まる。

「頑張るか、超頑張るかの二択で考えてください」も効果的。限界に近づいた時にそう言われれば選択肢は後者しかない。「きついと『できるか、できないか』という発想になる。そこで『できるか、もっとできるか』と考えた」。

声かけのタイミングも問われる。「上司は仕事に一緒に取り組む気持ちでなければ部下がいつ、どの言葉を欲しているのか分からない」。どのような状況で何に苦しんでいるのかは「Weの姿勢なら効果的な瞬間が分かる」という。自他とも真剣に向き合うからこそ響く言葉が出てくる。谷本さんのように考えれば自分や周りの人を変える力も生まれてくるかもしれない。

(露口一郎)

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