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ソフトバンクグループが投資する6大分野

CBINSIGHTS
ソフトバンクグループが運営する「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」はスタートアップの世界に大きなインパクトを与えている。自動運転から不動産、ピザ宅配まで投資先の業種はバラバラに見えるが、孫正義会長兼社長に言わせれば、共通項は「人工知能(AI)で産業を再定義する」ような会社になる。「AIの指揮者になる」と言う孫氏の投資先をあえて分野別に分けると、投資後の明暗が分かれている。孫流投資の現状をCBインサイツが持つデータなどから分析した。

ソフトバンクグループ、とりわけ運用額1000億ドルの「ビジョン・ファンド」第1号は、将来有望な多くの分野に莫大な資金を投じている。

孫正義氏率いる同グループは2018年に入ってから、100社以上による110件近くの資金調達に参加し、390億ドル相当を出資している。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

だが最近は、米シェアオフィス大手ウィーワークや米ライドシェア大手ウーバー・テクノロジーズなど投資先企業が注目度の高い難題を抱え、ソフトバンクにも厳しい視線が注がれつつある。さらに、物言う投資家からの圧力にもさらされている。

インドの新興ホテル運営会社OYO(オヨ)ホテルズアンドホームズ、米ズームピザ(Zume Pizza)、散歩代行サービスの米ワグ(Wag)といった投資先企業は、事業の転換や縮小、大量解雇に踏み切っている。ソフトバンクが投資している企業の過去1年間の解雇者数は計7000人、20年に入ってからだけでも約3000人に上る。米電子商取引(EC)スタートアップ、ブランドレス(Brandless)は20年2月、事業を停止した。

今回のリポートでは、18年以降のソフトバンクの投資を取り上げる。同社が特に力を入れている6つの分野「ECと物流」「フィンテック」「モビリティー(移動)」「BtoB(企業向け)」「ヘルスケア」「不動産」別に投資先企業を分類した。投資先企業の多くは様々な事業を展開しているため、重複や漏れもある。

ECと物流

ソフトバンクは18年以降、ECと物流分野の企業22社に出資している。ECへの出資では他の分野よりも地域性を重視しているようだ。各地域の中核企業を特定し、その企業に大量の資金を投じている。

例えば、韓国の大手クーパン(Coupang)やインドネシアのトコペディア(Tokopedia)はそれぞれの国の最大手だ。加えて、どちらかといえば専門的なECにも出資している。例えば、インドのベビー用品販売サイト、ファーストクライ(FirstCry)は20年2月のラウンド(調達額1億5000万ドル)を含む2度のシリーズFでソフトバンクから3億ドルの出資を得た。

投資先のブランドレスは2月、オンラインで商品を直接販売するD2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)の競争が激しいため事業を停止し、従業員の90%を解雇すると発表した。ビジョン・ファンドの投資先企業の廃業第1号となった。

物流では米ドアダッシュ(DoorDash)など料理配達アプリから中国のトラック配車アプリ満幇集団(Manbang Group)に至るまで、様々なスタートアップ企業に出資している。

ソフトバンクは18年11月、自動運転車で配達しながらピザを焼き上げるズームピザに3億7500万ドルを出資した。出資当時は、ズームピザを物流の将来像の一つとみていた。だが、ズームは20年1月、ピザの生産から撤退し、持続可能なピザ容器の生産に事業を転換する方針を明らかにした。ズームが事業転換前に調達した額は4億5000万ドル近くに上る。

ソフトバンクは中南米で市場シェアを争う主な料理配達スタートアップにも出資している。ウーバー、コロンビアのラッピ(Rappi)、中国の滴滴出行(Didi Chuxing)の3社はソフトバンクから計200億ドルの出資を受けており、これを元手に中南米でしのぎを削っているとされる。

フィンテック

ソフトバンクは多数のフィンテック企業や保険会社にも出資している。例えば、19年12月にはメキシコのオンライン融資コンフィオ(Konfio)のシリーズD(1億ドル)に参加し、19年には企業に運転資金を融資する英グリーンシル(Greensill)に計15億ドルを投じた。さらに、19年5月にはメキシコのクリップ(Clip)が実施したシリーズC(1億ドル)に加わった。クリップは個人事業主などでもカード決済に対応できるPOS端末を手がける。

ソフトバンクによるフィンテック投資の多くが中南米向けなのは、この地域のテクノロジー企業に特化した運用資金50億ドルの「イノベーション・ファンド」が一因だ。中南米は19年にフィンテック投資が最も急増した市場の一つだ。

保険では、インドの保険比較サイト、ポリシーバザール(PolicyBazaar)や家財保険アプリの米レモネード(Lemonade)に出資している。

さらに、インドの決済アプリ、ペイTM(Paytm)の親会社ワン97コミュニケーションズ(One97 Communications)の少数株も保有している。

モビリティー

ソフトバンクはこの2年間で自動車やモビリティー分野の企業12社に出資している。ライドシェア大手のウーバーと米グラブもその中に含まれる。

だが、ソフトバンクの自動車分野への投資はライドシェアにとどまらない。同社は自動運転スタートアップに数十億ドルをつぎ込んでいる。19年2月には自動運転車のスタートアップで、現在は生鮮品などの配達を手がける米ニューロ(Nuro)に9億4000万ドルを出資した。ニューロには生鮮品配達という自動運転技術の明確な用途があるが、いずれは自動運転の長距離トラックや物流などこの技術の利用を拡大する可能性がある。ソフトバンクはウーバーの自動運転開発部門「アドバンスト・テクノロジーズ・グループ(ATG)」がウーバーの上場前に分社した際、トヨタ自動車デンソーと共同で10億ドルを出資した。

BtoB

ソフトバンクはBtoB事業にも力を入れている。同グループは業務の効率化を手がける企業12社に出資している。

米オートメーション・エニウェア(Automation Anywhere)はデータ入力やカスタマーサービスなど定型業務の自動化を支援するロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)のスタートアップだ。RPAは効率を高め、人的ミスを減らすことを約束する新しい分野で、多くの業界が事務管理部門のコストを大幅に削減できる可能性がある。ソフトバンクGは18年11月にオートメーション・エニウェアに3億ドルを出資したほか、19年11月には同社のシリーズB(2億9000万ドル)にも参加した。オートメーションの企業価値は68億ドルになった。

ソフトバンクは法人向けに在庫管理用などの自走式ロボットを手がける米フェッチ・ロボティクス(Fetch Robotics)にも投資している。19年7月にフェッチの資金調達ラウンド(4600万ドル)に参加した。

ヘルスケア

ソフトバンクは18年初め以降、バイオテックや薬局、医療保険などのヘルスケア企業8社に出資している。

20年1月にはオンライン処方薬を配達する米アルト・ファーマシー(Alto Pharmacy)のシリーズD(2億5000万ドル)に参加した。アルトの企業価値は10億ドルになった。一方、19年9月にはバイオテック企業の米10Xゲノミクス(10X Genomics)の上場により、エグジット(投資回収)に成功した。ソフトバンクは18年4月に10XのシリーズD(5000万ドル)に参加した。10Xの上場時の時価総額は36億ドルだった。

ソフトバンクはこの他にも、英製薬ベンチャーのロイバント・サイエンシズ(Roivant Sciences)、創薬スタートアップの米リレー・セラピューティクス(Relay Therapeutics)、医療保険サービスの米コレクティブヘルス(Collective Health)などに出資している。

不動産

ソフトバンクによる最も注目度の高い不動産関連の投資は、ウィーワークにつぎ込んだ約95億ドルだ。ソフトバンクはウィーワークの資金調達ラウンドに計5回参加しているほか、転換社債や既存株主からの株の買い取りにも応じ、融資(60億ドル余り)も提供している。さらに、ウィーワークのアジア太平洋部門3社(ウィーワーク・ジャパン、ウィーワーク・チャイナ、ウィーワーク・パシフィック)それぞれに1回は出資している(18年以降では1件のみ)。

ソフトバンクによるウィーワークへの度重なる投資により、ウィーワークの企業価値は470億ドルと世界屈指の規模に達した。ところが、その後9カ月たらずで問題が相次いで発覚し、企業価値は8割以上減の80億ドルに下がり、上場計画は棚上げされた。

ソフトバンクはウィーワーク以外にも、建設スタートアップの米カテラ(Katerra)、環境に優しいガラスを生産する米ビュー(View)、不動産プラットフォームの米コンパス(Compass)などに出資している。

ソフトバンクはこのほか、旅行やエネルギー、通信などの分野にも積極的に出資している。

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