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進む投手の働き方改革 記録・評価めぐり難問次々
編集委員 篠山正幸

2020/3/3 3:00
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平成の初めの年(1989年)、プロ野球のセ・パ両リーグで38人いた規定投球回数到達投手は令和初年の昨季、15人となった。一般社会に先駆けて始まった投手の「働き方改革」は記録の扱いや表彰規定など、評価基準の変更を迫るほどの激変をもたらしている。

5回投げない先発は表彰対象にならず

「先発は5回って、誰が決めたんだろうね」。日本ハム・栗山英樹監督が、そう語ったのは昨季、先発が短いイニングを投げる「ショートスターター」の戦法について触れたときだった。

「先発は5回」とは、五回まで投げないと、先発は勝ち投手の権利が得られない、という決まりのこと。スターターは試合の滑り出しで、まず相手をぴしゃりと"完封"し、勝利への道を固める戦法。うまくいけば、試合を締めくくる抑えにも劣らない殊勲となるはずだが、現行のルールでは表彰規定の対象になる評価は与えられない。

将来、もしこの戦法が定着した場合、その辺のルールを変える必要はないか……。栗山監督のコメントにはそうした示唆が含まれているように思えた。

ショートスターターを取り入れるにあたり、日本ハムは年俸の査定面での配慮など、投手の労が報われるよう準備したという。プロだから、金銭面で報われればそれでいい、という話ではあるのだが「10勝投手」といった形で名を残すのは難しくなる。選手にとって、決して幸せなことではない。

野球の変質は抑え投手のセーブの採用(74年)、中継ぎに与えられるホールド(96年採用、セ・リーグは当初リリーフポイント)などに反映されてきた。時代に応じたルールの改変、追加が不可欠、不可避なのは当然として、難しいのは記録の継続性をどう考えるか、という点だ。

田中が楽天時代にマークしたシーズン24連勝は往年の大投手の記録と比較された=共同

田中が楽天時代にマークしたシーズン24連勝は往年の大投手の記録と比較された=共同

楽天時代の田中将大(ヤンキース)が2013年に24連勝をマークしたとき、「同一シーズン内の連勝記録で、稲尾和久さん(西鉄=現西武)を抜く」「シーズン24勝は78年の近鉄・鈴木啓示さん(25勝)以来」と、日本を代表する投手の名が出てきた。

大エースが肩も壊れよと、ガンガン投げまくっていた稲尾さんの時代と現代では、それこそ根本的に野球が違うから、単純に比較していいというものではない。しかし、基本的には同じ規定を適用したなかでの数字だから、こういう書き方をしても差し支えない、ということになる。

これがもし、勝ち投手の権利の規定が変わるということになると、古今の投手を同じ土俵には上げられなくなる。

沢村賞のハードル、現実離れの高さに

この問題に直面しているのが沢村栄治賞だ。先発・完投型の投手を顕彰するこの賞の基準は25登板、10完投、15勝、勝率6割、200投球回、150奪三振、防御率2.50。基準といっても、すべてをクリアする必要はなく、あくまで目安にすぎないが、年々変化する投手起用法において、現実離れした高さのハードルになってきている。

こうしたなか、全基準をクリアした07年の日本ハム・ダルビッシュ有(現カブス)、09年の西武・涌井秀章(現楽天)、11年の田中将大、18年の巨人・菅野智之は例外中の例外である。ただただお見事、というほかない。

昨年は該当者なし。元巨人の堀内恒夫さんら、OB5人による選考委員会では15勝4敗の巨人・山口俊(現ブルージェイズ)、15勝8敗の日本ハム・有原航平が候補に上ったようだが、投球回数(山口=170回、有原=164回1/3)などがネックになったらしい。

昨年、巨人で15勝を挙げた山口は沢村賞の候補に上ったとされるが、選ばれなかった=共同

昨年、巨人で15勝を挙げた山口は沢村賞の候補に上ったとされるが、選ばれなかった=共同

200回という基準を掲げたままでいいのかどうか。投手の「働き方改革」が進むなか、基準を現実に合わせていくとすれば、投球回数や奪三振などの「量」よりも、質的な指標を重視する方向がありえるだろう。防御率、勝率の「率」に関しては絶対クリアすべき基準とし、投球回数、完投数などの「量」に関しては、看板は下ろさないにしても、選考委員の裁量でハードルを下げる、というやり方だ。

ただ、あまり甘くなると「継続性」が損なわれ、「沢村賞受賞者」という同じ枠のなかで、昔の投手もすごかったけれど、田中も大したものだ、といった比較が成り立ちにくくなってくる。

沢村賞の使命は3度の兵役の末に戦死したプロ野球草創期のヒーローの名と歴史を語り継ぐところにもある。「該当者なし」では賞の存在が忘れられかねず、そこに選考委員のジレンマもある。

記録の継続性を犠牲にしてでも、時代に即したルール改正をしていくべきなのかどうか。野球の変化に柔軟に対応しようと思えば、同じ物差しのもとで、今昔の選手を比べてみるという、長い歴史を持つプロ野球ならではの楽しみを捨てる覚悟も必要になってくる。この手の難問が、この先、いくつも出てくるだろう。

佐々木朗ら、沢村賞を目標に掲げる新人も少なくない

佐々木朗ら、沢村賞を目標に掲げる新人も少なくない

そう考えると、気が重くなるが、救いはロッテ・佐々木朗希やヤクルト・奥川恭伸ら、次代を担う人たちが、沢村賞を目標にする、と言ってくれていることだ。どれだけハードルが高いか、彼らが知らないはずはない。それでも「目指す」というのは、沢村賞の基準に投手の理想を見ているからだろう。

11年、プロ5年目の田中は2月のキャンプで「今年は沢村賞を取る」と宣言して、取ってみせた。理想が若い人を育てる。古色蒼然(そうぜん)とした基準ではあるが、その古さにこそ値打ちがある、ともいえるようだ。

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