外出自粛、交通・ホテルにも打撃 航空大手が減便発表

新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛の余波が交通機関や宿泊需要にも及んでいる。国内線予約が足元で4割減るなか、全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)が国内線の減便を発表。3~5月の宿泊施設の予約は前年比5割近く減り、国内旅行取扱高の損失は年間取扱高の1割規模の3千億円近くに達する見通しだ。影響は一段と広がりそうだ。
ANAとJALは4日、6~12日に羽田―新千歳の運航本数を最大で3割、羽田―福岡を同2~3割減らすと発表した。両区間はビジネス客だけでなく、観光客も利用する重要路線。両社によると、3月の国内線全体の予約数は足元で前年同月比4割減少し、便数の維持が難しいと判断。13日以降も状況を見ながら減便などを検討する。
新型コロナの感染拡大を受けての国内線の減便は初めて。JALの幹部は今回の需要の減少について「体感的に(2008年の)リーマン・ショック級の事態だ」と表現する。米中貿易摩擦や日韓関係の悪化など相次ぐ国際情勢の悪化で国際線が低迷する中、比較的堅調だった国内線で下支えする構図が崩れている。

鉄道や旅行業界にも大きな影響が出ている。JR東日本では、2月の新幹線の利用者数が前年比1割減。3月の新幹線の指定席券の予約状況は足元で前年比5割減った。在来線でも企業の在宅勤務の影響などで、山手線の朝ピーク時の利用者数が1~2割減るなどの影響があった。2月の鉄道事業は110億円の減収を見込むが、深沢祐二社長は「3月はより大きな影響が出るだろう。進展次第では来年度の数字にも影響が出る」と話す。
観光バスにも影響が広がっている。日本バス協会が貸し切りバス事業者51社に実施したアンケート調査によると、1~4月のキャンセル数は1万1000件以上に上っている。2月は中国政府が団体旅行を禁じた影響などでインバウンド(訪日外国人)向けのキャンセルが目立ったが、3月は国内の観光ツアーや企業イベントにも広がった。
日本旅行業協会が主要7社の個人旅行の予約状況を調べたところ、2月末時点の国内旅行予約は3月が前年同月比3割減だが、4月は5割減と減少幅は拡大している。
観光庁がまとめた昨年3~5月の旅行取扱高に旅行業協会が試算した減少幅を当てはめると、旅行会社の国内旅行の取扱高の損失は約2780億円に達する。18年度の国内旅行の取扱高は約2兆8600億円で、損失額は年間取扱高の1割規模に相当し打撃は大きい。
ホテルの宿泊予約も減少しており、全国で約2600の旅館・ホテルが加盟する日本旅館協会(東京・千代田)によると、同協会に加盟する約400の旅館・ホテルの3~5月の予約は約155万人。前年同期に比べると45%減ったという。
第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは「11年の東日本大震災では3月から7月まで消費減退の影響が続き、国内航空旅客の第3次産業活動指数が年間で5.5ポイント落ち込んだが、今回はこれを上回る可能性がある」と指摘する。
SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは「地方の中小サービス業は、売り上げが1日でもなくなると経営が厳しくなる企業が多い。長引けば倒産やリストラのリスクが高まる。宿泊業などはすでに立ちゆかなくなっているところもあるだろう」とみる。「資金繰りの支援なども必要だが、影響が長引けば返済できないため、一時的な措置にすぎない」と話す。(倉本吾郎)