全樹脂電池量産へ7社とタッグ 三洋化成、80億円調達
三洋化成工業は4日、電池技術開発のノウハウを持つ子会社APB(東京・千代田)がJXTGホールディングスなど国内7社から第三者割当増資で約80億円を調達すると発表した。2021年に福井県越前市で稼働させる全樹脂電池の量産工場の設備投資に充てる。次世代電池の開発競争で先行する全固体電池などを追い、5~10年後をめどに数千億円規模の事業に育てる狙いだ。

出資するのは、JXTGホールディングス傘下のJXTGイノベーションパートナーズ、大林組、帝人、横河電機など国内7社。APBと部材調達や商品開発などで連携する。三洋化成の安藤孝夫社長は同日の記者会見で「この7社が関係者のすべてではない。他にも出資検討は多々ある」として追加出資の可能性も示唆した。

資金は世界で初めて全樹脂電池を量産する新工場に投じる。工場は延べ床面積が約8600平方メートル。まずは発電所や工場の非常用電源など、屋外に設置される蓄電池などを生産する。稼働後も生産設備を強化し、数年後には1ギガ(ギガは10億)ワット時の蓄電池の生産能力を確保する計画だ。
全樹脂電池は電極などの部品を金属から樹脂に置き換えた次世代型のリチウムイオン電池。現在のリチウムイオン電池は破損すると発火する危険性が高いが、全樹脂電池はくぎを打ったり、ドリルで穴を開けたりしても発火しないなど高い安全性が強みだ。電池の構造や製造方法を極限まで簡素にし、量産時には現在のリチウムイオン電池に比べ生産コストを9割削減できるという。
次世代電池の開発は各社が進める。村田製作所やTDKは可燃性の液体だった電解質を固体とする全固体電池を20年中にも量産化する見通し。京セラは電解液を電極に練り込んで粘土状にする独自技術を使った新型電池を20年秋にも本格量産する見通しだ。
三洋化成は10月、日本触媒と経営統合する。電池事業は統合会社シンフォミクスの主事業の一つとして期待されている。今後は全樹脂電池の量産体制が軌道に乗るか、商品が市場で存在感を発揮できるかが焦点となる。
APBの堀江英明社長は「量産する中で生産性をどこまで高くできるかがポイントになる」と指摘。全樹脂電池が主なターゲットと見定める定置用の蓄電池には他の次世代電池メーカーも参入を検討しており、コストや安全性の面で競争になりそうだ。(山本紗世)