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ヘディングは危険か 少年らへの制限、当然の流れ
サッカージャーナリスト 大住良之

2020/3/5 3:00
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ボールを頭でたたいてシュートしたり、パスしたり、またクリアする――。ヘディングはサッカーにしかない技術だ。クロスが上がってゴール前で両チームの選手が懸命にジャンプし、得点を争う競り合いは、サッカーで最も心躍るシーンの一つだ。

ヘディングはサッカーで最も心躍るシーンの一つ。2月21日の浦和戦で湘南・石原直が頭でゴール=共同

ヘディングはサッカーで最も心躍るシーンの一つ。2月21日の浦和戦で湘南・石原直が頭でゴール=共同

だがそのヘディングが、いま危機にさらされている。

2月24日、イングランド、スコットランド、北アイルランドの3サッカー協会が、ある「ガイドライン」を共同で発表した。ユース年代でのヘディングに関する指針。11歳以下のプレーヤーには、練習ではヘディングをさせないという画期的なものだった。

ヘディングが脳に悪影響を与えるという警告は、数十年前から繰り返しなされてきた。けっして新しいものではない。しかし英グラスゴー大学が昨年10月、サッカー選手はそうでない人に比べ、パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患で死亡する割合が3.5倍も高いという研究を発表して、英国のサッカー界も真剣に考えるようになった。

そうした研究結果を受けての3協会のガイドラインでは、12~16歳にかけて少しずつヘディングの練習を増やしていくとしている。

米国でも、すでに2015年に10歳以下のプレーヤーのヘディングを禁じ、11~13歳のプレーヤーには、練習中のヘディングの回数を制限するルールがつくられている。脳振盪(しんとう)とその後遺症へのリスクを減らすためだ。

脳振盪への対応、日本でも厳格に

脳振盪は、近年強く注意が喚起されているスポーツ外傷である。

以前は、試合中に相手と頭をぶつけ合って脳振盪を起こしても、選手が「やります」と言ったらプレーを続行させていた。「試合が終わるまで、どこでどんな相手と対戦しているかもわからなかった」などと自慢げに語る選手も少なくなかった。

しかし近年では、これが極めて危険な状態であることが指摘され、脳振盪に対して厳格な対応が取られるようになっている。Jリーグでは12年に指針を作成し、日本サッカー協会も14年に指針をつくって脳振盪を起こしたときにどう対応するか、明確に示している。

2月29日、国際サッカー連盟(FIFA)の外に置かれていてサッカーのルール改正などを決める機関である国際サッカー評議会(IFAB)の年次総会が北アイルランドのベルファストで開催された。メディアの注目は、イングランドのプレミアリーグを中心に議論百出のビデオ副審(ビデオ・アシスタント・レフェリー=VAR)を今後どのように運用していくかにあったが、評議会終了後に出されたIFABからの声明のトップに書かれていたのは、「脳振盪が起こった場合の交代枠の増加について」だった。

通常、サッカーの公式戦では3人、延長戦にはいった場合には4人までの交代が認められている。しかし脳振盪を起こした選手が出た場合には、交代枠を増やして対応するというルールを、今年行われるいくつかの競技会で実験することにしたというのだ。そしてその競技会として例に挙げられたのが、7月から8月にかけて日本で行われる東京オリンピックだと説明された。

ヘディングで競り合う鳥栖・宮(左)と川崎・谷口(2月22日)=共同

ヘディングで競り合う鳥栖・宮(左)と川崎・谷口(2月22日)=共同

サッカーで脳振盪が起きる状況はさまざまだ。ゴールキーパーが相手選手と衝突したり、ときにはセーブした勢いでゴールポストに激突して頭を打ったりすることもある。しかし圧倒的に多いのが、ヘディングの競り合いだ。2人のプレーヤーが落ちてくるボールだけを見てジャンプし、それぞれ反対の方向にボールを飛ばそうと頭を振って頭同士を激突させる「バッティング」だ。

頭でボールを打つだけでも、大きな衝撃がある。競り合いによるバッティングは、さらに大きなダメージとなる危険性をはらんでいる。頭を支える筋肉などが十分に発達していない少年少女やユース年代でヘディングを制限するのは当然の流れといえる。

ヘディング誕生、センセーションに

サッカーの誕生は1863年。だがこのときには、まだ「ヘディング」という技術はなかった。高く上がったボールは、手を使って「フェアキャッチ」をすることが許されていたからだ。頭でボールを打つ「ヘディング」を発明したのは、サッカーが生まれてから数年後、ロンドンと並んでサッカーが盛んだったシェフィールドのプレーヤーたちだった。

1860年代後半、シェフィールドの選抜チームがロンドンに遠征し、ロンドン選抜と対戦したとき、シェフィールドのプレーヤーたちが高く上がったボールをジャンプしながら頭で味方に送るプレーを見せ、センセーションになったという。

以来、ヘディングはサッカーに欠くことのできない技術となった。ヘディングが弱いチームが成功を収めることはできない。

サッカーからヘディングの魅力を削り取ることはできない。だが幼いころからヘディングを繰り返すことによる脳へのダメージという研究報告とともにバッティングによる脳振盪の危険もあり、トレーニング方法、頭を守る用具など、真剣な検討が必要な時代が訪れつつあるのは間違いない。

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