一枚上手の相撲論(浅香山博之)

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力士の引き際、最後の一瞬まで生きざま示せ

2020/3/6 3:00
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大相撲春場所は8日、エディオンアリーナ大阪で初日を迎える。新型コロナウイルスの影響で観客不在という異例の環境に注目が集まる中、それぞれの力士は様々な思いを持って場所に臨む。先場所限りで大関豪栄道が引退するなど昨年から今年にかけてベテランが続々と土俵を去り、今場所を最後の勝負と心に決めた者もいるだろう。そんな力士の引き際について考えてみたい。

大相撲春場所のためマスクを着用して大阪入りした力士たち(2月23日)=共同

大相撲春場所のためマスクを着用して大阪入りした力士たち(2月23日)=共同

豪栄道にとって今場所は地元大阪での開催。周囲からは「何とかもう1場所」という声も多く寄せられたはずだ。大関から陥落しても現役を続ける例は少なくないし、これがもし30歳前後なら頑張ってみようと思ったかもしれない。間もなく34歳になるという年齢で、落ちてまで現役を続けることはできないと判断したのだろう。

引退の時期は自分がそのときにどう感じるかで決断するものだ。限界までやるという力士もいれば、弱い姿を見せたくないと思って辞めていくケースもある。あくまで相撲を取るのは本人で、誰に迷惑をかけるというものでもない。気持ちの面でも体力面でも無理だな、と思ったときが辞めるタイミングだ。

ベテランになっても土俵に上がり続けていると「いつまでやっているんだ」と、なじられることもある。一方で「諦めないでやっている姿から元気をもらえる」と言ってもらえることもある。ボロボロになりながら、故障だらけで痛々しい体でも頑張る姿を見て、自分も苦しい仕事をやり抜こうと思ってくれる人もいるだろう。逃げずに挑み続けることには価値があると思う。

引退会見する元大関豪栄道。右は境川親方(1月29日)=共同

引退会見する元大関豪栄道。右は境川親方(1月29日)=共同

ただ、長く現役を続ければ続けるほど引き際というのは難しくなる。辞めた後に自分はどうなるんだろうという不安もあるし、どこで辞めるべきなのか、どんな辞め方をすれば自分も周囲も納得できるのかは悩ましい。38歳まで続けた私ですら「相撲を取る姿をもっと見ていたい」と言ってくれる人がいたくらいだ。

現役時代のある巡業のとき、自分と同時期に大関を長く務めた千代大海と「俺たち、いつまでやるんだろうな。引き際を見失ってしまったよな」と語り合ったことがある。大関というのは勝ち越しさえすれば地位が守られ、一度負け越しても翌場所で勝ち越せば続けられる。それでも陥落するときは現役を辞めるときだと師匠から言い渡されていたし、自分でも大関とはそういうものだという思いはずっと持っていた。

勝負をするからには負けたくない、負けたら悔しいという気持ちがあるうちは気力で頑張れる。それが年齢とともに薄れてしまったのは否めない。自分の現役最後となった2011年名古屋場所は周囲から通算白星の記録更新のことばかり注目され、それを達成したことで気が抜けてしまった部分もあった。最後は上位を相手に力を出し切って辞めようと決め、大関琴欧洲戦で精いっぱい戦って敗れた後は全てが終わったという感覚だった。

努力してやり切れば後悔なし

昨年から稀勢の里や安美錦らベテランが続々と土俵を去った。嘉風のように相撲と関係ないけがが原因で辞めざるを得なくなるケースはつらく未練も残るだろうが、勝負や稽古で負った故障は納得できる。土俵でけがをするのは自分の弱さで、そこに後悔はなく、気持ちを切り替えられるものだ。自分のように親方として角界に残る場合、故障の苦い経験も指導に生かすことができるという発想にもなる。

若い頃は番付が上がるにつれて応援が増えていくけれど、けがや衰えで落ちてくると、今まで応援してくれた人たちが離れていく。もっとああやっておけばよかった、と思うようなことも出てくる。そんな思いを弟子にはさせたくないとは思いつつ、自分が体験したことだからこそ教えられることもある。

私が昔から周囲の力士にいつも言っているのは、辞めるその日まで絶対に気を抜くなということ。力士である以上、最後の瞬間まで力士としての生活をすべきだ。「今場所で引退するから、もういいや」という軽い気持ちで相撲を取ってはいけない。中途半端にやるくらいなら今すぐ辞めた方がいい。

たとえ強くなれなかったとしても、最後まで一生懸命やる姿はみんなが見ているし、周囲に信頼され、後輩にもいい影響を与えられる。そこから先の人生を応援しようという人も出てくる。だからどんな地位にいようと引き際というのは大事。自分ができる精いっぱいの努力をやり切ったなら、どんな結果であれ後悔はないだろう。それぞれが自分の生きざまを示してもらいたい。

(元大関魁皇)

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